目指したのは、しっとりできれいな大人っぽさを持つ「夜」の歌――和氣あず未『あじゅじゅと夜と音楽と』インタビュー

アニメ

公開日:2022/1/26

和氣あず未

『ウマ娘 プリティーダービー』のスペシャルウィーク役、『東京リベンジャーズ』の橘日向役など、話題の作品でメインキャストを務め、アニメのフィールドで存在感を見せている声優・和氣あず未。演技者として飛躍を果たす一方で、2020年1月に自身名義の音楽活動をスタート。1stシングル『ふわっと/シトラス』の発売からまだ2年にもかかわらず、最新のコンセプトアルバム『あじゅじゅと夜と音楽と』(1月26日リリース)に収録の5曲を含めると、これまでに歌ってきたオリジナル楽曲はなんと31曲。かわいらしくポップな楽曲、前のめりで疾走感のある楽曲を得意としてきた彼女のディスコグラフィに、「夜」がテーマでコンテンポラリーR&B楽曲を集めた『あじゅじゅと夜と音楽と』により、新たな彩りが加わった。どんな楽曲と向き合うときも、自身のイマジネーションをもって曲の世界を作り出してきた和氣あず未の音楽活動、その最新モードを聞いた。

advertisement

今の自分より、ちょっと上の年齢を想像しながら歌うようにしました

――『あじゅじゅと夜と音楽と』は初のコンセプトアルバムということですが、「R&Bの曲を歌いますよ」とテーマを聞いたとき、どのように感じましたか。

和氣:はい。今回は夜というコンセプトがありますけど、今までのシングルにもひとつひとつ恋や青春というコンセプトがあって、どちらかというとわたしの得意なジャンルだったんです。でも、「夜と音楽と」となると、「今までよりちょっと大人っぽいのかな」と想像していて。曲をいただいたときに、「しっとりできれいな大人っぽさが夜っぽいな」と感じて、誰が聴いても夜、とわかりやすいテーマを用意してくださったので、「そんなに難しく考えなくても、気持ちを夜にさえすれば歌いやすそうだな」って思いました。夜には、ちょっと大人っぽいイメージがありました。

――“大人っぽい”でイメージするのはどういうことですか?

和氣:恋愛がテーマの曲を歌っているときは、高校生の気持ちになったり、過去の恋愛ソングを歌っているときは、だいたい25歳くらいの年齢を想像していたんですけど、大人となると、わたしもアラサーのお歳になっていて(笑)――精神年齢は幼い方なんですけど、応援してくれるファンの方はいろんな姿、表情を見たいと思うので、今の自分よりちょっと上の年齢を想像しながら歌うようにしました。精神年齢は30代のつもりです。

――レコーディングの段階で、このアルバムにどんな手応えを感じていましたか。

和氣:今まで歌ってきた曲も全部合わせると31曲になりますけど、今までの26曲も全部「いい曲だな」って思いながら歌っていて。今回の5曲も、コンテンポラリーなR&Bということで、これまで歌ったことがないテンポ感とメロディ感の曲たちだったので、いろいろ自分の中で考えて歌いました。毎回、作曲・編曲の金子麻友美さんがレコーディングに来てくださってディレクションしていただいたので、すごくやりやすかったです。「大人だけど、意外と語尾は弾けちゃっていいんだな」とか、新しい気づきがありました。

――今まで歌ってきた曲は、わりと前のめりでテンポ早めの曲、かわいらしい曲が多かったですよね。

和氣:そうですね、わたしもそういう歌の方が、流れに身を任せて歌える気がするので、得意だと思っていたんですけど、今回のように大人なイメージの曲は、流れに身を任せる部分もありつつ、「歌詞をもっと大切にしていかないと」と思いました。“夢よりも早くこの恋が覚めても”という曲については、歌詞に2パターンの解釈がありますね、みたいなお話になって。わたし自身は、「男女が映画を見てドキドキして……」という歌詞なのかなと思っていて、歌っているときは曲の中のふたりがそこまで近い距離にいると思っていなかったので、歌った後に「その解釈もあったんだ」って気づいて、衝撃的でした(笑)。

“キャラメラテ”はラップの部分が多かったので、たくさん練習して歌詞を読み込んで、「今、彼女はこういう気持ちなんだろうな」って想像しながら、じっくり時間をかけて準備しました。サビ以外ほぼラップの曲は初めてで、練習しているときも正解がわからなくて不安だったんですけど、リハーサルレコーディングのときに「ラップ、よかったよ」って言っていただけて。声優として考えると、つい感情を乗せたくなっちゃいますけど、感情を乗せすぎても曲に合わないし、気だるげな感じだけどクールになりすぎない、若干地に足がついていないふわふわした感じを意識しました。

――いま話してくれたように新しいチャレンジもあって難しさもあったと想像しますが、完成した楽曲を聴くと楽しいレコーディングだったことが伝わってくる感じがありますね。

