煉獄さんの「うまい!」にも納得。もはや飯テロ、ufotableのスゴすぎる料理作画/TVアニメ『鬼滅の刃』第9話
公開日:2022/2/4
その男には、戦う理由があった。大正時代になり衰退しつつあった一族の末裔は、幼少期から刷り込まれていた価値観を否定し、戦いに身を投じる。自分の目的のためでなく、守るべき人のために。覚悟を決めた男は、鬼に刃を振るう。
TVアニメ『鬼滅の刃』遊郭編・第9話「上弦の鬼を倒したら」は、鬼の首領・鬼舞辻無惨の血を受け継いだ上弦の鬼・堕姫と妓夫太郎の戦いが、いよいよ佳境に突入するエピソード。今回アニメ化されたのは、原作コミックスの第11巻第90話「感謝する」、第91話「作戦変更」、第92話「虫ケラボンクラのろまの腑抜け」の途中まで、である。竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助、そして宇髄天元がほぼ全編を通して戦い続けているが、その中で宇髄天元の過去をアニメオリジナルのシーンとして描くことで、宇髄の戦いぶりを多面的に描いている。
アニメオリジナルのシーンでは、宇髄と雛鶴、まきを、須磨の3人の嫁が、宇髄一族が祀られている宇髄家之墓を訪れていた。満開の桜の下、小さな墓石に宇髄たちは手を合わせ、お酒をかける。「兄弟たちが生きてたら、みんなで飲む日もあったかもな。悪いが、まだオレは死ねてねえ。美味い酒を持ってきたから今日は勘弁してくれ。いつかそっちで飲むか」――。やがて、代々続いてきた忍びの一族だった宇髄家にしては小さすぎる墓石の前で、4人は弁当を広げ、食事を始める。「あいつらの分まで派手に食ってくれ」。
宇髄は、時代に取り残されてしまった忍者の一族における、次代の頭領として生まれた。兄弟は9人。幼いころから過酷な修行を重ね、年齢が一桁の段階で3人の兄弟を失ってしまう。残った6人は、頭領である父親の命令により、顔を覆面で隠して殺し合いをさせられることに。兄弟を殺めてしまったことに気づいた宇髄は、忍びの在り方に疑問を覚えると、宇髄家から出奔。宇髄の迷いを受け入れた産屋敷耀哉のもとに身を寄せると、鬼殺隊の一員として「人を守るため」に鬼と戦うことを決意したのだった。
宇髄家之墓の前で、宇髄は「(亡くなった兄弟を)一時も忘れたことはねえよ」と言う。そして、「オレはいつか地獄に落ちる」と嫁たちに言い放つ。宇髄の覚悟はすでに定まっている。「兄弟たちのためにも目一杯派手に生きてやる。お前らとな」。しっかりした雛鶴、勝気な性格なまきを、甘えん坊で泣き虫の須磨の3人が、宇髄の本音を受け入れる。嫁たちの騒がしくも楽しい会話と、美味しそうなお弁当。戦いに身を投じる宇髄と、彼を支えるものが描かれたシーンだった。
このアニメオリジナルシーンは、桜の花びら散る美しい映像が印象的だったが、何よりも素晴らしいと感じられたのが、お弁当の作画だ。焼き魚の切り身、芋の煮っころがし、蒲鉾、だし巻き、豆、エビ、フキの煮物と、派手好きの宇髄の印象に反する茶色系の食材が主体の地味な料理が登場し、その派手でないところに親近感がにじみ出ていた。
アニメ『鬼滅の刃』を手掛けるアニメーション制作会社ufotableが手掛ける「食べ物」の作画は、毎回素晴らしいこだわりを見せている。TVアニメ無限列車編・第一話に出てきた「天ぷらそば」の分厚い天ぷらの美味しそうなこと! 天ぷらのサクサクパリパリ感は見事だった。また、無限列車編・第二話の牛鍋弁当も、こってりと煮付けられた牛肉と味付け煮卵は煉獄さんが17回も「うまい!」と叫ぶのもうなずけるビジュアルだった。
もともとufotableの料理作画には定評があった。アニメ『衛宮さんちの今日のごはん』(2017~2019年)では毎回、めちゃくちゃ美味しそうな料理作画を披露。脂の照りが素晴らしい「鮭ときのこのバターホイル焼き」(第2話)、米粒ひとつまで丁寧に描き込んだパラパラな「遠坂さんの五目炒飯」(第8話)、同じく繊細な描写のチキンライスの上に、半熟卵焼きがとろっとあふれていく「特製ふわとろオムライス」(第11話)。過去の作品で培った料理作画が、アニメ『鬼滅の刃』でも存分に発揮されているのである。
このアニメオリジナルシーンの絵コンテを手掛けているのは、外崎春雄監督だ。これまでアニメ『鬼滅の刃』の全カットをチェックし、作品を高めてきた人物である。彼は原作コミックスに真摯に向き合い、宇髄天元の心のドラマを丁寧に描いた。彼の映像を組み立てる力は、アニメオリジナルシーンだけでなく、第八話後半のアクションシーンでも発揮されている。我妻善逸と嘴平伊之助が堕姫を追い詰めるシーンで原作コミックスの構成を置き換え、アニメならではのスリリングさを生んでいたのは、外崎監督の絵コンテの手腕と言えるだろう。
原作があるアニメ化作品にアニメオリジナルのシーンを入れることにリスクが伴うのは事実だ。とくにアニメ『鬼滅の刃』は原作コミックスのセリフやカット割りに準じているだけに、アニメオリジナルシーンが入ったときの違和感は、どうしても生まれてしまうものだろう。しかし、ドラマがほとんど動かない、戦闘シーンが長く続く遊郭編においては、アニメオリジナルのシーンを入れなければ、TVアニメとしてはただ戦闘が続く単調なものになってしまうかもしれない。そこで、宇髄のドラマを厚く描くことで、TVアニメとしてのバランスを取りつつ、このあとに続く物語を盛り上げるための伏線を張っていく。第九話は、外崎監督の巧みな手腕が感じられたエピソードだったと言えそうだ。
いよいよ戦いも決着へ。倒れてしまった宇髄、伊之助と善逸。堕姫の頭を持つ妓夫太郎と炭治郎が向かい合う。はたして戦いの行方はどうなるのだろうか。次の第十話も見逃せない。