『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る(クリエイター編):作曲家・滝澤俊輔インタビュー

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公開日:2022/1/21

2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。クリエイター編のインタビュー第3弾には、作曲家・滝澤俊輔氏に登場願った。作曲・アレンジに加えて、ライブではキーボーディストとしてステージにも立った滝澤氏が、『シンデレラガールズ』の楽曲と向き合う上で大切にしていることとは――。

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メロディを大切にすることだけは、ずっと心がけてきました

――『シンデレラガールズ』が10周年を迎えたことについて、どんな感慨がありますか。

滝澤:あっという間というか、10周年と聞いて「もうそんなに経ったんですか」って思いました。関わるようになった当時、僕も作曲家としてもまだまだ経験が浅い状態で、『シンデレラガールズ』とともに成長させていただいたと思いますし、無我夢中で『シンデレラガールズ』と一緒に歩いてきたつもりです。だから10年という意識は特になく、振り返ればそんなに経ってたのか、という感じですね。

――『シンデレラガールズ』は、プロジェクトに関わる方の熱量がずっと持続している印象がありますけども、滝澤さんがクリエイターとして関わってきて、『シンデレラガールズ』がこうして熱量を獲得している理由についてどう感じますか。

滝澤:もちろん、応援してくださるプロデューサーさんの熱量が高いこともあると思いますし、僕がクリエイターとして関わらせていただいていて、キャストの方々もクリエイター陣も、スタッフの方々も含めて、『シンデレラガールズ』に対する愛がすごく深いなって感じます。それに加えて、音楽プロデューサーの柏谷(智浩)さんが、作品に寄り添った上でクリエイターの自由度をものすごく尊重してくださる方なので、作家も遠慮なく思い切りできるというか。自由な作品、攻めた作品が増えて行ってると思います。クリエイター同士の相乗効果もあるような気がします。

――滝澤さんが『シンデレラガールズ』の楽曲制作において楽しいと感じる部分と、逆に難しいと感じること。それと、ご自身の中で「ここは絶対ブレないようにしよう」と設定している軸について教えてください。

滝澤:楽しいのは――僕の曲は生楽器を収録させていただくことが多いんですけど、いわゆる編曲作業ですね。作曲が終わったあとの編曲作業で、頭の中で描いていた音が具現化されていくのは、いつも楽しいし、ワクワクします。逆に難しいのは、作曲の段階でいわゆる0から1を作り出す作業ですね。そこは本当に苦しい部分も多くて、自分が「これで正しい」と思ったとしても、プロデューサーさんたちがどういうものを求めてるのかを考えたりするので、作ってはまたやり直して、を繰り返しています。「これで良かったのか?」という悩みや不安は、曲が世の中に出るまでずっとありますね。ブレない軸として考えているのは『シンデレラガールズ』らしさです。抽象的になりますが、キラキラしたファンタジーな世界観や、どこかにかわいさが残るように、必ず意識しているところはあると思います。

――ご自身の曲へのプロデューサーさんからのリアクションで、嬉しかったことはありますか?

滝澤:7thライブの大阪公演(THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 7thLIVE TOUR Special 3chord♪ Glowing Rock!)で、キーボーディストとしてステージに立たせていただいたんです。そのときに、初めてファンレターというんですかね、会場にお手紙を持ってきてくださった方たちがいて。それを本番が終わってから読んだんですけど、そのお手紙から感謝の思いが伝わってきて――「楽曲を産み出してくださって、ありがとうございます」「楽曲を支えにしています」という言葉をいただいたときに、逆に僕はその言葉を支えに頑張れてるよ、と思いました(笑)。そうやって、喜びの声をかけてもらえるのは、とにかく嬉しいですね。

――声優さんが演じるアイドルがメインのライブで、クリエイターさんにファンレターが届くって、なかなかないことじゃないですか?

