リアルな書店員の日常に共感必至! “あるある”が詰まった『本屋の堀ちゃん』
公開日:2022/1/29
仕事で接客をしていると、時折、というより結構な頻度で思わぬ事態に遭遇する。恐らくどの店でもその業界独自の“あるある”が発生するのだろうが、本屋もまた、独特なあるあるが発生しやすいスポットだ。『本屋の堀ちゃん』(佐久間薫/双葉社)は、そんな本屋内で起こりがちなあるあるをぎゅっと凝縮した書店員コミック。
本作品の主人公は、街の本屋で働きはじめたマイペースな書店員・堀ちゃん。まだベテランとは言えない堀ちゃんは、日々先輩店員や店長からいろいろと教わりながら本やお客さんと格闘しているのだが。そこに描かれる日常があまりにも「細かいことだけど本当それ!」のオンパレードで、元書店員である筆者も読みながら何度も共感してしまった。
まず、朝番の人たち総出で最初に片付ける大仕事、付録付け。雑誌に挟まれている付録は実は元々挟まれているわけではなく、書店員が手作業で1つずつ挟むものがほとんど。女性誌に多いバッグやポーチ、化粧品系は挟んだあと積み上げた状態でバランスがとりづらいし、コミック雑誌などに多いファイルや小冊子は気をつけないとくっついていて数が合わなくなりがち。しかも発売日がかぶるものも多く、地味に大変な作業なのだ。
堀ちゃんも、この付録付けで薄い付録が1つ足りなくなり、せっかく組み上げた雑誌を1つずつ再確認することに。事前に数えていれば、少なくとも本当に足りないのかこちらのミスなのかは分かるのだが、数が多いとどうしてもうっかり手間を省いてしまうこともある。付録付きの雑誌は専用のゴムをかけたりシュリンクしたりすることが大半で、流れ作業でやっていくことも多い。そんな中でこのやり直し作業が発生すると、思わず叫びたくなるのが本音だ。
これに加えて佐伯さんなど年配の人に人気の作家さんの新刊が出た日には、新刊の品出しも急ぐ必要がありてんやわんや。
こうした新刊を待つ年配のお客さんは開店と同時に来ることも多く、「待ちわびてたんだなあ」とほっこりする反面、いつもより急ぎの作業が増えるため、開店時には既に疲れていることも。ちなみに『ONE PIECE』や『進撃の巨人』など超人気作の発売日は、レジ内にカバーをかけたストックを置いておくという作業も発生する。
ほかにも度々発生するのが、データ上は在庫があるのになぜかどこを探しても見当たらない、という現象。これは万引きなどで合わなくなっている場合のほか、返品したばかりでデータがまだ反映されていないなど、システム上の問題であることも多い。が、そうした実際に店内にない状況以外で多いのが、平積みや面陳でほかの本がかぶさって隠れているパターン。
そのジャンルの担当者や新刊、フェア、注目作などを把握している店員であればその可能性に気づきやすいが、そうでなければこれに気づくのはなかなかに難しい。この岡さんという店員は、このシーン以外でも度々優秀なベテラン店員スキルを発揮する。
この『本屋の堀ちゃん』には、こうした“あるある”のほか、児童書コーナーを遊び場と勘違いしている親子問題や、無料配布物の中でもやたらと人気のカード型カレンダーをまとめて持っていくお客さん問題など、書店員をしていると必ずぶち当たるトラブルも描かれている。現役の書店員や元書店員にとって共感の嵐なのはもちろん、本屋好きや本好きさんにとってもきっと引っかかる何かがあるはず。
この本でより多くの人が「本屋さん」を身近なものに感じ、お客さんも店員も互いに気持ちのいい場所になっていくといいなと強く感じた。
文=月乃雫