『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る⑦(速水奏編):飯田友子インタビュー
公開日:2022/2/11
『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトがスタートして、2021年で10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第7回は、数々のライブで圧巻のパフォーマンスを披露してきた速水奏役・飯田友子に話を聞いた。2021年末に開催された10周年ライブの愛知公演(「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! CosmoStar Land」)でも話題を呼んだ“Hotel Moonside”について、熱く語ってくれた。
※本取材は、愛知公演が当初予定されていた2021年9月以前に行なったインタビューです
「ただ楽しそうだからやった」にしない強さ、引き受けたからには責任を持ってやっていく姿にグッときて、改めて速水奏が好きだなって
――飯田さんが2015年から参加されている『シンデレラガールズ』の10周年について、どんな感慨がありますか。
飯田:私自身は、未だに途中から参加している印象が強いので、育てながら走り続けてきてくれた先輩やスタッフさん、プロデューサーさん達が熱量を持って10年続けてきたことを、とてつもないことだと思っています。第一線で皆さんが活躍されてきて、自分自身もファンだった時期があるので、「ありがとう」の気持ちが大きいです。オーディションを何度か受けさせていただけて、1回目のときに――結果的に落ちましたが――初めて誰かに興味を持ってもらえたかもしれないと感じて、自分自身が充実したオーディションをさせていただきました。それからも何度かオーディションに呼んでいただけて、行くたびにもっと『シンデレラガールズ』のことを知りたいと思いました。最初はお仕事として調べていたけれど、だんだん「こんな子もいるんだ」、「この子かわいいな」「この子に声を当てたいな」と、自分が関わるようになってからさらに思うようになり、そこに混ぜてもらえてる嬉しさがあります。
――実際にプロジェクトに参加してみて感じたのはどういうことでしたか。
飯田:ゲームの中と同じように、声優としてアイドルを担当されている方たちのおひとりおひとりが、自分の個性を大切にされてるな、と思いました。キャストが揃うとちゃんとグループになりますが、誰といるかで立ち位置が変わったり、自分が見てきた『シンデレラガールズ』が現実にもあるんだな、という感じがしました。ライブに出るメンバーもその都度違うので、ライブがあると聞くと、「今回は誰と一緒なんだろう」みたいなワクワク感があります。
――飯田さんが演じる速水奏と出会ってから、5年以上の時間が経っているわけですけど、とても個性的というか、キャッチーなセリフも印象的なアイドルですよね。彼女に出会ったときに感じたことと、長く演じてきた中で印象が変わった部分について教えてください。
飯田:初めて会ったときは、速水奏のファンとしての目線で、「ミステリアスなところがカッコいい」と思っていて、余裕を見せる姿に惹かれました。そこから、単純に常に余裕な人なのではなくて、実は何か考えや自分の意図があったりして、余裕に見せてるところがあるとわかって。見え方を考えてはいるけど、考えていることを悟らせないというか、難しい子だなと思いました。でも、その難しさが人間として愛嬌があって、プロ意識も高くて、アイドルとしての見え方を大事にしてる子なんだ、という意識が徐々に芽生えていきました。
それと最近、高垣楓さんとデレステ(『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』)のコミュでユニットで、今まで初めてというくらい、本音がちりばめられているシーンがあって。「こうなりたい、けどなれない。本当は悔しい」みたいなシーンで、自分が思っていた以上にとても熱い女の子なんだなって思いました。アイドルを始めたきっかけは、プロデューサーさんがちょっと面白い人だったから乗ってみた、誘われたからやりました、という雰囲気なのかなと思っていましたが、それを「ただ楽しそうだからやった」にしない強さというか、引き受けたからには責任を持ってやっていく姿にグッときて、改めて速水奏が好きだなって思いました。
――最初は1枚のイラストから始まって、ビジュアルからどういう子なのかを想像したり、演じるセリフで実感する部分もあると思うんですけど、「速水奏ってこういう子なんだな」とイメージが固まったきっかけはありますか?
飯田:収録に行くたびに新しい一面があります。「ここは確実にこういうことだな」って当てられたことがないです(笑)。自分とはまったく全然違う考え方の女の子だし、たぶんプロデューサーさんにも見せていない部分が沢山あると思うので、すごく惹かれます。だから私自身は手の平で転がされている感じです(笑)。演じながら、ひとりの女の子として惹かれますし、顔もすごくタイプです。
(3rdライブで)速水奏の“Hotel Moonside”を認めてもらえた感覚になりました
――彼女を演じたり、ライブのステージで歌うときに、飯田さんの中で「ここだけは外せない」と決めている部分についてはどうでしょう。
飯田:演じるときは、奏の本心と、どう見せたいと思っているかを自分で考えていきます。外に見えるのは、結局「どう見せたいか」の部分は、内心にはイエス、ノーで出せる答えがあって、「外にはイエスって言ってるけど、ほんとはノーだな」というときに、できるだけ「本心はどっちなんだろう?」と思ってもらえるような感じにしたいと思っていますし、そこはずっと大事にしていきたいと思っています。
――それ、かなり難しいことじゃないですか?
