【本屋大賞2022ノミネート】タイトルの意味と謎が解けた時、感動で全身が震える! 大きな仕掛けが隠された連作短編集

文芸・カルチャー

公開日:2022/1/22

本屋大賞2022ノミネート! 『お探し物は図書室まで』が昨年の本屋大賞2021で第2位となった青山美智子さんの、絵画をめぐる連作短編集。
《以下の記事は(2022年1月1日)の再配信記事です。掲載している情報は2022年1月時点のものとなります》

赤と青とエスキース
『赤と青とエスキース』(青山美智子/PHP研究所)

 一枚の絵画に、他の組み合わせなど考えられないほど相応しい額縁が存在するように、私たち一人一人にも「この人以外考えられない」と思わされるようなピッタリの相手が存在するのかもしれない。そんな相手と巡り合ってしまったらどうしよう。相手もまた同じことを思ってくれていたらどうしよう。紆余曲折な人生をそんな人とともに過ごせたら心強いが、運命はどう転んでいくのか分からないものだ。

 青山美智子さんの最新作『赤と青とエスキース』(PHP研究所)は、一枚の絵画をめぐる連作短編集。著者の青山美智子さんといえば、『木曜日にはココアを』(宝島社)でデビュー、不愛想だけど聞き上手な司書さんの選書が悩める人たちの日常を照らしていく『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)では、2021年本屋大賞2位となったことも記憶に新しいだろう。青山さんの作品は、どの作品にも、人生につまずきを感じている人を包み込むような優しさがある。だが、最新作はそれだけではない。この作品には大きな仕掛けが隠されているのだ。ひとつひとつピースを集めるように物語を読み進めてくると、見えてくる一枚の大きな絵。その像が見えてきた時、その美しさに思わず息を飲んだ。物語を最初から読み返さずにはいられなくなった。二度読み必至。いや、この作品は、何度だって読み返したくなってしまう傑作なのだ。

 話の中心となるのはメルボルンの若手画家が描いた一枚の絵画。タイトルは「エスキース」。日本語で「下絵」を意味するその作品のモデルとなった女子大生のレイがこの作品の最初の主人公だ。

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 メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちた。だが、レイは1年の留学期間が終わったら、日本に帰国しなければならない。そこで、彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始めることになるのだ。だんだんと過ぎていく日々と、募っていく思い。そして、帰国間近となったある日、レイは、ブーの友人である若手画家の絵のモデルを引き受けたのだった。

 赤と青の2色の絵の具だけの水彩画には、その時のレイの姿がありありと描き出されていた。赤いブラウス。胸元の青いブローチ。斜め前にいる誰かを見つめる彼女はあまりにも切ない表情をしている。だが、その瞳には静かな寂しさの中に、たぎるような情熱も感じさせる。

 そんな絵画「エスキース」は、その後、日本へとうつされ、三十数年をかけて様々な人と出会っていく。ある時、この絵画は、既製品の制作を淡々とこなす毎日に迷いを感じている額縁職人のもとに現れ、またある時は、とあるカフェに飾られ、新星マンガ家と、活躍する弟子の姿に複雑な思いを抱える先輩マンガ家の対談を見守る。「エスキース」と出会った人たちはそれぞれ大きな悩みを抱えているが、この絵画との出会い、人との出会いが彼らを少しずつ前向きにしていく。

 恋人への愛、推しへの愛、弟子への愛、元カレへの愛…。この本に描かれているたくさんの愛に触れるにつれて、心がどんどん満たされていく。そして、クライマックスで見えてきた真実には驚かずにはいられない。人と人との繋がり、運命、絆…。タイトルの意味と謎が解けた時、感動で全身が震えた。ああ、なんて素敵なサプライズなのだろう。なんて幸せな物語なのだろう。青山美智子さんの新境地ともいえるこの温かい物語を、ぜひともあなたにも体感してもらいたい。

文=アサトーミナミ