きっかけはロシア生まれの彼だった。「自己肯定感0」の女性が自分を取り戻すまで
更新日:2022/2/1
家庭から影響を受けた自己肯定感の低さは、なかなか厄介だ。幼いころから意見を頭ごなしに否定されたり、ネガティブな感情のはけ口にされたりし続けると、それが当たり前だと思いこんでしまう。
『自己肯定感0の私とロシア生まれの彼が出会ったら』(KADOKAWA)の著者であるはりさんも、自己肯定感が下がってしまう環境で育った。コミックエッセイ冒頭では、“自己肯定感0の私”を作り上げた幼少期の思い出が綴られている。家族とのやりとりのなかで感じる息苦しさは共感できるものが多く、読んでいて胸が痛くなった。実家を出てからロシア生まれの「彼」と出会って、はりさんの人生は一変する。本書の全体の8割以上は、この「彼」との心あたたまる日々を描いている。
ロシア生まれの「彼」のコミュニケーションのとり方は、とても合理的でシンプルだ。自分が思ったことは伝える、思っていないことは伝えない。だから、好きな相手には好意を惜しみなく伝える一方で、お世辞は言わないし、愛想笑いもしない。間違えていることは間違えていると言う。それまで周囲のことばかり気遣って自分の意見をのみこんでいたはりさんは、彼と関係を深めていくうち、ありのままの自分を出せるようになっていく。
印象的だったのは、すべてを受け止める彼が唯一はりさんに対して怒る際の理由だ。はりさんが自分自身の価値を軽んじた発言をすると、彼は本気で怒る。「(発言を)取り消してくれ」と。
当事者として痛感することだが、自己肯定感が低い人間はやたら自分を傷つけることが多い。自己解釈の方法として肯定よりも否定のほうが自然だから、ちょっとの失敗でもすぐ自分を否定する。それがまた自己肯定感を下げる要因になる。
そんな自己否定の発言に対して「取り消してくれ」と怒る彼の存在は、自己肯定感が下がり続ける悪循環を断ち切ってくれる。本気で怒る彼の姿に、他のどんなあたたかなエピソードよりも優しさを感じた。
自己肯定感が低いと感じる人は、ぜひ本書を手に取り、ロシア生まれの彼とともに自分自身を肯定していくプロセスを追体験してほしい。彼がかけてくれる言葉や愛情深い行動は、自己肯定感を高めるヒントをくれるはずだ。
文=宿木雪樹