飯田:難しいです。もう、収録が終わったあとは疲弊しています(笑)。常に、セリフの1行1行に感情を流していく感じですが、大変だけどやりがいがあります。
――裏表があるのではなく、常に本心はどこにあるのかが見えないようにしていく。
飯田:だからこそ、“Hotel Moonside”ってすごい曲だなって思います。というのは、「月みたいな人だな」と思いました。月の裏側って、ずっとあるじゃないですか。お客さんに隠してるわけでもないし、嘘をついているわけでもないけど、地球からは一生見えない。。これは最近思っていたことなんですが、月なんだなって実感して、エモ~ってなりました(笑)。
――その解釈、とても納得感があるような気がします。太陽というよりは月、ですよね。
飯田:太陽とはまた違うんだろうなあ――やっぱり、コミュで演じていることは大きいです。楓さんとのシーンもですが、いろんなアイドルと接していく中で、新田美波ちゃんとの掛け合いをしていくときに、「太陽に憧れてる」「朝日に憧れる」みたいに感じられることもあって。月と太陽って、一緒には揃わないです。自分の中で、美波は太陽のイメージがあって、ふたりが並んだときに、なんとなく「月と太陽だな」って思ったので、そのイメージも大きいのかもしれないです。
――さっき話してくれたように、“Hotel Moonside”は本当にすごい曲だと思います。わりと長い付き合いになっていると思いますが、この曲は飯田さんにとってどういう存在なんでしょうか。
飯田:アイドル・速水奏の名刺というか、「速水奏はこういうアイドルです」が詰まっていると思います。ゲームの中での話をすると、プロデューサーさんはステージの裏側の奏を見ていられるじゃないですか。でも、この現実の世界に速水奏がいたとしたら、私はファンの一人としてそういう裏側の姿を見られないので、あくまで「速水奏はこういうイメージです、こういうアイドルとして売っていきます」が“Hotel Moonside”には詰まっていると思います。だからアイドル・速水奏としての責任も感じるし、誇りがある楽曲で。どんな曲を歌うときも、“Hotel Moonside”がベースにあって、「こういう姿を見せたい」という速水奏が第一にいます。それを踏まえて、「この曲ではこういうアプローチをしましょう」と考える目印になっているので、アイドルとしての速水奏の名刺、のイメージが強いです……ややこしくてすみません(笑)。
――(笑)曲を解釈しまくってますね。
飯田:最近の速水奏ちゃんは、内面を見せてくれる描写が多くてあって、それもとても嬉しいし、一緒に長くいられるからこそ見られる一面だとも思います。でも、いろんなことをやってきて、改めて“Hotel Moonside”を歌詞として広げたときに、内面が全然見えないので何を考えている女の子なんだろうって思いました。7thライブ(「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 7thLIVE TOUR Special 3chord♪ Funky Dancing!」)で久々に歌わせていただけて、改めて曲と向き合ったときに、「そうそう、速水奏ってこういうアイドルだ」と再認識することができたし、大事な曲だなって改めて思いました。
――最初に渡されたソロ曲がこれで驚いたんじゃないですか。
飯田:当時は衝撃を受けました。どういうジャンルなのかもわからなくて。皆さんがライブ後のリアクションで言っているのを見て、「EDMって言うんだぁ」みたいな(笑)。おしゃれすぎて、自分の引き出しや飯田友子の音楽史にはなかった楽曲です(笑)。レコーディングでは、イノタクさん(“Hotel Moonside”作詞・作曲のTAKU INOUE)が仮歌を入れてくださったのですが、すごくカッコよくて、セクシーなんです(笑)。だから、ちょっと震えましたね。「これを収録日までにどうする?」って考えながら収録に挑みました収録自体は、とても楽しくできた記憶があります。
――何度も歌ってきた中で、グッときちゃうくだりもありますか?