和氣:はい、楽しいレコーディングでした。元気な曲を歌うときもすごく楽しいですけど、しっとりした新しい楽曲に挑戦させていただけるのも嬉しいので、練習のときから楽しかったです。アーティストデビューをする前に、「どういう音楽を聴くんですか?」と聞かれたときに、「こういう曲を聴きます。バラードとか、聴かせる感じの曲を歌うのは苦手です」と話したことがあったんです。今回のアルバムの5曲は大人な感じの音楽なので、聴かせる曲だと思うし、最初は「う~、難しそう」って思ったんですが、どの曲もメロディラインが好きだったので、とにかく楽しいレコーディングでした。

――曲を聴いていて、「和氣さんはいいブレーキを手に入れたんだな」って思いました。歌うときにいろんなアクセルを持っている人だと感じますが、今回のアルバムの場合、ゆっくりだけど表現を豊かにするアクセントが効いてますよね。一回止まったり、ゆっくりにしてみたり。

和氣:そうかもしれないです。ブレーキも身に着けていられたらいいなって思います(笑)。やっぱり、大人には余裕感が必要ですからね。

――そして1stアルバムの『超革命的恋する日常』に続き、今回もタイトルにインパクトがありますね。

和氣:いいですよね。毎回アルバムのタイトルも面白いし、インパクトがあるなって思います。

――このタイトルって、和氣さんの音楽性を言い表しているなと思います。“あじゅじゅ”っていう愛称にはかわいい響きがありつつ、“夜”という一見逆の要素との対比になっている。「両方あるのが和氣あず未の音楽である」という。

和氣:嬉しいです。確かにそうですね。めちゃめちゃ大人っぽすぎない部分も、ちょうど自分と合ってるのかもしれないです。

――和氣さんの音楽といえば、ひとつ「妄想」がキーワードになっているわけですが――。

和氣:楽しいですよね、妄想(笑)。

――(笑)今回のアルバム制作において、妄想はどのあたりで発動しましたか?

和氣:一番妄想しやすかったのは、“眠れなくていい”という曲でした。5曲とも、主人公は全員バラバラだと思うんですけど、“眠れなくていい”には幸せな男女が出てきて――いいですよね。この曲、大好きです(笑)。

――幸せな男女が浮かんでくる光景は、わりと今までも「妄想」してきたイメージなんですか?

和氣:そうですね。でも今までは、幸せだけど片思いとか、両想いっぽいけどまだふたりの間に距離があって、お互いのことをまだよくわかってない、みたいな、ちょっともどかしい距離感の妄想が多かったんです。“眠れなくていい”は大人の男女で、ほんとに幸せな感じです(笑)。「隣にあなたが眠っている」って。幸せな毎日で、でも喧嘩とかもあったのかもしれなくて……。

――イメージが広がってますね。

和氣:喧嘩も、あったと思うんです。でもそれすらも乗り越えて、「お互いが愛しい」みたいな形であってほしい、という願望ですね。この曲は想像しやすかったです。今までにはなかった音楽性なので、「こういう楽曲も歌うんだ」って、皆さんにも知っていただきたいです。

――昨年7月には待望のワンマンライブを中野サンプラザで開催しましたね。とてもいいライブだったし、お客さんが喜んでいる空気も印象的でしたが、ステージから見た風景は和氣さんにどんな気持ちをもたらしてくれましたか。

和氣:最初は、ひとりでライブするのが初めてだったので、もうガッチガチに緊張しちゃってました(笑)。始まって、自分の足でステージに上がって、最初は後ろを向いて待機だったんです。後ろ姿を人に見せるのが苦手なので、「やばい、見られてる。怖い怖い」って。でも、みんながペンライトを持って、「わあーっ」ってなってくれて――マスクはしてるけど、なんとなく表情がわかったので、振り向いた瞬間は感動しました。もう、胸がいっぱいになっちゃって。一瞬「嬉しい!」っていう気持ちになり、また冷静になると緊張してきたんですが、その後の着替えで心を取り戻して。昼・夜の二部あったおかげで、二部ではリラックスできました。

――ライブが終わった後はどんなことを感じましたか?

和氣:終わった後は「おわったー!!」っていうことと、すごく幸せな気持ちでした。達成感もあったし、「やっとお見せできたな」っていう嬉しい気持ちでした。あとは、バンドの方がすごく優しかったので、一緒にできてよかったなって思いました。

――ステージ上で「もっとこういうことができたらいいな」と思ったことはありましたか?

