「箱根駅伝全国化」について議論すべき! 青学・原監督流リーダーシップ論/改革する思考

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公開日:2022/1/20

 箱根駅伝2022では、歴史的な快勝で6度目の総合優勝を果たすなど、陸上競技の指導者として数々の偉業を成し遂げてきた青山学院大学の原晋監督。『改革する思考』(原晋/KADOKAWA)では、同氏が異端児と言われながらも貫き通してきたリーダーシップ論を語る。ポストコロナの時代に求められるものとは。

※本稿は原晋:著の書籍『改革する思考』から一部抜粋・編集しました

改革する思考
『改革する思考』(原晋/KADOKAWA)

私自身は、「箱根駅伝全国化」について、まずは議論をするべきだと思っているんです

 陸上競技、そして箱根駅伝の可能性を広げるという意味で、私は箱根駅伝の全国化を提唱してきました。その方が、より魅力ある大会になると考えているからです。

 ご承知の通り、箱根駅伝は関東学連が主催しており、関東ローカルの試合です。かつて、全国の大学に門戸を開いたこともありますが、日本テレビ系列による全国中継が始まってからは、関東以外の学校の参加はありません。

 何度か、メディアを通じて私は全国化を唱えてきましたが、関係者の反応は芳しくありませんでした。その根っこにあるのは「箱根駅伝は自分たちのもの」という意識が強いこと、いや、強すぎるのではないでしょうか。

 もちろん、先人たちへの敬意は私にもあります。NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』でも描かれたように、ストックホルム・オリンピックに参加された金栗四三さんをはじめとした先輩方の尽力によって箱根駅伝が始まった。第二次世界大戦の間も、大会が開けるように知恵を絞った。そして戦後もいち早く大会を復活させ、その努力の積み重ねがいまの繁栄をもたらしたことは言うまでもありません。

 しかし、コロナウイルス禍を経て、私は日本が変わろうとしているのを感じますが、箱根駅伝も変わらなければならないと思うのです。

箱根駅伝が全国化したら、指導者にとってメリットが多いはずなんです

 オンライン授業が当たり前になったら、大学の陸上競技部はどうなるでしょう? コロナウイルス禍では青山学院は全員が一緒にこの危機を乗り越えようと寮生活が続きましたし、長距離は団体競技としての面も強く、オンライン授業が続いたとしても、私は寮の運営と強化はセットだと思っています。

 ただし、選手全員を故郷に帰した大学もあり、こうなると「リモート練習」というものもシミュレーションしていかなければならないかな、とも思います。

 私としては、今回のコロナウイルス禍を受け、学生たちの生活に則して部の運営をするならば、箱根駅伝を全国区にすることが一番いいのではないかと考えるのです。

 それぞれの地域の大学が強化に乗り出せば、地元の学校に進む選手も多くなるでしょう。そうすれば、長距離選手の首都圏への一極集中という課題も自然と改善に向かうはずです。

 そしてもうひとつ大きなことは、指導者の雇用が生まれることです。これを見逃している人が多いのです。

 現状、大学長距離界の雇用情勢を見ていると、流動性が低いのです。私は2004年から青山学院を指導していますが、もしも監督の流動性が高かったら、どこかの大学から高給で契約のオファーが来ていたかもしれません。アメリカだったら、そうしたダイナミズムがあったかもしれない。しかし現実はそうなってはいないわけで、指導者がいろいろな場所で選手を教えることは陸上界の活性化につながると私は信じています。

 もしも、地方の大学が箱根駅伝を目指すことになったら、最初にやるのは、関東の大学の指導経験を持つ監督に声をかけることでしょう。いまは競争が激化していますから、監督だけでは部の運営はままならず、コーチが複数人必要です。核となるチームが地方に出現すると、その周辺の高校、地域のクラブも力を入れ出し、さらに雇用が生まれていくことになります。そうすれば、自然と陸上を愛する人が増えていくのではないでしょうか。

 地方の大学が陸上によって活性化していくとなると、地方に負けてたまるかと、今度は関東の大学がさらに強化に力を入れるはずなのです。そして名門校にはプライドもあるでしょうから、人材の獲得、競技施設の充実などが図られていけば、レベルはますます上がっていく。

 いま、書いていて思いついたのですが、大学が各地に「サテライト・キャンパス」を設けるかもしれません。まだ、思いつきの段階ですが、たとえば青山学院が私の故郷である広島にサテライト・キャンパスを作ったとする。だとしたら、中国、四国、九州出身の学生は、そちらのキャンパスで学ぶかもしれないので、サテライトで練習できる環境を作り、そこにコーチがいる――。こんなプランも浮かんできます。ひょっとしたら、私は東京と広島を往復しながら指導するようなことがあるかもしれません。

 時代に合わせて、陸上も、部活動も変化しなければなりません。私はどんどん思いつきを話していきますが、間違いないのは、競争原理を導入することで、箱根駅伝が全国でより人気を博するようになるということです。

 今まで培ってきた権利ばかりではなく、マクロ的な視点での運営が必要なのではないでしょうか。

箱根駅伝のアイデア? たくさんありますよ

 こうしたアイデアを言葉にしていくのは、やはり野球、サッカー、ラグビーに後れを取ってはならないという危機感からです。大局的視点に立ってみれば、残念ながら陸上競技はマイナーの域を出ません。

 箱根駅伝が真の全国的な大会、コンテンツになるためには、改革する思考を発動する必要があると私は思うのです。

 門戸の開き方はたくさんあります。なにも、全国枠を用意する必要はありません。予選会をオープンにするのでもいい。少なくとも「道」が箱根駅伝につながってさえいれば、全国が活性化するはずなのです。

 運営についても、「箱根駅伝にはこんなことができるんじゃないか」と思いついたものがたくさんあります。

・大手町、箱根のスタート、ゴール地点で仮設スタンドを設置し、チケットを販売する。その収益を各大学の奨学金や、強化費へと充てる。

・選手たちが走るコースを、選ばれたファンの方が走ることができる。ただ単に走るのではつまらないので、家族でタスキを渡したりするなど、「絆」を感じさせるような演出にしたい。協力費を頂戴し、それを奨学金などに使うことをご了承いただく。

 こうしたアイデアを出すと、必ず「箱根駅伝は商業目的ではありません」という反論をいただきます。

 これはまったくもって、商業目的ではありません。

 あくまで、選手の活動、そして学生たちが大学で学ぶための助けになるためのものです。

 私が唱える「理念」「ビジョン」に沿って考えるなら、大学での陸上競技部の活動は教育の一環です。

 ただし、環境は大学によって千差万別で、選手の経済的な自己負担もかなりあります。関東の大学で陸上を続けるなら、経済的な援助が受けられるとなれば、より陸上を選んでくれる若者が増えるはずです。

<第7回に続く>