今なぜ人気?『フルーツバスケット-prelude-』細谷佳正×沢城みゆき対談

映画

公開日:2022/2/5

細谷佳正さん、沢城みゆきさん

 1998年から連載がスタートし、世界的なヒットとなった少女マンガ『フルーツバスケット』が、今あらためて脚光を浴びている。2019年から3期にわたって放送されたテレビアニメに続いて、今年2月には新作アニメ『フルーツバスケット-prelude-』が全国の劇場で公開に。さらに、3月には舞台も上演される予定だ。それぞれの見どころをキャストにうかがうとともに、今なぜ『フルーツバスケット』なのか、人気の理由を探る。

(取材・文=野本由起 写真=干川 修)

――おふたりは、テレビアニメ『フルーツバスケット The Final』に続いて『prelude』でも本田透の両親役を演じています。細谷さん演じる勝也は、『The Final』12話で満を持して初登場しましたね。

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細谷 最初は『prelude』が控えているとは知らなかったんですよ。テレビアニメで「がんばったね」というひと言だけの出演だったけど、流行っている作品に関わらせてもらえたことが光栄でした。「予算があるアニメなんだな」と思いました(笑)。その後に、劇場公開があると聞いて嬉しかったです。

『フルーツバスケット-prelude-』
『フルーツバスケット-prelude-』

――今日子に向けたあのひと言で、ファンの心を一気につかみました。

細谷 演出も素晴らしかったですよね。今日子は、ずっと自分の居場所がなくて非行に走った女の子。そんな彼女が勝也に出会って、やっと「ひとりじゃない」と思えるようになる。その後、透という娘が生まれたものの、勝也は先立ってしまう。さらに、最も大切な存在を残して、今日子自身もこの世を去らなきゃいけない。壮絶な人生ですよね。そんな今日子に対するひと言なので、いろんな言葉や想いがあったと思うんです。でも、それを頭で考えすぎないように、いつも通りのスタンスで収録に臨みました。

沢城 そうだったんですね。

細谷 音響監督の明田川仁さんとは一緒に仕事をさせてもらった現場が沢山ありました。普段は僕が感じたことをそのまま演じさせてくれる方なんですね。その仁さんが、何テイクも録ってくださったのも新鮮でした。勝也のキャラクター性については演者である僕に委ねてくれましたが、「もうちょっと距離を近くしてみよう」「もうちょい柔らかくいける?」というように、セリフのニュアンスを何種類も試させてもらえたことが嬉しかったです。

細谷さん

――沢城さんは、新作アニメで今日子と勝也の物語が描かれると知ってどう思いましたか?

沢城 今日子役が決まった時から、その日を一番恐れていました。このエピソードをちゃんとやりきれるのか不安でいっぱいでしたし、先延ばしにされればされるほど、重責が増していくというつらさもあって(笑)。

細谷 確かに……。

沢城 でも、ありがたいですよね。今日子と勝也のエピソードで、1本アニメを作っていただいて。本来は透たちの世代のお話だから、今日子は母親としての顔が描かれるのが当たり前。それを「お母さんにだって若い頃があったんだよ」とフィーチャーしていただけたわけですから。『フルーツバスケット』の核になるエピソードだと捉えてくださっているんだと思うと、本当にうれしいです。しかも、勝也役が細谷さん。「神様、いるなー」って思った(笑)。

細谷 沢城さんにそう思ってもらえるのは凄く嬉しいです。今の言葉、太字で書いておいてください!

沢城 安心感があるんですよね。タイプは全然違いますけど、歳も近いし、なんとなく好きなものの香りが似ているというか、同郷で育ったという印象で。しかも一緒に収録できることがわかって、「もう何もかも大丈夫!」と急に収録日が遠足みたいに楽しみになりました。

細谷 うれしいです。僕からすれば、沢城さんは特別な演者ですから。

沢城 (首を横に振る)

細谷 僕が幼い頃に父と観ていた洋画劇場には、吹き替えのスター達が沢山登場していました。大塚明夫さん、山寺宏一さん、谷育子さん、納谷六朗さんといったベテランの声を沢山聴いていたんですね。沢城さんは、そういうベテランの方々が纏う文化や、空気感を若くしてお持ちなんですよね。

沢城 しょうがない、というか有難いですよね……。若い頃から生ける伝説のそばで過ごせてきたわけですから。同じになれているとは全く思いませんが、彼らの強烈な個性にさらされてはきました。

細谷 それが特別な存在感を放っているように、僕には思えるんです。

勝也は一番悪い男……

――収録にあたって、今日子と勝也の人物像をどう作り上げていきましたか?

