閑話。思考は飛来する/小林私「私事ですが、」
公開日:2022/1/8
美大在学中から音楽活動をスタートし、2020年にはEPリリース&ワンマンライブを開催するなど、活動の場を一気に広げたシンガーソングライター・小林私さん。音源やYouTubeで配信している弾き語りもぜひ聴いてほしいけど、「小林私の言葉」にぜひ触れてほしい……! というわけで、本のこと、アートのこと、そして彼自身の日常まで、小林私が「私事」をつづります。
クマムシを量子もつれ状態にすることに成功したらしい。
つい先日そういったニュースが飛んできたのだが、あいにく量子力学に全く詳しくない。ので、調べてみる。
そもそも量子というのは物理学で用いられる、物理量の最小単位らしい。
マクロでなくミクロの世界。ところでマクロは”巨視的”と言うらしい。
“巨”と付いた言葉にはつい”見上げるような大きさ”を想像してしまうが、肉眼で見える大きさの物や事柄を指すそうだ。分子や原子などの多数の集合体のことも意味するという。
量子といえば”シュレーディンガーの猫”がとりわけ有名だが、大抵それが用いられる文脈では「見るまでは分かんないよね」の言い換えとして立ち回っている。
しかし、シュレーディンガーはこの思考実験を用いて、それに反論したのではなかったっけ。
これを拡張した”ウィグナーの友人”という思考実験があるそうだ。これは初めて知った。
どちらもミクロの量子論はマクロの世界でも妥当性を持つか、という実験で、観測するまでの状態は重ね合わせで不確定な状態であるという。
パラレルワールドのようなものなのだろうか。
例えば、私は今すぐにでも家を飛び出さなければならない用事が控えているのだが、しかしこの原稿の締め切りも迫っている。今私が採った選択肢は「この後の用事の相手に少しお待ちいただく」ということで、結果的に原稿は間に合う。
そういえば最近まで私は、世界五分前仮説は絶対に反論出来ないと考えていた。
現在私が予定に逼迫し、昨日の疲れによる筋肉痛を訴えていることも、それは5分前に作られたもので、それ以前の記憶も作られたものだ。そう言われてしまうとどうにも反論し難い。
ーある時点において作用している全ての力学的・物理的な状態を完全に把握・解析する能力を持つがゆえに、未来を含む宇宙の全運動までも確定的に知りえるー“ラプラスの悪魔”的超生物がそれらを作っていたとして、我々にはそれを知覚しようもないのだから。
いや、“不確定性原理”ー『観測』を微視的に捉えると、位置の測定誤差が生じる為、位置と運動量は同時に測れないーを用いることで、反論可能なのでは?という意見を見た。
平たく言えば世界を5分で構築出来る超生物も、量子の世界に生きるのならばその不確定性原理によって全てを同時に観測することは出来ないので、世界5分前仮説は成り立たない…だそうだ。
5分前行動とはよく言うが、この後の私の予定は現時点で20分後行動ということになっている。
困って部屋をぐるりと見渡してみると鉄琴がある。鳴らしたいがその5秒程度でやはり私のこの先の選択肢は変わるのだろう。こんな状況で鉄琴を鳴らす大人になっていくのだろう。
こんな風にいつも思考を飛来させ、いつも着地点が分からなくなってしまう。
俺はどこへ飛びたかったのだろうか。
こばやし・わたし
1999年1月18日、東京都あきる野市生まれ。多摩美術大学在学時より、本格的に音楽活動をスタートし、2020年6月に1st EP『生活』を発表。シンガーソングライターとして、自身のYouTubeチャンネルを中心に、オリジナル曲やカバー曲を配信し、支持を集めている。6月30日、デジタルオンリーの新作EP『後付』(あとづけ)を発表。また、5月に配信オンリーでリリースしたEP『包装』が、“サラダとタコメーター”(Acoustic Ver.) をボーナストラックとして追加、タワーレコード限定で発売中。J-WAVE (81.3FM) 「SONAR MUSIC」内「SONAR’S ROOM」毎週月曜日パーソナリティを担当中。
Twitter:@koba_watashi
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YouTube:小林私watashi kobayashi
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