会社員、やめてもいいですか? 仕事に行くのがツラい人が、自分らしく働くヒント

ビジネス

公開日:2022/2/16

「会社は無理ゲー」な人がノビノビ稼ぐ方法
『「会社は無理ゲー」な人がノビノビ稼ぐ方法』(堀田孝治/技術評論社)

 大手企業の正社員という安定を手放して独立する人とは、どんな人だろうか。会社に勤めている人は特に、自信に満ちたメンタルが強い人物像を想像するかもしれない。しかしこの『「会社は無理ゲー」な人がノビノビ稼ぐ方法』(堀田孝治/技術評論社)は、そんな独立という働き方に対するイメージをガラリと変える。

 著者は、大手食品メーカーの味の素で、営業やマーケティング、人事などを経験した後に企業研修講師として独立した堀田孝治氏。会社員時代は、会社勤めという働き方にストレスを感じ、メンタルの不調で9ヵ月の休職も経験したという。しかし、独立後は、そんな自らの挫折経験をベースにしたオリジナルプログラムで人気講師に。そんな、会社員18年・独立から15年の実体験をもとに、会社員でいるのがつらい人が、独立して働くためのヒントを伝えるのが本書だ。

 冒頭のパートでは、「会社員には向かない人」の10の特徴を解説。「根回しが苦手」「働いた分だけお金がもらいたい」といった項目はわかりやすいが、「白黒はっきりさせたい」「完璧主義」などの性格が会社勤めに合わないという指摘は少し意外だ。組織で働くことの特性を交えた解説を読むと、「会社員がつらい」の原因がよくわかる。

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 では、会社員が向かないと自覚した人はどうすればいいのか。本書ではそんな人が独立へと踏み出す方法を、「仕事の作り方」「お金」「時間」「人間関係」「メンタル」の観点から伝えている。仕事は「得意なこと×好きなこと×誰かに貢献できること」の公式で作る、得意なことは人に対して「なんでそんなこともできないの?」と感じることから見つける、お金や時間に対する発想の転換など、独立へ向けて使えるメソッドが豊富だ。

 中でも「メンタル」に関するパートは発見が多い。著者自身、会社員時代は、独立したらプレッシャーや不安が増えると思い込んでいた、と語るように、独立には強い心が必要だと思う人も多いだろう。しかし著者は、会社員というスタイルこそが、自分のメンタルを削っていたと伝える。労働と見合わない月給、仕事内容を会社に決められること、会社との主従関係など、言われてみれば会社員はストレスフルだ。一見、安心を呼びそうな会社員の「安定収入」が著者のメンタルを揺さぶり、仕事をしたぶんお金をもらえる独立後の働き方が、心を安定させたという。弱みだと思っていた心配性で打たれ弱い性格が、こまやかな気遣いが必要な企業研修講師としての武器になったというエピソードは、「心が強い人=独立できる人」という思い込みをあっさりと覆す。

 会社員と独立、どちらが忙しいのか? 独立の最大のメリットは?など、会社勤めにモヤモヤしている人が気になる疑問にも著者は答えている。会社員の月給はサブスク制だから低く抑えられている、独立したら、報連相や資料作成など会社員時代に仕事だと思っていた作業の9割が消えるなど、会社で働く人がドキッとするような言葉も多い。

 一方で、独立の厳しさも率直に伝える。パソコンが壊れても誰も助けてくれない、失敗を誰のせいにもできない、有給休暇もない。トラブルや苦手な作業の対処法はもちろんあるが、それを活用するには、自分が専念すべきことを見極めるなど、冷静な判断力が必要だ。

 独立に向けて努力した会社員時代や独立後のエピソードから、著者が決して楽に成功したわけではないと伝わるため、本書を読んで安易に「独立したら稼げる」と思う人は、きっといないことだろう。独立はユートピアでも逃げ道でもない。しかし、限られた人に許される働き方ではなく、仕事や人生に真剣に向き合う人に与えられる選択肢だということが、著者の誠実な語り口から伝わってくる。会社でうまくいかない、転職してもやっぱりダメだったという人は、本書を読んで、自分の居場所を根底から見つめなおしてみてはいかがだろうか。

文=川辺美希