細谷 今日子は不良少女で、周りから煙たがられていて、ちょっとした悪とするじゃないですか? でも、TVシリーズ含めいっっっちばん悪い男は勝也だと思っていました。

沢城 勝也は難しい男だよね……。

細谷 本当は悪い人なのではないか?と感じさせる雰囲気を、このキャラクターに滲ませたいと思ったんですよね。僕から見た今日子は、純粋でまっすぐな子。だから大人が自分たちの都合で作った社会に取り込まれたくないし、「そんなのおかしいよ」って正面から立ち向かって傷だらけになっていく。それでも純粋だから折れないんです。それに対して、勝也は折れたふりができてしまう人。今日子と比べると経験からくる不純なところがあって、それが彼の陰のある雰囲気になっていると感じました。僕は「この物語で一番悪い男は勝也だ」という、自分が演者として感じたことを含ませて、キャラクターを作っていきました。監督からは「インテリの雰囲気は崩さないでくれ」と言われましたけど、どうしても少し悪い雰囲気を入れることを諦めきれなくて。バレないように、だましだましチョイ悪さを入れていくのが楽しかったです(笑)。他の人が演じたらきっと違う感じになるし、僕が感じたことを反映させることが、勝也に選んで頂いた意味なのだなと思っていました。

沢城 スタジオでも少しだけ「勝也は一番何考えているのか分からない」って話をしたよね。

細谷 スーツに眼鏡だから、一見するとおとなしそうじゃないですか。だから、敬語ではないセリフを言う時に違和感を感じてもらえたらいいなと。勝也って、基本的には敬語なんですけど、突然フランクに喋り出すことがあるんですよ。その瞬間、少し毒を盛るようなイメージで……それが楽しかったです(笑)。

沢城 ここぞとばかりに(笑)。

――そんな勝也に惹かれていくのが今日子です。『prelude』では、彼女の中学時代も丁寧に描かれていました。

沢城 テレビアニメがスタートする時点で、「監督に相談しなきゃ」と思っていたことがひとつありました。それが、透たちの記憶の中にいる神様みたいな今日子と実際の今日子に、落差があること。透たちの記憶の中では大人の今日子が輝いていますけど、本人からすればちっとも大人になりきれずに、至らない自分のまま日々がんばってきたはず。どっちの目線でやるべきか相談して、テレビアニメでは「シーンによって臨機応変に分けていきましょうか」となったんです。なので、『prelude』では実景としての今日子を存分に出せたのがうれしかったですね。過去にさかのぼって、親としての皮を被る前のスッピンの今日子を演じるという不思議な作業でした。その後の今日子はもうやっているので、ここから役作りが始まる、みたいな。ただ、最終的に勝也が現れれば今の今日子になれるという安心感があったので、ひとりぼっちの思春期の女の子を堂々とやることに集中しました。

沢城さん

――沢城さんがもっとも共感できたキャラクターは?

沢城 今回一番共感した役が、今日子のお母さんなんですよ。普段、子どもの親として生きているので、不良になった今日子に対する「今日子ちゃん、なんでそんなになっちゃったの?」っていうひと言に感じ入るものがあって。「人格って生まれ持ったものなのかな。教育によってそうなったのかな。難しいよね」って思ったし、突然玄関に現れた勝也が今日子を連れて去っていった時には自分が育ててきた娘をどんな気持ちで見送ったのかなと思って。

細谷 複雑ですよね……。

沢城 一緒にお茶したい(苦笑)。きっと「今日子ちゃんをよろしくね」と思いつつ、荷が下りたとも感じただろうし、そんな自分に嫌悪感も抱いたはず。いろいろと込み上げてくるものがあったと思うんです……。

思春期のモヤモヤを言語化した原作の普遍性

――『フルーツバスケット』の原作は、1998年から2006年まで連載された少女マンガです。世代を超えて今も愛され続ける理由について、おふたりはどう考えていますか?

