発達障害の方の傾向や特性に合わせて学習するノウハウが詰まった1冊
公開日:2022/1/11
資格試験やTOEIC受験など、大人になっても「勉強」は必要だ。「目標に向かってがんばるぞ!」と気合は十分なのに、実は発達障害を抱えているために思うようにいかない……そんな悩みを抱えた人はいないだろうか。「計画が立てられない」「講義に集中できない」「自習ができない」など発達障害が原因となる学習障害はさまざまだが、実はやり方次第ではグンと効率があがるという。『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に勉強するための本』(安田祐輔/翔泳社)は、大人の学習支援の現場で採用している学習メソッドを、さまざまな「困った」にあわせて紹介してくれる1冊だ。
著者は鬱や発達障害による離職からの復帰を支援する「キズキビジネスカレッジ」などを展開する会社社長であり、実は発達障害の当事者でもある。過去にいじめにあい非行に走ったものの、一念発起してICU(国際基督教大学)に進学。その後、学びなおしをメインとした塾を開いたということで、自らの経験にも裏付けられた勉強法はとにかく親身でわかりやすい。
本書は「予定通りにできないのを何とかしたい」「勉強する気が起きないのを何とかしたい」「上手に講義が受けられないのを何とかしたい」「自習ができないのを何とかしたい」「試験本番の不安をなくしたい」の5章にわかれており、いずれも「自分の癖や特性」を客観的に理解した上で、解決するための方法(時にはデジタルアプリを使ったり、100円ショップのアイテムを使ったり)を教えてくれる。どの勉強法もちょっとした工夫で実践できるのもうれしいところだ。
たとえばADHD(注意欠陥・多動性障害)の場合、「学んだことをうまくノートに整理できない」という悩みを抱えている人がいる。書いた場所がバラバラだったり、メモが見つからなかったり……誰にでも覚えのあることではあるが、ADHDの人の場合はその頻度が極端に多くなってしまうという。原因は「不注意特性」にある。メモやノートを書いている間に他の事柄に注意が移ってしまって、どこに書いたかわからなくなってしまうのだ。
こうした悩みを解決するコツは、とにかく「1箇所にまとめる」&「検索性を高める」こと。メモをなくさないためには付箋や裏紙などをチョコっと利用せず、とにかくルーズリーフに統一するのも手だ(ルーズリーフなら並び替えができるので後で整理もしやすい)。予備校に通っていて配布プリントも多い場合には、仕切り式のファイルにルーズリーフもプリントもまとめて入れてしまうのもよいかもしれない。さらに検索性を高めるならパソコンでメモをとるのも有効だ(ちなみに本書ではメモアプリ「Evernote」をおすすめしている。写真入りで詳しい使い方も紹介されていてわかりやすい)。
本書で紹介されているメソッドは決して突飛なものではない。ポイントは自分の特性を自覚した上で、それをどうカバーしていくかであり、自己フォローが上手にできれば結果は出るし、結果が出ればどんどんやる気も出るだろう。表紙にある「挫折を繰り返してきた大人も結果が出るようになる」の言葉を信じてコツコツがんばる人の背中を、きっと本書が力強く押してくれるはずだ。
文=荒井理恵