新・変態家族/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉗

小説・エッセイ

更新日:2022/2/4

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

一昨年の7月から長年続いた妹(天才女優)の扶養を外れお笑い芸人の皆様と家族(ルームシェア)となっている。

メンバーは蛙亭イワクラ、森本サイダー、ママタルト大鶴肥満と僕の4人。

芸人としては素晴らしく、人間としてはそれぞれがそれぞれの角度でどうしようもない4人だが、どうにかこうにか力を合わせてとても居心地のいい家庭を築いてきた。

だがしかし、いつまで続くかわからない時間の終わりってのは本当に突然に訪れるもんで、昨年末に我が家のお掃除チキン南蛮担当大臣であるイワクラ先生が卒業した。

時期も時期でみんなバタバタしていて、送別会なんてのも出来ずに瞬く間にいなくなった。とてもとてもさみしいことであるが、新居はうちから5分のところであり、なんか晩飯とか食いにしょっちゅう訪れるので別にさみしいとかは気のせいであった。

そして年が明けた1月5日の朝。

我が家の敷居を1人の男が跨いだ。

芸歴10年目、満を持しての東京進出、孤高のピン芸人佐川ピン芸人である。佐川ピン芸人までが芸名である。蛙亭イワクラ out 佐川ピン芸人 in なのである。これから先はルームシェアの仕事なんて来るわけがないのである。

そもそもなぜこの男が我が家の戸籍に入るのかというと、たまたま東京の家を探している彼から連絡が来て、たまたまイワクラ先生が卒業する時期と同じだったので迎え入れたから。本当にタイミングのみで入居したのだ。

もっと根本的なことを言えば、僕はこの佐川ピン芸人という男と過去に1度しか会ったことがない。サイダーは大阪時代に親交があるらしいが、僕はまじ全然どういうやつかわからない状態継続中。

そこで今回は、少ないながら我が家の新メンバー佐川ピン芸人について僕のわかっている限りの情報を皆様と共有したいと思う。

まず佐川ピン芸人という男はかなり純度の高い関西芸人であるということ。

彼が入居してから、僕はあまり家にいる時間がなくしっかりと同じ時間を過ごすことがなかったのだが、先日濃厚接触者疑いで自宅待機している際に2人で夕方の情報番組を観ていたところ、やれダイアンさんのロケはないのかとか、やれメッセンジャーあいはらさんはスタジオにいないのかとか、やれこのアナウンサーはいつボケるんだとか、こいつ新宿ってギリ関西だと思ってるのかとしか考えられない発言を連発していた。あまりにもやかましいので、東京の夕方の情報番組でお笑い芸人がロケをすること自体ほぼ皆無であり、夕方の情報番組のスタジオで笑いをとっているのは安藤優子さんしかいないという事実を1時間弱話させて頂いた。

その後どうにか納得させたかと思えた矢先に、彼は自前のたこ焼き機でたこ焼きを20個焼いて晩ご飯として食事を始めたのである。

こいつは東京無理だと思った。染みつき過ぎている。僕も月の3分の1は大阪にいるが、こんなにも西過ぎる芸人は向こうでもあまり見ない。喫茶店でネタ合わせをしている僕らに、東京めっちゃ住みづらい漫談を2時間お見舞いしたメッセンジャー黒田さんくらいである。いや黒田さんは東京を知っているからまだいい。この男は東京を知らな過ぎる。名古屋辺りで検問引っかかっても不思議ではない。今後の彼の為にも、次晩ご飯にたこ焼きを焼き始めたらぐちゃぐちゃにしてもんじゃにしてやろうと思っている。これが東京なのさと、デザートにマリトッツォでも口に詰め込んでやろうと思う。

なんかまずはとか言ったけど正直佐川ピン芸人についての情報はほぼこれしかない。あとはめっちゃレコード好きでめっちゃギター弾いてめっちゃ細いめ————–っちゃおかっぱくらいのもんである。

佐川ピン芸人。僕は今彼に興味津々。今後も動きがあり次第、記録として皆様にご報告させて頂く所存なのだ。

一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。