飯田:2番の《天秤座行きのバス》というワードが好きです。あんなに大人っぽくて、曲もゴリッゴリなのに、バスを選ぶところが好きです(笑)。あの世界観にバスを使って表現するのもすごいなあ、と思いました。あと、ちょっと学生を感じる部分があって――「あっ、忘れてたけど17歳の高校生だった」みたいな部分もあって。1個1個のワードが刺さるので。バスも、きっと電車ではダメだったんだと思います。音楽用語がわからないですけど、1番と2番で後ろの音もちょっと変わるその中で、あの歌詞が浮き立つ感じが好きです。
――バスのくだりは、意外と夢見がちな部分が描かれているようにも感じますね。
飯田:ちょっとロマンチストな部分があるのかなって。初めて聞いた印象はセクシー、色気みたいなイメージだったのに、ふたを開けてみたら「こんなにかわいらしいことを考えているのか」と思って、そのバランスが絶妙だと思います。ライブで見せるときは絶対にカッコいいイメージが先行するんですけど、でもロマンチストなのかもしれない、とか――改めて、すごい曲ですね。これは一生思い続けると思います(笑)。
――ライブで披露された“Hotel Moonside”を見たときに、「とんでもないな、このパフォーマンスは」と衝撃を受けました。同時に、パフォーマンスをここまでのレベルに高めるのに、どれだけの準備をしたんだろうとも思ったんですけど、レッスン等でのエピソードを聞かせてもらえますか。
飯田:3rdライブの頃は、今よりも踊れてなかったし歌えていない状態でした。1番から2番にかけての間奏で歩くところがあって、「曲に合わせてカッコよく歩いてくれ」と言われて、それが上手くできませんでした。一緒に踊ってくださるダンサーさんとウォーキングのレッスンをしたけど「一向にカッコよく歩けない~」って言いながら、ダンサーさんに歩き方を見せていただきました。当時の話をすると、一緒にウォーキングの練習したことも覚えてくださっていて、「歩けるようになったねえ」って言ってもらえます。いろんな方に支えられてきました。ロングイントロをつけていただいて、ダンサーさんのショーケースから始まる演出になっていたので、とても緊張しました。未だに、ロングイントロの最初の音を聴くと動悸がします(笑)。ダンサーさんたちがゴリッゴリに踊ってる中で、「自分がボスだと思って真ん中に立ってくれ」って演出家さんに言われていたのですが、後ろではガタガタ震えててました(笑)。
緊張に押されたところもあったので3rdのときは……悔しさもありました。ただ、2番くらいでダンサーさんたちが視界に入ってくるようになって、そこで気を引き締め直した記憶があります。自分の楽曲のためにいろんな人が関わってくれたことを思うと、自分の中でガッとスイッチが入って、2番から終わりまで全部やり切ったときは、気持ち良さしかなかったです。その時点で、まだ曲を聴いたことがない方も沢山いたかと思いますが、皆さんが圧倒される姿を見られた、というか。「こんな曲なん?」みたいな空気を感じました(笑)。最後のアウトロで余裕ができて、ようやくプロデューサーさんたちの表情を見ることができて、「よかった。驚いてもらえた」と感じることができて、速水奏の“Hotel Moonside”を認めてもらえた感覚になりました。
――その後パフォーマンス自体も進化していってると思いますが、“Hotel Moonside”を最高の形で届けられたと思ったライブは?
飯田:個人的に好きだったのは、4thライブ(「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4thLIVE TriCastle Story」)です。二宮飛鳥役の青木志貴くんと、松永涼役の千菅春香さんと3人で披露させていただきました。ふたりが入ってくれているからこその責任感が芽生えていて、そのときは裏のLEDにアイドルのシルエットが踊っていて、いつの間にかそのシルエットがわたしたちに変わる、という演出で、自分の中では「速水奏と同じステージにいる感覚」がありました。ファンの一人として、すごくアガりました(笑)。7thライブでは、速水奏ともゆかりの深い宮本フレデリカ役の髙野麻美さんと二人でできたので、お客さんを圧倒して驚かせることができたかなって思います。
――速水奏のソロ以外にも、思い入れのある楽曲はありますか?
飯田:どの楽曲も思い入れはありますが、“Pretty Liar”はいろんな奏を見てきたからこそ、改めて奏の本心と、今後のアイドル・速水奏像を再認識した感覚が強かったです。あと“あいくるしい”は、もともと歌唱メンバーではありませんでしたが、デレステで実装されるときに追加メンバーという形で5人のうちのひとりにしていただいて。1曲目が“Hotel Moonside”で、バラードっぽく心情を乗せて切ない部分を見せるのは、この曲が初めてだった気がします。速水奏として歌うときに、奏特有の切なさを表現しやすくて、色が出しやすかったです。速水奏にはこの曲が合ってるなって、自分の中で感じた楽曲です。
――『シンデレラガールズ』は、飯田さんにとってどんな存在ですか。
飯田:これだけ長くひとりの子を演じられる機会ってそうそうないと思うので、不思議な感覚です。楽曲もコミュも、収録に行くたびに新しい一面がまだまだ増え続けるし、それは他のアイドルも同じです。関わるたびに印象が違っていて、自分が役を担当している作品ではありますけど、現実に女の子たちが存在しているような感覚になります。だからもう、「この子をこう演じたい」というよりは、「この子を幸せにしてあげよう」みたいな感じです(笑)。自分のすぐ側にいて、「この子が楽しんでくれるにはどうしようかな」と考えられるので、お仕事というより友達というか後輩みたいな感じです。ひとりの人間と接している感覚があります。
――では、飯田さんがいま速水奏にかけたい言葉は何ですか。
飯田:第1にあるのは「お客さんに喜んでもらえるか」「求められてる姿を見せられてるか」で、そこは大前提として大事にしたいです。10周年を経て、今後は速水奏自身がやりたいことや挑戦してみたいことを聞けたら嬉しいです。それを一緒に叶えられるように頑張りたいので、末長くお付き合いいただけたらと思います。
取材・文=清水大輔