残る遺伝子/前島亜美「まごころコトバ」㉑
公開日:2022/2/4
こまつ座の第140回公演「雪やこんこん」に出演した。
井上ひさし先生が座付作者であり、井上先生の作品を専門に上演されている“こまつ座”。
あこがれであり、目標でもあった公演に携われると決まった時、本当にうれしく、そしてまた、しっかり務めなくてはという責任を感じていた。
初めて稽古に参加したのは2020年3月だった。春に上演するはずだった公演。右往左往しながら必死に食らいついて稽古する毎日はあっという間で、「さあ、いよいよ通し稽古だ」というところで、1回目の緊急事態宣言のため、稽古どころか全公演が中止となってしまった。
こまつ座を楽しみに、ずっと頑張っていた。ここまで稽古してきたのに、お客様に見せられずに終わってしまうのか……。
どこにも気持ちのやりようがない。こんな経験は初めてだった。
「また、必ず」と先輩方ともお話をし、ようやく、2021年の11月、再始動することができた。1年半ぶりの出会いを感慨深く思う中、今回共演が叶わなくなってしまった先輩がいた。
「この役がやりたかったんだ。いい芝居なんだよ」と誰よりも早く稽古場にいらしていた背中を、今でも鮮明に覚えている。
教えていただいたことを忘れず、あの時の思いも空気もすべて持って舞台に立ち、お客様に伝えなくてはと、日々稽古に打ち込んだ。
迎えた初日。ようやく、ようやく、お客様に見ていただけた。あの気持ちは、忘れられない。
舞台上で、座組(舞台に関わるチーム全体)の中で、1年半の思いを溜めに溜め、育てあげた作品がお客様を通して劇場いっぱいまで大きくなった。そんな感覚だった。お客様や出演者で笑い合いながらも涙が止まらない、とても特別な初日となった。
舞台の世界では楽屋裏で初日挨拶というものがあり、販売しているパンフレットやグッズをスタッフさんからいただくことが多い。
いただいたパンフレット「the座」。ここに書かれていたこまつ座の思いを目にした時、大変感銘を受けた。
「雪やこんこん」は1987年初演の作品。
昭和20年代の終わり、大衆演劇の旅一座「中村梅子一座」が、移り変わる時代に翻弄されながら、役者とは、芝居とは、夢や人生とは、を考える義理人情に溢れた作品だ。
役者の物語である「雪やこんこん」は名台詞で溢れている。
台本を初めて読んだ時は衝撃的だった。心に響く言葉ばかりで、するするとページをめくることができず、ひとつひとつの言葉を噛みしめるように読み進めていった。
演劇や芝居が好きなことを誇らしく思えるような、心の栄養となる言葉に溢れ、役者や演劇好きへの応援歌のような作品だと思った。
劇中に「芝居を観ると寿命がのびる」という台詞がある。芝居が何をもたらすのか。
「芝居を観て寿命がのびるからなんなのだ」と今の世の中だからこそ、より深く考えながら、向き合って稽古をしてきた。
このご時世にエンターテインメントが何をもたらすのだろうかと、難しい悩みだが、考えることもまた楽しく、台詞を何度も聞く度に、言葉がより心に沁みていった。
こまつ座の演出家・鵜山仁さんの言葉に「交流」というものがあった。
“これまでの役者達が作ってきた「中村梅子一座の遺伝子」が作品に残っている。お客様の心に。座組の心に”と。
私が生まれるずっと前から紡がれてきた物語。
芝居の中で表情や声を台詞に託すことで、そういった“目に見えない世界の支え”とも交流することができる。
再共演が叶わなかった辻萬長さん。これまでの大先輩の中には、中嶋しゅうさんのお名前もあった。
稽古初日から、舞台セットも衣装も小道具もすべて揃っていた。そんな現場はなかなかない。役者だけでなく、プロフェッショナルな裏方のこれまでの思いと遺伝子も、すべてここに宿っているのだと感じた。
その遺伝子のひとつに、私の思いも重ねられるよう、大千秋楽まで、やり遂げたいと思う。
劇中で特に好きな台詞がある。
「役者には白粉を塗れないところが一ト所あってそれが両の目。化粧がきかないから、その目に正真正銘の芸があらわれる」
「マッスグニ、マッスグニ、芸で押してきた者がバカをみる世の中はみとめない」
生きていく中で悩んだ時、役者としての在り方に迷った時、何かを見失いそうになった時、必ずこの出会いと、言葉に立ち返りたいと思う。
忘れられない貴重な経験と出会い。役者として大切なことを忘れず、成長した姿で、この舞台に関わった皆さんと再会できるよう、コツコツと積み重ねていきたい。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。
Twitter:@_maeshima_ami
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