和氣:わたし、煽るのが苦手なんです。「おめえらいくぞー!」みたいな。わたしの中で、アーティストさんにはそういうイメージがあって。今は声を出せないからなかなか難しいですけど、いつかは自分でコール&レスポンスもやってみたいです。

アーティスト活動や声優活動で影響を受けてくれた誰かの未来を、いい方向に変えていけたら

――今、和氣さんはめちゃくちゃ忙しくされてますよね。

和氣:いやいや、そんなことないです。毎日楽しいです。

――音楽活動も含めて、2021年は飛躍の年だったんじゃないかなと思うんですけど、和氣さんにとってどんな1年でしたか。

和氣:あっという間すぎて、自分で何が変わったのかは全然気づいてないですけど、まわりの方には、「ちゃんと一人でもしゃべれるようになったね」って言われることが増えました。音楽活動をする前もしゃべるのが苦手だったけど、だんだんひとりでしゃべるのが楽しくなってきました。気づかないうちに変化してることってたくさんあるなって思います。徐々に、だから自分では気づかないですけど、事務所のマネージャーさんだったり、家族だったり、ファンの方に「変わったね」って言われると、すごく嬉しくなります。

――徐々に変わっていく、あるいは進歩していく和氣さんを支えてくれる要因は何ですか?

和氣:お客さんです。みんなの一言だけで元気をもらえるし、Twitterのリプライだと恥ずかしくて言えないことも、InstagramのDMをもらったりすると「こんな思いでいてくれるの!?」って思ったりすることがあって。その言葉をもらったわたしが泣きそうになっちゃったりします。「和氣さんのおかげで人生変わりました」とか。まあ、嘘かもしれないですけど……。

――嘘ではないでしょう(笑)。

和氣:(笑)長い文章をいただいたりするんですよ。そこに、すごく気持ちが込もっていて。わたしはただ単に好きなお仕事をして、自分自身が楽しんでいるんですけど、そうやってわたしに影響を受けてくれる人もいるんだなって思うと、「もっと頑張らなきゃ」という気持ちになるし、本当に支えてもらっていると思います。そのおかげで、進歩ができていると思いますし、感謝感激です。わたしも、好きな声優さんのお仕事を見て「声優になろう!」って決めて、誰かの影響を受けたことで今の自分があるので、アーティスト活動や声優活動で影響を受けてくれた誰かの未来を、いい方向に変えていけたらいいな、と思います。

――SNSって、人によって向き合い方が全然違うじゃないですか。和氣さんの人柄だと思いますけど、和氣さんにDMを送ってくる人はみんな優しいんでしょうね。

和氣:優しいです。人間って、「勝手に好きになってくれる人2割、勝手に嫌いになる人2割、どうでもいいと思ってる人6割」って言ったりするじゃないですか。

――そうなんですか?

和氣:そうなんです。だから、10人のうち2人には絶対嫌われるのが人生らしいんですよ。

――なるほど。

和氣:だから「10人中、8人はわたしのことに興味がなかったり、嫌いなんだろうな」って思っているので、残りの2割の方が愛おしくてしょうがないんです(笑)。そこは、もしかしたら前向きなのかもしれないです。2割の方からそういうDMをいただくだけで、「嬉しい、頑張ろう」ってなれるので、SNSは好きですね。

――考え方が大人ですね。

和氣:そうなんですかね(笑)。でも……そうか、そういうところは大人なのかなあ。すっごくかわいいワンちゃんがいたとして、ワンちゃんが苦手な人もいるじゃないですか。そう思うと、「ワンちゃんが好きな人だけで集まればいいや」って思っちゃうので、「こんなわたしでも、こうして好きになってくれる人がいるのか」って思うと、すごく愛せます。

――2021年を振り返ってみて一番嬉しかったことと悔しかったこと、それぞれなんでしたか?

和氣:嬉しかったことは、お仕事に恵まれたことです。毎日、夜まで台本チェックをしていましたけど、アフレコをしているときはいつも楽しくて。「つらいな、イヤだな」と思う現場はひとつもなかったです。悔しかったのは、アフレコで全然思っているようにできなかったことがあって……わたしも声優デビューして7年になるので、リテイクしても一回でOKなことが多いですけど、あるアニメの収録で、ひとつの収録で10回くらいテイクを重ねちゃったときがあって、悔しさと情けなさで、泣きそうになりながら帰りました。でも次の週に「すごいよくなってる」って言っていただいて、それが嬉しかったので、悔しかったことであり、嬉しかったことですね。

――コンセプトアルバムの発売は、2022年1月26日です。2022年は、どんな1年にしたいですか?

和氣:自分が気づかないうちに一個成長している部分があればいいな、と思います。あとは、健康でいたいです(笑)。健康に、忙しく、楽しくて幸せな一年にしたいです。

――最後に、今後の音楽活動の中で実現したいことを聞かせてください。

和氣:最初は「声優一本で」という気持ちではいたんですけど、音楽活動をさせていただいて、声優業とアーティスト業は近いものがあると思っています。気持ちとしては、同じくらい大切です。歌を歌うときに、声優として学んできたことを活かしている部分があるし、お芝居をするときも、キャラソンのお仕事が多かったりするので、アーティスト活動でたくさん学ばせていただいたことを活かせています。自分の中では、両方しっかり活動できているのが、嬉しいなって思います。

取材・文=清水大輔