戦国時代を生きろ! 乱世のカオスが“渦巻く”歴史ロマン小説『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾』
公開日:2022/1/23
戦国時代は、ハードだ。昨日の味方は、今日の敵。毎日が「生きるか死ぬか」の状況下で、生き延びるだけでも大変である。
でも、だからこそ、戦国時代を舞台にした物語は、楽しい。テレビの大河ドラマやゲームやアニメの影響もあって、今や日本人にとって、戦国時代は、最強の「エンタメ」ワールドである。生き抜くことがハードな時代だったことで、そこにはありとあらゆる種類のドラマが「渦巻いて」いるのだ。
本書『渦巻いて 三河牧野一族の波瀾〈上巻〉』(岩瀬崇典/文芸社)は、まさにそんな戦国時代の乱世を舞台に、いくつもの世代にまたがって、100年以上に及ぶ壮大なタイムラインで描かれていく、歴史ロマン小説だ。主な舞台となるのは、東三河地方――現在の地図で言うと愛知県の東部で、中心都市である豊橋市や、パワースポットの「豊川稲荷」で知られる豊川市など、計8市町村が該当する。お隣の西三河地方が「徳川家康の出生地」として有名なのと比べると、フィクションのメイン舞台に選ばれる機会は意外と少ないエリアだけど、著者の岩瀬崇典さん(愛知県豊川市の出身)は、そんな故郷の豊かな歴史をより多くの人に知ってもらいたい!という思いから、本書をあえて「歴史小説」という形で執筆しようと思い立ったのだという。
物語は、その東三河で勢力をふるった「牧野一族」を中心に展開する。平家の血を受け継ぎ、四国から三河の地へ渡来してきた田口成富(のちの牧野成富)と、その息子で、吉田城(別名:今橋城)の築城主としても知られる牧野成時(法名:古白)らは、しだいに領地を拡大しながら、近隣国のライバルである戸田氏や今川氏、さらには新興勢力であった松平氏との激しい合戦に身を投じていくのだが……その先に待ち受けるのは、武士としての誇り、家族への愛情、敵の武将とのギリギリの心理戦、平和への尊い祈りなどなど、さまざまな葛藤が「渦巻く」乱世のカオスだ。
戦国時代を舞台としたフィクションの「醍醐味」として、もうひとつ忘れてはいけないのは、実在した「城」を舞台とした合戦シーン。本書の物語にも多くの城が登場するのだけど、中でも、もっとも激しい合戦の舞台となるのが「吉田城」――現在は愛知県豊橋市の豊橋公園内に模擬再建され、街のシンボルとしても親しまれているこの城は、牧野古白によって築城されて以来、大きな合戦が起こるたびに何度も城主が入れ替わったのだという。ある意味、「乱世」の象徴とも言えるドラマティックな運命をたどった城で、本書の中でも、たくさんの面白いエピソード(たとえば、吉田城が攻め込まれやすかった、建築構造上の重大な「弱点」とは……?とか!)が織り込まれている。その他にも牧野城、一色城、牛久保城などの実在した城が続々と登場するだけに、ここ最近、ブームの輪がますます広がりつつある「城マニア」の方にとっては、ニヤニヤが止まらない読書体験になること確実だ。
なお、今回の上巻では名前がちらっと出てきただけだった「徳川家康」が物語に絡んでくるであろう下巻も、2月1日に発売されるそう。すでに上巻を読み終え、続きの物語に一刻も早く「渦巻かれ」たい!と待ち切れなくなりかかっている方は、もう少しだけお待ちくださいませ。
文=内瀬戸久司