「人生のショーケース」を届けて106年。時代にあわせて変化を遂げる雑誌『婦人公論』の現在
更新日:2022/2/2
創刊107年と長い歴史を誇る雑誌『婦人公論』が、今年1月15日に発売の2月号より、大幅にリニューアルされた。1998年以来、23年ぶりのリニューアルでサイズを大きくして、ボリュームもアップ。月刊誌として生まれ変わったのだ。新しくなった『婦人公論』の目指すところとは? 編集長の三浦愛佳さんに、これからの『婦人公論』について聞いた。
取材・文=橋富政彦
――『婦人公論』は今年が創刊107年目になるそうですね。まずは改めて、この歴史ある『婦人公論』がどのような雑誌なのか、これまでの歩みからお聞かせください。
三浦 『婦人公論』は大正6年、1916年に創刊されました。月刊総合誌『中央公論』の女性版という位置づけで「女性の権利と地位の向上を目指す雑誌」として、創刊号には平塚らいてうさんにもご寄稿をいただいています。当時はまだ女性に選挙権もない時代。そうした中で女性の声なき声を伝えていこうとする雑誌だったんですね。その根本的な姿勢は今でも変わらず、女性の人生と悩みに寄り添い、希望を伝えることを106年間、続けてきたと言えます。
戦中、戦後と時代が揺れ動く中、社会の変化に合わせて婦人の心得を説いたり、リアルな結婚生活や性のあり方を紹介したり、常にそのときそのときの女性の生活、実感、心境、そして人生を誌面に反映し、高度経済成長期には芸能面や読者投稿の充実を図って大きく部数を伸ばしました。そして、1998年にA5版からA4変形版に判型を大きくしてビジュアル化した創刊以来の大幅リニューアルを行い、月刊誌から隔週誌に生まれ変わったのです。今回はそれから23年ぶりの再リニューアルということになります。
活字をじっくり読みたい――そんな声に応えるためのリニューアル
――なぜ、このタイミングでのリニューアルを決断したのでしょうか。
三浦 やはりコロナ禍以降のライフスタイル、社会環境の変化による影響は大きかったですね。2020年4-5月の緊急事態宣言下で長期休業を余儀なくされた書店では、雑誌が一度も店頭に並ばぬうちに販売期間の2週間がすぎて返品されてくるという事態が発生しました。2号続けて、その3割ほどが読者に届かず戻ってくると聞いて。書店の大変さを思うと同時に、作り手としても大変なショックでした。そこで2019年から開設していたwebメディア『婦人公論.jp』で記事をどんどん公開したところ、これが好評で多くの読者(PV)を獲得することに成功しました。この体験から、2週間という販売期間の短さと紙の媒体として書店の店頭に長く置いてもらうことの価値を改めて実感し、スピード感を求められるものはWebメディアを活用していこうと考えるようになったのです。そうであれば紙は隔週刊というペースではなく、月刊にしてじっくり作っていくのはどうか、と。
また、読者の行動パターンも変わってきました。23年前のリニューアル時点で40代だった方々も一緒に歳を重ねて、今では60代、70代になり、月に二度も書店に行かないですという方も多い。新聞広告などで最新号に興味を持っていただいても「書店に行ってみたら、もう次の号になっていた」なんて声を聞くようになっていました。「次の号が出るまでに読みきれない」という声も増えてきて、隔週刊というペースが読者と合わなくなってきているのかな、という感覚があったんです。その一方でコロナ禍に入ってからは定期購読がぐんぐん伸びてきていることもあって、ステイホームをしている間に雑誌を読みたいというお気持ちの方が増えていると感じていました。
実際、読者アンケートに「次から次へとニュースが流れてくるネットに疲れた」「コーヒーを淹れて、ゆっくり『婦人公論』を読む時間が好き」なんて書いてくださる方が多くいらっしゃるんですね。あらゆるものがスピードアップしている時代で、じっくり雑誌を読みたいというニーズが増えてきているんだな、と。今回のリニューアルは、そうしたご要望にお応えしようということで決定しました。
――リニューアルではどのような変更をしたのでしょうか。
