夫に裏切られた31歳の主婦が出会ったのは、14歳年下の美しい“推し”だった

文芸・カルチャー

更新日:2022/2/3

旋律 君と出逢えた奇跡
『旋律 君と出逢えた奇跡』(望月麻衣/双葉社)

 京都の骨董品店を舞台にしたミステリー小説『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)や、悩める人々を極上のスイーツと占星術で導く『満月珈琲店の星詠み』(文藝春秋)で女性から圧倒的な支持を得る望月麻衣さんの新刊が発売された。タイトルは『旋律 君と出逢えた奇跡』(双葉社)。気になる内容はミステリーではなく、14も歳の離れた男女を描く純愛小説だ。望月さんがデビュー前に小説投稿サイト「エブリスタ」に投稿したもので、初めてランキング上位に入った作品だったそう。

 主人公の西沢円香(にしざわまどか)は、31歳のごく普通の主婦である。短大卒業後、大手企業で派遣社員として働き、そこで出会った夫・和馬と結婚した。一流企業勤めの和馬は稼ぎもよく、東京郊外にマイホームを購入。娘の亜美も生まれて幼稚園に通っている。はたから見れば普通どころか、恵まれた環境だと言えそうだ。しかし、人の幸せというのは往々にして社会的なステータスの通りにはならない。結婚前はやさしかったはずの夫は、モラハラ的な言動を繰り返すようになっていた……。

 たとえば、円香を会社の若い女の子と比べて「おまえと会話するとたまにガッカリすることがあるよ」と、家庭で亜美を育てる円香の話題の狭さに嫌味を言う。それでいて、外で働きたいというと「亜美が可哀そうだろ」と言って認めない。円香は、自分は幸せだと言い聞かせようとするが、日々の息苦しさは徐々に彼女をむしばんでいく。さらに、円香は気づいていないが、和馬は彼女を裏切っている。それがバレたとき、家庭はどうなってしまうのか……。さわやかな表紙からは想像できない展開の連続に、続きが気になってページをめくる手は止まらない。

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 そんな円香にとっての希望は、亜美を幼稚園に送る際に毎日すれ違う“推し”――楓の存在だ。偏差値の高い私立高校に通い、顔立ちの整った美少年である。円香は遠巻きに彼を見て「目の保養」をしていたのだが、ある出来事をきっかけにグッと距離が縮まる。夫との関係がどろどろな分、こちらの尊さといったら……。アイドルのファンが“推し”を糧に生きていくように、円香は楓と交流することで救われていく。

 31歳と17歳。14歳離れたふたりの関係がどこへ向かうのかが、本作最大の読みどころだ。楓は親元で暮らす未成年で、円香は夫と子どもをもつ身。お互いに「近所の知り合い」以上の感情を抱くようになっても、独身の大人同士のようにはいかない。容易には越えられない大きな壁を前にして、ふたりが選ぶ結末をぜひ見届けてほしい。人との関わり方は、人の数だけある。簡単には名前の付けられない、目の前の人との関係を大事にしようと思える小説だった。

文=中川凌
@ryo_nakagawa_7