前澤友作氏の宇宙旅行でぐっと身近に! 宇宙から地球に電話はできる? JAXAの先生が教えてくれる「宇宙のきほん」
公開日:2022/1/15
2021年末、実業家の前澤友作氏が日本人の民間人としてはじめて国際宇宙ステーションISSに滞在した。多くの人にとって不思議なもの、謎のもの、あるいはロマンティックなものであったろう「宇宙」が、こうしたニュースのおかげでぐっと身近な存在になってくる。これからもますます増えそうな宇宙がらみのニュースをより理解するためにも、「宇宙の基礎知識」はおさえておきたい――このほど登場した『JAXAの先生! 宇宙のきほんを教えてください!』(中谷一郎/ポプラ社)は、そんな気分にぴったりの一冊だ。
著者の中谷一郎氏は、JAXAで科学衛星やロケットの開発を手掛け、JAXA名誉教授として宇宙科学の啓蒙活動で知られる人物。本書では宇宙に関する初歩的な疑問に答えるだけでなく、「宇宙インフレーション理論」を解説するなど内容も幅広く、さらにタイトルが「基本」ではなく「きほん」とあるように、とにかくわかりやすく教えてくれる。宇宙に関心のあるお子さんなら小学校高学年からチャレンジ可能で、きっと好奇心をぐんぐん育ててくれることだろう。
ちなみに本書では以下のような「素朴な疑問」が宇宙の「きほん」を理解する入り口になるという。いくつかとっつきやすいものをピックアップしてご紹介しよう。
Q. スマホを持って宇宙にいったら、地球に電話をかけられる?
A. NO。スマホは地表を数キロメートルの領域に分割して、その領域内で通信を確保しているので、宇宙空間は「圏外」になってしまう。さらに重大な障害は宇宙には危険な放射線が降り注いでいること。地球から持っていったスマホに用いられている部品の多くは放射線の影響ですぐに壊れてしまうため、使うのが困難となる。
Q. 宇宙空間に打ち上げられた人工衛星はなぜ落ちてこない?
A. 実は人工衛星も地球の重力に引っ張られて常に落ちてきている! ただし、人工衛星の進む速度が猛烈に速いため、落下する先が地表ではなく、はるか上空の軌道上となっている。
Q. 何も目印のない宇宙空間で、探査機が目的地にたどりつけるのはなぜ?
A. 惑星探査機は目標天体に直線的に到達するわけではない。地球から探査機に電波を送り、折り返されてきた電波を測定してコンピュータで軌道を解析。火星や小惑星など遠くの天体に行くときには驚くほど高い精度で軌道を決め、軌道修正を繰り返すことでようやく目的天体にたどり着く。地球への帰還も同様だ。
Q. 私たちと仮想の星Xに住むX星人がいるとしたら、仲良くなれる?
A. まず地球人とX星人はまったく異なる環境に住んでおり、それぞれの環境に適合した常識を持っていることを心しておこう。「見えるもの」「聞こえるもの」の種類もまったく違い、両者の感覚の違いはあまりにも大きい。当然、常識もかけ離れており、おそらく両者が出会ったら、お互いを「とてつもなく風変わりな生物」と思うに違いない。仲良くするためにはかなりの努力と想像力が必要だろう。
本書では、こうした「素朴な疑問」を入り口に詳細な宇宙論へと誘っていく。さらに先端科学が生んだ特殊な道具(科学衛星、電子顕微鏡、惑星探査機、大型加速器、巨大な望遠鏡…)が見せてくれる世界は「拡張現実」とした上で、機器の詳細も含めて「宇宙の実相」を教えてくれる貴重な一冊。著者は私たちの多くが「日常的な経験」でつくられた常識の中だけで生きていることを嘆くが、おそらく本書によって、あなたの「世界の見え方」が更新されるに違いない。
文=荒井理恵