『ミトンとふびん』『図解日本酒入門』『7.5グラムの奇跡』編集部の推し本6選
更新日:2022/1/24
ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、“イマ”読んでほしい本を月にひとり1冊おすすめする企画「今月の推し本」。
良本をみなさんと分かち合いたい! という、熱量の高いブックレビューをお届けします。
“大切な人の死”を考えながらも、異国の匂いも感じる『ミトンとふびん』(吉本ばなな/新潮社)
私が小学2年生の時、学校から帰ると目を真っ赤にした母に両手を掴まれ祖母が亡くなったことを知らされた。当時の私はただただ頷いて話を聞き、母に言われるままに行動したような記憶だ。命は尽きるもので別れは平等にやってくるとわかっていても、自分が母の立場だったらと考えただけで胸が詰まる。
吉本ばななさんの『ミトンとふびん』(新潮社)は、大切な人の死や別れと癒えない喪失を抱えて生きていく人たちを描いた短編集。昨年取材した際、吉本さんは両親を亡くしてしばらくの間、死という大きなテーマを“自分の幅”で書いていいとは思えなかったと話していた。けれども時が経ち親友の死、愛犬愛猫の死もあり、書く決意をされた本作を「もう悔いはない。引退しても大丈夫だ」と言い切っている(きっと次回作もあるだろうけど!)。
舞台は、金沢、台北、ヘルシンキ、ローマ…、「母親との別れを経験した女性」「夫に裏切られた女性」と境遇も様々な人たちが描かれているが、中でも清々しい読後感だったのが収録作「カロンテ」。お互い風景のように人生に存在していた主人公の幼馴染みが渡伊。紆余曲折あってイタリア人と婚約した先で亡くなってしまう…。主人公はローマに赴き親友の婚約者に再会しお互い深い悲しみとともに過ごすのだが、思わぬ2つの展開により悲しみが昇華されていき、読者を楽しませてもくれる。
登場人物の感情の機微を巧みに描写し、表紙のように美しいストーリーがするするっと心に浸透していく感覚。いつどんな時も寄り添ってくれそうな優しさが漂い、心に光をともしてくれるような言葉がちりばめた1冊だった。
中川 寛子●副編集長。近く、高橋愛さんの連載がスタートします。最近は美味しいものを食べるためにランニングする日々です。
有名童話を現代風にアレンジ!先の読めない展開に驚嘆『おとぎカンパニー』(田丸雅智/光文社)
年末年始、まだ気軽に外出できないし、かといってテレビばかり観ててもな……と思い、いい意味で気軽に楽しくなれる本はないかなと、半ばジャケ買い感覚で手に取ったのが本書。『白雪姫』や『ジャックと豆の木』、『眠り姫』といった世界の超有名童話をアレンジした14の短篇物語が収められているということで、まさに子どもが童話絵本を開く気分で読み進めた。ベースは結末を知っているおなじみの話ながら、現代社会を舞台にした話に変わっているので、「どうまとめるんだろう」というビックリ箱のようなワクワク感があった。『金の斧』を基にした話は、落とすのは大学の単位だったり、『人魚姫』の話は海ではなく草原が舞台だったりと、展開が予測できず、そしてどれも20ページほどにまとめられているのがまたスゴい。ちなみに私のお気に入りの話は『赤ずきん』をベースにしたもの。なんと拳と拳がぶつかり合うバトルもので、息つく間もないほどの激しい肉弾戦が繰り広げられる。頭の中でドラゴンボールの戦闘場面が浮かび、思わず笑ってしまった。元ネタを知っているうえで読むからこそ、アレンジの妙を堪能できる面白さがあり、逆に、恥ずかしながらいくつか知らない童話があったが、それらは純粋な短編小説として楽しめた。思いがけず脳内でしっかり遊ぶことができたこの年末年始。シリーズも出ているので、タイミングを見て読んでみようと思う。
坂西 宣輝●先日コンビニで、好きなカップ焼きそば味のポテトチップスがあったのでレジに持っていったら、「割りばし、いりますか?」と聞かれました。確かにパッケージは似ているけど、これ間違うか?と思いつつ、「ハイ」と答えて受け取りました。以上、新年一発目の心温まるショートストーリーでした。
日本酒というワンダーランドの扉を開けてくれる入門書『ゼロから分かる! 図解日本酒入門』(山本洋子/世界文化社)
最近、至極の休日の過ごし方を見つけた。それはズバリ、趣のある良さげな蕎麦屋で昼から呑むこと。蕎麦味噌を舐めながら日本酒をちびちびやる。そこでほろ酔い気分で本を読むのがたまらなく良いのです。今まで日本酒は飲み慣れていなかったので、違いなんてわからなかったのだけれど、ちゃんとした店が出す日本酒はやっぱり美味しい。日本酒はとにかく種類が多いから、そのひとつひとつの違いがわかったら絶対に楽しいに違いない。そんな思いから日本酒の入門書を探して手に取ったのがこの本。
日本酒初心者の米(まい)さんに指南役の純(じゅん)さんが日本酒のイロハを教える対話形式で書かれており、随所に図を織り交ぜながら解説されているのだけど、初心者が知りたい情報が必要十分に網羅されていて、本当にゼロから分かる!(笑)。「大吟醸」の意味も知らなかった僕ですが、原料となる米の精米歩合から発酵のさせ方、火入れの仕方で仕上がりが変わる日本酒の奥深さを知りました。考えてみれば飲む温度を変えても楽しめるお酒って有能すぎる……。本書には日本酒の製造過程から呑み方、おすすめのおつまみレシピ、酒米の種類に至るまで親切に事細かく書かれています。この本を読んでから酒屋さんに行ったら酒瓶の裏のラベルに書かれている意味がわかってとても楽しかった。僕のように日本酒の知識ゼロの方には、ぜひ読んでもらいたいです。
今川 和広●ダ・ヴィンチの広告営業。正月休みはこの本の影響もあり、たくさん日本酒を飲みましたが、頂き物の「一ロ万 純米大吟醸 生原酒」がとても美味しかったです。