細谷 原作の勝也と今日子のエピソードを読んだ時、ほかのマンガとはまったく違う言葉の並びと配置に驚きました。詩のように言葉が配置されていて、けっして重くないのにひとつひとつの言葉が心に積もっていって。今日子のモノローグは、本当に今日子が語りかけているような不思議な感覚になりました。思わず読まされてしまう。そういうところが支持されたのかなと思いました。

沢城 私、妊娠中のつわりが長くてひどかったんですね。でも、『フルーツバスケット』を読んでる時間だけはつわりを忘れられたんです(笑)。

細谷 現場でその話、してくださってましたよね。

沢城 細谷さんがおっしゃったように、『フルーツバスケット』の原作にはモノローグのようなナレーションのような四角く囲んであるセリフがあるんですよ。あのセリフが自分の言葉のようにすり替わっていく瞬間があって。共感を超えて、作品の中に落っこちていけちゃう魔法の言葉の羅列があるんですね。まずその手法がすごいなと思いました。それに、親子のこと、友達とのこと、自分のこと……そういった〝普遍〟が描かれているから、作品が古くならないんですよね。しかも、高屋先生は思春期に感じていたモヤモヤや孤独、憤りを言語化する能力が素晴らしいんです。だから、自分の中にストックできなくてふわっとしていた気持ちも、『フルーツバスケット』を読むと「そう、そうだった!」と整理できてしまう。

細谷 わかります!

沢城 すごいことですよね。それが作品の力なのかなと思います。

細谷佳正
ほそや・よしまさ●広島県生まれ。映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(シャン・チー)、アニメ『この世界の片隅に』(北條周作)、『進撃の巨人』(ライナー・ブラウン)など出演作多数。2月10日(木)、40歳の誕生日を記念してフォトエッセイ『アップデート』を発売。

沢城みゆき
さわしろ・みゆき●東京都生まれ。1999年、アニメ『デ・ジ・キャラット』の声優オーディションを経てデビュー。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎(6期)』(ゲゲゲの鬼太郎)、『ルパン三世』(峰不二子:3代目)、『鬼滅の刃』(堕姫)など出演作多数。

スタイリング:中山寛己(沢城さん) ヘアメイク:チチイカツキ(沢城さん)、河口ナオ(細谷さん) 衣装協力(沢城さん):ワンピース 2万9700円(税込)/ZUCCA(TEL03-5624-2626)、その他スタイリスト私物

登場人物

本田今日子

本田今日子(沢城みゆき)
世の中が信じられず、荒れ果てた生活を送る不良少女。中学校にも数えるほどしか通っていなかったが、教育実習生の本田勝也と出会ったことから少しずつ変わっていく。

本田勝也

本田勝也(細谷佳正)

今日子が通う中学校の教育実習生。学校では礼儀正しく振る舞っているが、実はシニカルでクセの強い人物。今日子のことを「眉無しさん」と呼び、次第に距離を縮めていく。

『フルーツバスケット-prelude-』

『フルーツバスケット-prelude-』
原作・総監修:高屋奈月『フルーツバスケット』(白泉社花とゆめC) 監督:井端義秀 脚本:岸本 卓 キャラクターデザイン:進藤 優 声の出演:沢城みゆき、細谷佳正、石見舞菜香、島﨑信長、内田雄馬ほか
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント 製作:フルーツバスケット製作委員会 2月18日(金)全国ロードショー&劇場限定版Blu-ray同時発売
詳細はhttps://fruba-movie.jp/
(c)高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会

『愛蔵版 フルーツバスケット』(全12巻)

『愛蔵版 フルーツバスケット』(全12巻)
高屋奈月 白泉社花とゆめCスペシャル 各968円(税込)
両親を亡くした本田透は、同級生の草摩由希らの家で暮らすことに。だが、草摩一族には異性に抱きつかれると十二支の物の怪に変身するという秘密があった。「最も売れている少女マンガ」としてギネスブックにも認定されたことのある大ヒット作。