とらやの羊羹、銀座千疋屋のフルーツサンド…「和菓子のアン」シリーズの坂木司による“おやつ愛”全開の美味しいエッセイ集

文芸・カルチャー

更新日:2022/2/4

おやつが好き お土産つき
『おやつが好き お土産つき』(坂木司/文藝春秋)

「一日のうちで一番幸せを感じる時間は?」と聞かれたら、間違いなく「おやつの時間」と答える。おやつは自由、可能性は無限大だ。甘いものを食べてもしょっぱいものを食べてもOK。手軽に食べられるコンビニスイーツもいいけれど、「ここぞ」という時に奮発して購入する高級店のおやつもまた素晴らしい。私たちに至福のひとときをくれるおやつの時間。せっかくならば、その時間をもっともっと充実させたいものだ。

 そんなおやつファンたちにぜひ読んでほしいのが、『おやつが好き お土産つき』(文藝春秋)。デパ地下を舞台にした和菓子ミステリー「和菓子のアン」シリーズの著者・坂木司さんによるエッセイ集だ。坂木司さんは、かなりのおやつ好き。銀座の名店から量販店のお菓子まで、甘いのもしょっぱいのも分け隔てなく、オススメのおやつを教えてくれる。

 とらやの羊羹や、銀座千疋屋のフルーツサンド、銀座あけぼののおかき、銀座みゆき館のモンブラン、マーロウのプリン…。とにかくこの本は、たくさんのおやつが紹介されている。食べたことのあるおやつの記載には、「そうそうその通り」と思わず頷かされるし、知らなかったおやつが登場すると、すぐにでも買いに行きたくなってしまう。おやつ選びの参考になること間違いなし。新しい発見に溢れている一冊なのだ。

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 坂木さんには、おやつ選びに強いこだわりがある。たとえば、パフェ。パフェの語源は、フランス語で「完全な」を意味する“parfait”だが、坂木さんにとって、今まで食べてきたパフェは、スポンジケーキやコーンフレークが邪魔に感じ、「完全な」ものではなかったのだと語る。だが、そんな坂木さんがついに出会った「完全な」パフェが、ピエール・マルコリーニのマルコリーニ・チョコレートパフェ。カカオが効いたチョコレートアイスにぴったりの生クリームやバナナ。香り高いバニラと、濃いのに舌の上ですっと溶けるチョコレートクリーム…。パフェに限らず、このエッセイで触れられているのは、おやつ好きの坂木さんを唸らせたものばかり。一体、どんな味わいなのか。読めば読むほど、どんどんお腹が空いてきてしまう。

サクサクのホロホロ。口の中でかしゅっとほどけて、やさしく広がるのです。こんなにきめの細かい、パウダーのような小麦粉を私は初めて食べました。なのに手元で崩れない。さらにちゃんとバターの香りがするのに、指がべたつかない。甘いけれど甘すぎなくて、遠くにひとつまみの塩を感じる。だから食べ飽きない。(中略)ドライケーキは、奇跡のアンビバレントスイーツといってもいいでしょう。(ウエスト「ドライケーキ」)

薄い寒梅粉の衣で包まれたカシューナッツに醬油の味がついていて、まあこれが香ばしい。かりぽり食べていくと、海苔の香りと相まってもう、香りのカーニバルです。(風雅「風雅巻き」)

 この本を読むと、改めて「やっぱり、おやつは、人を幸せにしてくれるものなのだな」と実感する。何だか心がほっこり。おやつの描写に触れるだけでも幸せな気分に浸れるのだ。おやつ好き必読。あなたも、坂木さんのエッセイで、とっておきのおやつと巡り会ってみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