「ぴえん」を知ると現代の若者の実像をより理解できる?
公開日:2022/2/9
次々と生まれる若者語は、若者が若者だけのコミュニティをつくるためにある、ともいわれる。例えば「ぴえん」という若者語がある。大人が知らない「ぴえん」が含む意味、ニュアンスを知れば、現代の若者の実像により迫れるかもしれない。
『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認(扶桑社新書)』(佐々木チワワ/扶桑社)は、「ぴえん」という若者語から、いわゆるZ世代の実像を描き出そうとしている。著者は、21歳の現役女子大生ライター。自身も15歳から実際に歌舞伎町に出入りし、多くの「ぴえん系」少年少女たちと出会い、交流してきた。
本書によると、2018年に「ぴえん」は誕生した。幼い子どもや若い女性が泣くときの表現としてアニメや漫画などで使われてきた「ぴえええ」「ぴえーーーーん」を簡略化した「ぴえん」という表現自体はそれまでもあったが、使う人によって度合いやニュアンスはさまざまだった。しかし2018年、スマートフォンに「嘆願する顔」「弁解する顔」を意味する絵文字「Pleading Face」が追加され、この絶妙な表情が多くの若者の抱える「大泣きするまでもない感情」を表現するのにピッタリであるとして、絵文字と言葉が定着した。「バイトしんどい。ぴえん」といった残念な感情だけでなく、「彼氏が優しかった。ぴえん」といった嬉しい感情なども表現される。現在はスマートフォンの変換機能に「ぴえん」と打ち込めば、「Pleading Face」が出てくるようになっている。
「ぴえん」は、やがて、「死にたい。ぴえん……」「眠剤、大量に飲んじゃった。ぴえん……」「(自傷行為をした写真とともに)ぴえんしちゃった……」といった具合に、ネガティブな言動のイメージも含んでいく。
本書は、さまざまな闇に落ちる未成年たちを、事例とともに紹介している。リストカット、薬物やアルコール類の多量摂取によるオーバードーズ(OD)などの病み要素までもファッション化するぴえん系女子、過激な行動をSNSにアップすることでアイデンティティを確立させるトー横キッズたち、「推しホストにお金を使わない私に価値はない」と自殺未遂を起こしたソープ嬢、など。著者は、大人が現代の若者を「Z世代」とカテゴライズすることに違和感を覚え、「ぴえん世代」と名付けることを提唱している。言葉の解釈が複雑多岐な「ぴえん」こそ、価値観が多様すぎる現在の若者の“色”だと主張している。
同時に本書は、「ぴえん世代」はSNSが当たり前にあって、何かを発言したり「好きなもの」を発信して生きている中で、自己肯定感や自分の価値観などを数字に依存し、自意識が煩雑になっている側面もある、と分析している。
本書の言葉を借りれば、「不安定な思春期をSNSによるまなざしと他者からの評価におびえながら、それでも他者からの承認に飢えて彷徨う」ぴえん世代は、大人からは滑稽に見えても、何者かになりたかったり、自分の居場所を求めたりしている。
私たち大人は、「イマドキの若者は…」と決めつけたり、レッテルを貼ったりするのではなく、本書などで彼ら彼女らの本質を少しでも知ることで、若者への理解と寄り添いを進められそうだ。
文=ルートつつみ
(@root223)