滝澤:そうだと思います(笑)。以前、『CINDERELLA PARTY!』というラジオに出させていただいときに、僕のプライベートな話題にいろいろ突っ込まれまして、そこから「フラれるといい曲を書く」という話が出回ったりして。その大阪の公演のときには、『モテるメール術』みたいな本も送られてきたりしました(笑)。ネタだとは思うんですけど、ラジオとかも聞いてくださって、わざわざ用意してくださったんだなって思うとやっぱり嬉しい気持ちがありました。

――滝澤さんのパーソナリティが、だいぶプロデューサーの皆さんに伝わっているんですね。

滝澤:いやあ、これだけ筒抜けになっていいのだろうか、とも思うんですけど(笑)。でも、ラジオもしかりですけど、作品を通じて裏側にも興味を持っていただいてるんだなって思うと、それだけ作品に対する愛が深いんだな、とも感じますね。

――滝澤さんは2015年放送のTVアニメの主題歌や挿入歌も担当していましたが、『シンデレラガールズ』のTVアニメに関わったことは、どのような経験になりましたか。

滝澤:個人的な話になるんですけど。2期の主題歌の“Shine!!”は、自分にとってTVアニメの主題歌を書かせていただく初めての経験だったんですよね。だから余計に、思い入れがあって。プラス挿入歌も担当していて、エンディング曲の編曲もやらせていただきました。“夕映えプレゼント”と“夢色ハーモニー”ですね。始まりと最後に必ず僕が関わった音楽が流れていて。本編中は視聴者としてアイドルを見守る気持ちなんですけど、楽曲の部分では、曲の親のような気分で、子どの運動会を見ている感じでした(笑)。毎週、最後までソワソワしながら観ていた気がします。

――TVアニメの終盤は、ハラハラする展開もありましたね。

滝澤:確かに。そんな中、“心もよう”という挿入歌を使っていただいたんですけど、それも終盤のいいところでかかっていました。「作品の世界観を壊さないかな」と心配しながら見ていたんですが、いつの間にかもう作品に心打たれて、泣きながら見ていました(笑)。

――(笑)以前イノタクさん(TAKU INOUE)が、滝澤さんが作曲した“はにかみdays”や“Shine!!”を称して、「ガツンとドストレートに殴ってくる感じのポップス」と表現されていたことがあって、面白い形容だなあと思いました。滝澤さんが作っている曲がある種『シンデレラガールズ』の王道をいっているのだとして、滝澤さん自身はその王道にどうやってアクセスしているんでしょうか。

滝澤:王道にぶつけることを常に意識しているわけではないですが、自分の作り方として、メロディを大切にすることだけはずっと心がけてきました。たぶんその結果、イノタクさんの言うポイントを押さえるような形になったのかもしれないですね。ちょっと話が脱線しますが、僕の祖父はすごく音楽が好きなんです。僕は、作曲自体は小学生くらいからやっていて、今も趣味の延長で仕事をさせていただいてるような感覚もあるんですけど、祖父は僕の生まれる前から目が見えなくて、音しか聞こえないんです。僕は中学生の頃から毎年、1年間に作った曲をCDに焼いたりして、夏休みに遊びに行ったときに、祖父に曲を聴いてもらっていました。

それは、大人になって仕事をするようになってからも続けていて、祖父は目が見えないから、普段ラジオを聴いていて、流行りの音楽もたくさん聴いていたんです。当時88歳だったんですけど、80代の祖父が、「最近の流行りの音楽は、自分に言わせたら祭囃子だ」と言ってたんです。「どういう意味?」って聞いたら、「盛り上がってるだけで面白くない、同じようなものが続いてるだけだ」と言うんですね。でも“Shine!!”を聴いたときに、「これはメロディが素晴らしい」と言ってくれて。「おまえも仕事として流行りのものを作っていかなきゃいけないのはわかるけど、メロディだけは大切に作りなさい」って、そのときに言われて。そこから、メロディにはさらに気をつけて曲を作るようになりました。一方で、僕のまわりの友だちの子どもにも『シンデレラガールズ』にハマっている女の子がいて、小学生入る前くらいの子なんですけど、僕に会ったときに「“ツインテールの風”が好き」と言ってくれたりして。そう考えると、ものすごく年齢層が幅広いじゃないですか。

――確かに!