三浦 一番大きく変わったところは、判型をA4正寸に大きくし、それに合わせて文字を大きくしたことですね。従来のサイズだと文字が小さくて、私ももう老眼世代ですから(笑)、ゲラを読んでいてしんどいときがあったので。読者の皆さんにじっくりと読んでもらうために、より読みやすくしよう、と。ページ数も40~50ページほどボリュームアップしました。1ヶ月かけてゆっくり楽しめるよう、コンテンツをさらに充実させていきます。
ただ、基本的な編集方針はこれまでと変わりません。コロナ禍で読者のライフスタイルが変わっていく中でも『婦人公論』は変わらぬご支持をいただいてきました。先ほどコロナ禍で定期購読が大きく増加したというお話をしましたが、実売部数も好調で、昨秋からはかなり伸びているんですね。ですので、これまで本誌を選んでくださった読者の皆さんが読みたいと思ってくださることにフィットした雑誌を、これからも変わらず作っていくということです。新しい連載陣に関しても、巻頭言の美輪明宏さんをはじめ、『婦人公論』の読者から人気のある方や、これまで常連のように出てくださった方を中心に依頼しました。どれも、読者の毎号の楽しみになってくれると思います。
『婦人公論』は人生のショーケース
――多くの雑誌の売上が低迷している中で、『婦人公論』が変わらず多くの読者から支持を集めているポイントは、どういったところにあるのでしょう?
三浦 「人生100年時代」といわれるようになって久しいですが、「そんなに長生きをしても……」とネガティブな気持ちになる方も多い。そうした中で、自分の先をゆく人生の先輩たち、かっこいい生き方をしている人たち、そういった人々の本音の声を、有名無名問わずに掲載してきたことが一番大きいと思います。たとえば、昨年は92歳のちぎり絵作家・木村セツさんのロングインタビューを掲載しました。和歌山県に住む木村さんは86歳まで農業に従事し、90歳の時、亡くなった夫のことばをきっかけにはじめたちぎり絵が話題を呼び、作品集も出版した方。和歌山弁のおばあさんが耳元で語りかけてくるようなひとり語りで紡いだインタビューは、とても大きな反響をいただきました。木村さんのように人生後半を充実させている女性たちの声をじっくり読ませる媒体は、他にないのではないでしょうか。
その他、大正の頃から続いている企画「読者体験手記」も人気です。毎号さまざまな女性たちが自分の来し方を振り返りながら、介護や闘病、人間関係といった悩み、あるいはこうやって楽しく生きていますというエピソードを書いて送ってくださるものを掲載していて、その体験や心情が多くの読者から共感を呼んでいます。そういった生きた言葉をたくさん載せていくことで、ある意味『婦人公論』は人生のショーケースのようになっているんですね。そのどこかに心の琴線に触れるようなところがきっとあるし、それは時に自分自身の生き方のヒントにもなるでしょう。『婦人公論』はそういう“生き方”の雑誌であり、多くの読者もそれが読みたくてついてきてくださっているのだと思います。
――『婦人公論』には多彩な著名人の方々が登場しています。それぞれのインタビューもボリュームがあり、とても読み応えがありますね。
三浦 読者層は50代以上の女性が多いので、大地真央さんや加賀まりこさんのような方が表紙に登場された号や、佐藤愛子さんや瀬戸内寂聴さんの記事が載る号は反響が大きいのですが、誌面は20代から100歳代まで楽しんで読んでもらえるように作っていて、インタビューも幅広い世代の方々にお願いしています。今回のリニューアルから「名優たちの転機」というベテラン男性俳優を取り上げるロングインタビュー連載も始まりました。一方、旬で勢いのある俳優やタレントのインタビューには、若い方が「初めて買ったけど、他の記事も面白かった」と嬉しいお便りをくださったりも。そのインタビューをwebに転載すると、Twitterなどで話題になって、さらに多くの方々が興味を持って読んでくださり、『婦人公論』を知っていただく機会となっています。
正直な気持ちを伝える役割と培ってきた信頼
