戦闘シーンの映像を引き立たせる、こまやかな「色」使い/TVアニメ『鬼滅の刃』第5話
公開日:2022/1/7
夜の暗闇が遊郭を包みこんだとき、少年の前に鬼が現れる。路上で、あるいは遊郭の地下で、鬼たちは容赦なく少年たちに襲い掛かる。圧倒的な強さを誇る鬼たち。少年たちの刃は果たして鬼に届くのか――。
鬼との決戦の始まり――TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編・第5話は、1月2日にオンエアされた。このエピソードは原作コミックス第9巻第77話「轟く」から第79話「風穴」までの3話分をアニメ化している。これまでのTVアニメ遊郭編では、原作コミックスの2話分をアニメ1話分としてアニメ化してきたが、ここから先はアクションシーンが連続していくため、原作コミックスの消化速度も加速していくことになるのかもしれない。
鬼の首領・鬼舞辻無惨から血を分け与えられた上弦の陸・堕姫が、ついに深夜の遊郭に出現。鬼殺隊の竈門炭治郎を圧倒する。炭治郎は死力を尽くし、ヒノカミ神楽を放つが、堕姫には届かない。一方、鬼のにおいを察知し、遊郭の地下へ潜った嘴平伊之助は、そこで囚われた人びとを発見する。人びとを解き放とうとすると、帯が襲い掛かってきた。蚯蚓(みみず)のような帯に苦戦していると、囚われていた宇髄天元の嫁・須磨とまきをが戦いに参戦。捕まっていた我妻善逸も「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 六連」を放ち、帯を切り払う。やがて、そこに音柱・宇髄天元が合流する――。
上弦の鬼・堕姫と蚯蚓帯との対決。物語的にはシンプルな内容だが、夜の遊郭・遊郭の地下というふたつの戦場と、あちこちに挿入される回想シーンが入り乱れ、見ごたえのあるエピソードとなっていた。観ていると、あっという間にエンディングになってしまい、時間が経つのが早い~!と思わずにはいられない充実度だった。
この見やすさは、やはり本作の丁寧な描写、わかりやすい映像作りによるものが大きいだろう。遊郭編第5話で特に際立っていたのは「色」だ。
アニメの制作において「色」は、アニメ制作スタッフの総合力が発揮される表現である。本来、週刊マンガ雑誌で連載されていた原作コミックスには、色が付いていない。昨今の電子配信では彩色されたコミックスが発売されることもあるが、アニメでは劇中の時間帯やキャラクターの立ち位置にあわせたライティングや色彩表現がなされ、さらにキャラクターの感情表現にあわせて多彩な色が使われている。色味を見るだけで、ドラマの状況がわかるという特徴が、アニメの「色」にはあるのだ。
まず、アニメの画面の大部分を占める背景の色は、美術ボードによって方向性が定められる。美術ボードとは、美術監督が先行して描くシーンのキーとなる背景のこと。背景スタッフはそのボードを見本として、数多くのカットを描いていくことになる。続いて、この美術ボードの色味や彩度、光源などをベースにして、キャラクターの色味を決めていく。キャラクターの基本的な色は、キャラクターデザイナーと色彩設計の担当者によって緻密に決められている。髪の色、肌の色、瞳の色、唇の色、衣服の色、小道具の色……その基本色から、色彩設計や色指定のスタッフが美術ボードとシーンを参考にして、各シーンの色味を作っていく。実際にカットの彩色をしていくのは仕上げのスタッフだ。そして、その色が付いたカットに、撮影スタッフがさまざまなフィルターをかけて背景とキャラクターの色味を馴染ませていく。もちろん、その全ての作業をコントロールし、調整するのは監督や演出の役目だ。画面の色味を決めるのは、制作現場全体の総合力が問われる部分とも言えるだろう。
第五話には、深夜の遊郭での戦闘シーン、蝶屋敷で修行をする回想シーン(屋外)、蝶屋敷で体温を測る回想シーン(室内)、夜の荻本屋のシーン、遊郭の地下道のシーン、帯の鬼がいる地下のシーン、などがある。それぞれにシーンの明るさが違い、光源が違う。当然、キャラクターの微妙な色味も違っていて、細かく使い分けられていることがわかるはずだ。また、シーンの色だけでなく、炭治郎がヒノカミ神楽を放つシーンでは、炭治郎や堕姫の身体に照り返しが入るし、地下で善逸が「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 六連」を放つシーンではまぶしいフラッシュのような光が照らされる。そういった細かい部分は、おそらく撮影のセクションで色味を調整しているのだろう。第五話の美術監督は衛藤功二、色彩設計は大前祐子、撮影監督は寺尾優一の各氏。いずれも、ufotable作品に欠かせないメインスタッフだ。
いつだって鬼殺隊は、鬼にとって有利な夜の闇の中で戦っている。『鬼滅の刃』では戦闘シーンが常に夜になるため、色味やライティングが重要になってくる。いよいよ上弦の陸と鬼殺隊の戦いが始まる。色味の微妙な描き分けに注目すると、アニメ『鬼滅の刃』の映像のすごさがよりわかるだろう。