滝澤:僕の持論なんですけど、メロディさえちゃんと書けていれば、年齢がそれだけ離れていても、どこかで響くところはあるんじゃないかなって思っています。それが、自分が特にメロディを意識している、ということだし、それが僕の作風だと思います。柏谷さんからも、だから僕の作品が『シンデレラガールズ』の世界観にマッチしてるんじゃないかなと、お話ししていただいたことがありますね。

精一杯美しい曲を書くことで、恩を返していけたら

――今までに作ってきた『シンデレラガールズ』の楽曲の中で、滝澤さん自身がクリエイターとしての新しい一面を切り拓けたと感じた楽曲はありますか。

滝澤:一番大きかったのは“EVERMORE”だと思います。“EVERMORE”は、田中秀和さんと初めて共作で作らせていただいた楽曲で、共作すること自体が初めてだったんですけど、一緒に作るとお互いの癖やこだわりが出てくるんですよね。たぶん、秀和さんと僕の感性も似ていて――似ているけど、作り出すものは違うふたりが作っていたので、すごく勉強になりました。それ以降の作品では、どこかに秀和さんのサウンドの影響が出ているところがあると思います。専門的なところでいうとコード、和音の作り方もそうなんですけど、すべての工程を秀和さんと一緒にやったことで、自分以外のやり方を見るのも初めてだったし、学べることも多くて、「この技、盗みたい」って思うことがたくさんありました。

――滝澤さんは、佐久間まゆのソロ楽曲を2曲担当していて、“マイ・スイート・ハネムーン”では作詞もしていますよね。今回の特集では、まゆ役の牧野由依さんにもお話を聞いていますが、滝澤さんから見た佐久間まゆ楽曲を作る上での面白さは、どのようなところに感じていますか。

滝澤:やっぱり、プロデューサーに対してすごく一途で、深すぎる愛が怖く見えることもある、みたいな子だと思うんですけど、その設定だけで十分個性的なアイドルですよね。ただ、あくまで僕の妄想なんですけど、佐久間まゆがアイドルとして生きている限り、プロデューサーさんと結ばれることはないとわかっているんじゃないかなって思ったりします。そう考えると、叶わぬ恋だと知りながら好きな人のために輝き続ける、実は健気で切ない気持ちを隠しているアイドルなんじゃないかな、という背景を想像する余地があると思っています。表面的なアイドルのキャラクター性が持つ魅力以外に、いろいろな想像ができるところが、面白さのひとつなんじゃないかなって思います。

――滝澤さんが想像している部分は、歌詞にも反映しているんですか。

滝澤:いま話したことはあくまで僕の解釈なので、作詞のときは入れないようにしていたと思います。ただ、めちゃくちゃ悩みました(笑)。というのも、1曲目の“エヴリデイドリーム”で八城雄太さんが作詞をされていて。その歌詞がものすごく素敵だったので、1曲目、2曲目と並んだときに、印象が弱くなっちゃったらイヤだな、と思っていて。だから、まゆについて1から調べ直しました(笑)。それこそ、牧野さんにも相談して、松任谷由実さんの歌詞を読め、みたいなアドバイスをいただいた記憶があります(笑)。牧野さんは佐久間まゆの声優として、僕も作り手として佐久間まゆについて考えて、精一杯プロデューサーさんが求めているものに近くなるように作ったつもりです。ほんっとうに悩みました(笑)。

――(笑)冒頭に話してくださったように、いろんなクリエイターさんが攻めた楽曲を作って、それが受け入れられてるのが『シンデレラガールズ』の面白さだと思いますが、滝澤さんが他のクリエイターさんの楽曲を聴いて、「やられた!」と感じた曲はありますか?

滝澤:いっぱいあるんですけど、最近衝撃だったのは“OTAHENアンセム”ですね。ビックリしました。“お願い!シンデレラ”のモチーフを使って、サビの歌詞を変えて曲が作られているんですけど、歌詞もかなり過激なんですよね。作詞・作曲の佐藤貴文さんの勇気もすごいと思うし、それを製品にすることにGOを出したスタッフさんの気概がすごい(笑)。すべてが攻めてるなと思って、もうほんとに笑いましたし、拍手したい気持ちになりましたね。なかなか自分には書けないというか、あの勇気は出せないです(笑)。