――最新号からは、松山ケンイチさんのインタビューがYahoo!ニュースにも掲載されていました。この記事も松山さんの日常の生活や考え方についてたっぷり語られていて、とても興味深かったです。
三浦 インタビューにお応えくださる方も本当に腹を割って、いろいろと本音を話してくださることが多いんです。とくに「独占告白」と銘打ったロングインタビュー記事では、さまざまな著名人の方々が人生の転機における胸中を語ってくれました。23年前に三田佳子さんがご家族のことでバッシングを受けた一件について赤裸々に語った9時間の独占インタビューは、大きな話題になり、以来、三田さんは折に触れてご登場くださっています。『婦人公論』は、「きちんと伝えたい」と思われる方に、内面を語っていただける場としての役割を背負ってきたメディアです。一昨年、青木さやかさんがインタビュー記事の掲載後に「インタビューでしゃべっている間に自分の気持ちを整理することができたし、記事になった原稿を読んで自分のことがよりいっそうわかってきた」と言ってくださったことが印象に残っています。人に語ること、そしてその思いが原稿になることによって、語った人も、読んだ人も救われる。今はSNSやYouTubeなどで個人的な発信が簡単にできる時代ですが、著名人の方が告白する場として『婦人公論』を選んでくださる意味はあると思っています。
――『婦人公論』だからこそ、ということなんでしょうね。
三浦 はい、ありがたいことです。去年は大和田美帆さんがコロナで急逝されたお母様の岡江久美子さんの一周忌を終えられて初めてインタビューに応えてくださいました。それまでどのメディアにも出ていらっしゃらなかったのですが、テレビ番組の『徹子の部屋』と『婦人公論』だけはと、出てくださったんです。取材に応えていただけたのは「母が好きな雑誌でしたから」ということでした。岡江久美子さんが生前に何度も『婦人公論』に登場くださっていましたから。これまで「今を生きる人たちの言葉を伝える」ことを長く続けてきて、それが『婦人公論』の信頼になっているということでしょう。私たちもそのバトンをつないでいきたいと思います。
――『婦人公論』では多くの一般読者も「読者体験手記」など投稿という形で自分の気持ちを語っています。最新号では読者アンケート企画『558人の「幸せ度」大調査』が掲載されています。こちらもまさに「人生のショーケース」という感じで大変面白かったです。「読者のひろば」「愛読者グループ便り」というコーナーを含めて『婦人公論』は読者との距離が近く、雑誌文化コミュニティのようなものが形成されているようにも感じました。
三浦 「読者参加型」は長く続く伝統で、読者の皆さんは本当にたくさんの投稿をしてくださいます。今は特にコロナ禍でお友達とお茶しておしゃべりする機会も減っていますし、お年を重ねて一人暮らしをされている方も多い。みなさん、自分のことを伝えたいというお気持ちがあるのかな、と。「愛読者グループ」というのは、昭和9年ごろから各地に生まれたものです。独自に読書会や講演会を開催して、その活動報告を送ってくださるという仕組みが現在まで連綿と続いています。今はコロナ禍で以前のように集まることは難しいようですけど、『婦人公論』という雑誌を軸にそういった文化活動が続いているのは嬉しいですね。
アンケート企画は、まさに女性の人生の数だけ物語があるという『婦人公論』の姿勢が見える企画だと思いますし、毎回ぜんぶ紹介できないのが本当にもったいないくらいです。投稿の中には切実な悩みについてのお話も結構あるのですが、投稿者の思いや生き方を読むことで、読者の皆さんが自分の悩みを相対化する助けにもなっているのかなと思います。今回のアンケート企画は『幸せ度調査』というテーマでしたが、ご自分の「幸せ度」をパーセンテージで示してもらった結果は、平均77.6パーセント。多くの人が「いまは幸せ」と感じているんですね。改めて読者の皆さんが毎日を楽しく幸せに過ごすことに意欲的であることがわかりました。新しく生まれ変わった『婦人公論』でも、皆さんの悩みに寄り添い、気持ちを明るくする読み物を充実させていきたいと思います。