拾った猫を家族にするには? 家族になった後は? 野良猫だったぽんたとの出会いからお別れまでの記録
公開日:2022/1/5
捨て猫を拾って飼おうと決めたら、まずやるべきことはなんだろう? お風呂に入れる? 餌をあげる? 正解は、動物病院に連れていくことである。
『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(宮脇灯子/河出書房新社)は、捨て猫を飼って看取るまでを綴った、朝日新聞社が運営する犬猫webサイト「sippo」に連載されていた記事に加筆修正した書籍だ。捨てられている動物に手を差し伸べるとは具体的に何をすることなのか? 著者の宮脇灯子さんの飾らない気持ちが綴られている。
宮脇さんは、生まれてから一度も犬猫を飼ったことがない。しかし偶然に、野良のハチワレ猫と出会い、引き取る決心をする。捨て猫を拾って飼うことを「保護する」というが、飼育書の「保護した野良猫は家にはすぐに上げずに、その足で動物病院に連れて行き、健康状態を確認せよ」という指示を素直に実行に移そうとする宮脇さん。まずは動物病院まで猫を運ぶために、ペット用のキャリーバッグを買う。そしていざ動物病院へ。
獣医師の診断により、猫が雄であり去勢されていることが判明。つまり、以前はどこかの家で飼われていた猫ということだ。また、毛艶や歯の状態のチェックも。歯周病がひどいので、この猫は7~8歳だと判明。人間の年齢に当てはめると40代半ばになるそうだ。加えて、血液検査も。結果は問題なし。それから感染症予防のためのワクチン接種、栄養補給のビタミン剤注射、ノミダニ駆除薬投与、爪切り。野良猫が家猫になるための必須項目ということがわかる。
「ぽんた」という名が与えられた猫は、これでやっと家に上げられることになる。宮脇さんのお家は、ご本人とツレアイさんの2人家族で、それぞれ自宅を拠点に仕事をしている環境。そこに、新たな家族が加わるわけだが、やはり必要なのがしつけだ。ぽんたは既に成猫なので、これまでのぽんたの習慣と人間の都合とを摺り合わせなければならない。通常、捨て猫の保護はこれが大変とされるが、ぽんたの場合は割合とすんなり適合したとのこと。ぽんたが穏やかな気質だったことと、もちろん宮脇さんも試行錯誤しながら頑張ったからであろう。
2人と1匹になった暮らしが落ち着いてきた頃、ぽんたに慢性腎臓病がみつかる。猫の慢性腎臓病は完治手段がなく、進行を遅らせることしかできないそうだ。宮脇さんに、動物病院と家を往復する日々が始まる。自宅では、嫌がるぽんたの口にシリンジで療法食を注入することも。文章からは、ぽんたが苦しむのはつらいが今できることをやるしかないという悲痛さが伝わり、自分が宮脇さんの立場だったらどうするだろうかと考えさせられる。
残念ながら、ぽんたは宮脇さんと1114日間を共に過ごした後、天国に旅立つ。家族の一員である大切なペットの看取り、葬儀、お墓をどうするかについても具体的に書かれているので、まるで自分もその場に立ち合ったかのように涙してしまった。しかしそこから宮脇さんが、毎日一緒にいた存在が失われた喪失感とどのように付き合っていったのか、予想外の温かな展開になっていく。
宮脇さんはぽんたを飼うまで、「犬や猫に幼児言葉で話しかけたり、子どものように溺愛したりする様子は、理解できなかった」という。同意だ。とはいえ、その命を守ることを引き受け一緒に生活する以上、当然情が湧く。本書に唸らされるのは、ペットは家族であるとともに、飼い主はその保護者である、という絶妙な距離だ。また、宮脇さんにぽんたを飼うことでこれまで接点がなかった人たちとの交流が広がっていくのを見ていくと、お金では買えない人生の豊かさにもはっとさせられる。
捨て猫の保護者になるということを具体的に教えてくれ、さまざまな読み手が共感できることが多い猫本だ。
文=奥みんす