――(笑)『シンデレラガールズ』では、取材で話すと「言質」を取られて、そのアイドルのソロ曲の発注が来ることがある、という話を聞いているんですが、滝澤さんが「このアイドルの曲を書きたい」をここでぜひ表明していただきたいです。

滝澤:書かせていただく曲が、わりとキュート系やバラードの曲、“きみにいっぱい☆”というパッション系の曲などで、クール系のカッコいい曲を『シンデレラガールズ』で書いたことがないんです。そういう曲を作ってみたい願望はあって、アイドルだと渋谷凛や二宮飛鳥の、シンセやギターが目立つようなカッコいい曲を書いてみたいです。ぜひ、この願望が届くと嬉しいです(笑)。

――(笑)ライブのお話を聞きたいんですが、滝澤さんにとって印象的だったライブと言えば、やはり先ほど話してくれた7thの大阪公演になりますか?

滝澤:そうですね(笑)。プレイヤーとしても舞台に立たせていただいて、一生忘れられない経験です。僕らは基本的に表舞台に立つ人間ではないので、自分が作った曲を自分で演奏して、プロデューサーの皆さんにお届けできるのは本当に貴重な体験でした。それこそ、牧野さんとアコースティックのコーナーをやらせてもらったんですけど、そこで聞いた拍手の音は今も鮮明に残っているし、たぶん一生忘れることはないだろうなって思います。

――滝澤さんは、10周年ベストアルバムに収録された“EVERLASTING”を、“EVERMORE”と同じく田中さんとの共作曲で担当されていますが、どんな想いをもって制作に臨みましたか。

滝澤:まずは、大切な節目の楽曲でお声をかけていただいたことがすごく嬉しかったのと、制作自体はとても楽しかったんですよね。秀和さんと、睦月周平さんも一緒に、3人で初めて作ったので、その過程は楽しかったんですけど、「10周年」というところがキモで。特別な感じで、でもただの王道に収まらない感じのバランスを意識しながら作りました。曲中に、10年の系譜を想起させるように、過去の『シンデレラガールズ』の楽曲を10曲セレクトして、モチーフを間奏に入れたりしているんですけど、いろんな人が聴いてその10曲を選んだことを納得してもらえるように、悩んだ記憶があります。

――共作曲の田中さんからは、「僕ら作曲家が『シンデレラガールズ』にできることは、自分たちが美しいと思う音楽を作ることしかないと思うので、頑張ってこれからも作っていきましょう」っていう、シリアスかつエモーショナルなメッセージを滝澤さん宛にもらったのですが、田中さんへのアンサーをお願いできますか。

滝澤:わかりました(笑)。以前、秀和さんとラジオに出させていただいたことがあって――先ほどお話した『CINDERELLA PARTY!』ですね。それがちょうど5周年の“EVERMORE”を作っているときで、僕が彼女にフラれて落ち込んでいたんです。で、そのときに秀和さんに話したら、「滝澤さん、僕らは曲を作るしかないですよ」って励ましてくださって。そこから“EVERMORE”で僕が作ったパートが気合の入ったアレンジに変わったというエピソードをラジオで話したんです。それをきっかけに「失恋すると良い曲を書く」と言われるようになりました(笑)。だから秀和さんの「僕らは美しい曲を書くしかない」というメッセージは、たぶんそのときのオマージュなのかなと(笑)。秀和さんは僕にとって初めてできた作曲家の友達であって、それから仲間でもあり、僕は勝手によきライバルだとも思っているんですね。なので、これからも一緒に『シンデレラガールズ』を盛り上げていきたいし、またぜひ共作もしたいです。一緒に美しい曲を書きましょう、と(笑)。

――では最後に、『シンデレラガールズ』が作曲家としての滝澤さんにどんな影響を与えたか、滝澤さんに何を与えてくれたのか、を聞かせてください。

滝澤:僕が作曲家として未熟なときから、たくさんの音楽を作らせていただいて、アニメであったり周年曲であったり、シンデレラバンドであったり、もらった影響は計り知れないです。たくさん夢をいただいた作品だなって思います。精一杯美しい曲を書くことで、恩を返していけたらと思います。

取材・文=清水大輔