本を書くこと、本を読むこと。ミステリを書いた所感/小林私「私事ですが、」
公開日:2022/2/5
美大在学中から音楽活動をスタートし、2020年にはEPリリース&ワンマンライブを開催するなど、活動の場を一気に広げたシンガーソングライター・小林私さん。音源やYouTubeで配信している弾き語りもぜひ聴いてほしいけど、「小林私の言葉」にぜひ触れてほしい……! というわけで、本のこと、アートのこと、そして彼自身の日常まで、小林私が「私事」をつづります。
小林私です。
私事ですが、という駄洒落のような連載も早半年ほど経過しました。前回の「幽霊のいる窓」から今回で17回目となります。
初めの頃と比べると少しは読み易い文章が書けるようになってきたのではないでしょうか。
ミュージシャンが何か文字を連載する、というと大抵はコラムやエッセイで、かつそれを期待されているものだという認識がありましたが、あるのにも関わらず、垣根なく様々な文章に挑戦させて頂いていて、ダ・ヴィンチWebさんには毎度有難いなあと思っている次第です。
今回は僕の軽い読書遍歴と、初めての挫折について
実は、というほどのことではありませんが、絵や音楽や、アニメやゲームに見向きもせずに、まず本を読むことから僕の人生は始まりました。
といっても初めは絵本です。「からすのパンやさん/加古里子」や寺村輝夫、せなけいこ、「あらしのよるに/きむらゆういち」とか、シルカ小学校のブキミともだちシリーズとかもありましたね。僕はこれで赤チンの存在を知りました。ここら辺なんかは、今は本を読まなくなった人でも結構読んでますね。
小説を読み始めたきっかけは明確に覚えています。
「白銀ジャック/東野圭吾」
人生を変えた一冊を敢えて挙げるならこれです。
いや、きっとこの本でなくても別の本がきっかけになっていたとは思うんですが。
学校の図書室の貸し出しカードってありましたよね。
小学校の僕はあまりに本を借りすぎて小二にして全校生徒貸し出し冊数ナンバーワンをとった事があります。それだけでは飽き足らず放課後には市の図書館に行っていました。
そういう、とにかく文字を読みたい少年だった時に、この本がたまたま家に置いてあるのを見て手に取りました。
絵本や児童書や伝記でない本を読むのは多分これが初めての経験です。
初めての血湧き立つサスペンス。それから本屋で本を買うようになりました。
東野圭吾、松岡圭祐、山田悠介、有川浩、米澤穂信、アガサ・クリスティ、三上延、天野頌子、大沼紀子、神永学、その他様々。分厚ければなんでもいい、みたいな買い方をしていたこともあります。
読書大好き中学生といったラインナップでいいですね、というか自分が読んできた本を羅列するのってなんか恥ずかしいですね。
こういった経緯で読むことは沢山してきたんですが、今まで、読み物としてまとまった文章を書くということは殆どしてきませんでした。
思い返しても、掲示板サイトでランキング外の携帯小説やなろう系にも鼻で笑われそうな「メアリー・スー」まみれの雑文を書き殴るか、ここ数年は健忘録のようなものを片手間に書き置くか、くらいのものでした。
あとは、うーん。
これは今でも恥ずかしすぎてまだ言いたくないくらいの話なんですが、小学校五、六年生くらいの時だったでしょうか。
何かの授業で「自分で物語を書いてみよう」という旨の課題が出ました。当時図書委員も務めていた僕は当然自信がありましたし、司書の先生からも「すごく本を読んでいるし、いいのが書けるんじゃない」と期待もされていました。未だにタイトルを覚えています。
『ツバメの一生 小林亮太』
これが最高に面白くなかった。
面白いものを書きたい、かつ”かましたい”。思春期で最もやってはいけない事の一つです。
内容は触れるまでもなく、殆ど図鑑の箇条書きです。周りの評価など気に留める以前の問題、書きながらも書き終わっても、全く面白くなかった。
そんな絶望の最中、クラスメイトの優秀作品の原稿のコピーが配られました。タイトルはおぼろげな記憶ですが、確か「サンタクロースがいなくなった日」
これが最高に面白かった。
小学生にしてサンタクロースの在否に言及する非凡さからノックアウトされ、しかもちょっと泣けた。
僕が人生で味わった唯一の挫折です。