【2月22日は猫の日!】これはある町の片隅で生まれた命の物語 「やすらぎ治療室」で暮らす看板猫ミケちゃんの半生
更新日:2022/2/22
1匹の猫との出会いは人間の価値観や人生を変えることもあるが、ひとりの人間の熱い想いが猫の“ニャン生”を激変させることだってある――。ある町の片隅で巡り会った、優しい猫と優しい人の絆を描いた『ミケちゃんとやすらぎさん』(やすらぎさん、にごたろ/KADOKAWA)は、目頭が熱くなる猫コミックエッセイだ。
本作の主人公は、千葉県で鍼灸マッサージ治療院「やすらぎ治療室」を営む“やすらぎさん”こと、冨森猛さんと愛猫のミケちゃん。ミケちゃんは今でこそ、SNS上で多くのファンを持つ治療室の看板猫だが、実は元野良猫。
ここに描かれているのは、やすらぎさんとミケちゃんの出会いや築き上げてきた日常。『拾い猫のモチャ』の作者・にごたろ氏が優しいタッチで、ふたりの歩みを漫画化した。
野良猫から治療室の看板猫になった、三毛猫のミケちゃん
2013年頃、やすらぎさんとミケちゃんは運命的な出会いを果たす。当時、地域猫だったミケちゃんは、やすらぎ治療室の隣でご飯を貰う日々を送っていた。
先天的だと思われる要因で、ミケちゃんは後ろ足が1本ない。そのため、他の猫よりも走ったり、ジャンプしたりすることが少し苦手だったが、心優しい性格であったからか、地域のボス猫らに守られ、生きていたという。
そんなミケちゃんはいつしか、外から、やすらぎ治療室の中をうかがうようになる。それを見た猫好きのやすらぎさんは、日中だけ室内に迎え、外で生きるミケちゃんの暮らしに心を痛めるようになった。
だが、自宅にはデリケートな老猫がおり、治療室で一晩を過ごしてもらうのは外猫のミケちゃんには難しいように思えたため、頭を抱えたそう。次第に夜も眠れなくなったやすらぎさんは、ミケちゃんのために朝4時に起きて治療室へ行くという生活を送るようになった。
そんな暮らしが変化するきっかけとなったのは、ある嵐の夜。その日、夕方から姿を見せなかったミケちゃんを心配し、やすらぎさんは外で捜索。すると、ミケちゃんは自転車置き場の段ボールで雷の音に怯えながら、うずくまっていたのだそう。
その姿に胸を痛めたやすらぎさんは、そのまま治療室へ戻り、ミケちゃんと一緒に夜を越すことになった。
それからしばらく経った、寒い夜。なぜか何度、外に出してもすぐにお店に戻ってきたミケちゃんは、やすらぎさんをじっと見上げてきた。お願い。いい子にしてるからお店の中に入れて。そう訴えているかのような眼差しに根負けしたやすらぎさんは一晩だけ…と思い、治療室に泊まらせ、翌朝、少し心配しながらお店へ。
すると、そこには、いたずらをせず、いい子で過ごしてくれていたミケちゃんの姿が。この日以来、やすらぎ治療室はミケちゃんの安寧の地となったのだ。
愛猫と飼い主という関係性になったふたりは以後、互いを愛し、絆を深めてきた。本作には愛が詰め込まれたやすらぎさんのコラムと共に、ミケちゃんの写真も多数掲載されているのだが、やすらぎさんに撫でられている時の表情は特に幸せそうで、こちらも笑顔になってしまう。
なお、やすらぎさんだけでなく、にごたろ氏のミケちゃん愛にウルっとさせられるのも、本作の良さ。
“にごたろ先生と初めてお会いした時、先生は開口一番こうおっしゃいました。「作品を手掛けさせていただく上で、ミケちゃんの足のハンディのことはあまり強調したくないんです」その言葉を聞いて僕はとてもうれしくなりました。「あぁ、僕と同じ考えだ」と…。”
ミケちゃんを3本の足のかわいそうな猫ではなく、かわいくて優しい明るい猫として捉え、愛でるにごたろ氏とやすらぎさんの想いを知ると、本作はより心に染みる。
猫という動物をどれだけ愛し、この書籍を生み出したのだろう。そんな感情がこみ上げてくる、とある治療室で生まれた命の物語を、ぜひ心で噛みしめてみてほしい。
文=古川諭香