【5分で読める!】食卓の幸せは世界を平和にする。平野レミ『家族の味』

暮らし

公開日:2022/2/22

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家族の味
『家族の味』(平野レミ:著、和田誠:絵/ポプラ社)

こんな人にオススメ!

平野レミさんの料理愛好家としての活動の原動力を知りたい人
最近、家庭料理の魅力に目覚め、もっと料理を楽しみたい人
平野レミさんとイラストレーター・和田誠さんの夫婦の絆を知りたい人

3つのポイント

要点1
私は料理の勉強も研究もしていない、料理愛好家。家族の食事を一生懸命作っていたら、夫の友人に声をかけてもらって、料理愛好家としての活動が始まった。

要点2
味覚でつながる「ベロシップ」は、家族の絆を強くする。家族の幸せな食卓が、世界を平和にする。平和を作る中心は、キッチンに立つお母さんだ。

要点3
忙しい人は、手抜き料理もうまく取り入れてほしい。大切なのは、料理を楽しむこと。レシピ通りに作ろうと、勉強のように頑張らなくていいのだ。

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▼プロフィール
平野レミ(ひらの・れみ)
料理愛好家、シャンソン歌手。グラフィックデザイナー、イラストレーターの和田誠と結婚後、主婦として料理を作り続けた経験を生かし、雑誌のコラム掲載をきっかけに料理愛好家としての活動をスタート。NHK「平野レミの早わざレシピ」や「きょうの料理」などテレビ番組、雑誌を通じて数々のアイデア料理を発信。「レミパン」やエプロンなどのキッチングッズの開発も手がける。著書に、『ひもほうちょうもつかわない 平野レミのおりょうりブック』(福音館書店)、『ド・レミの子守歌』(中央公論新社)、『新版 平野レミの作って幸せ・食べて幸せ』『野菜の恩返し』(以上、主婦の友社)、『おいしい子育て』(ポプラ社)など多数。

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シャンソン歌手だった私が料理愛好家になるまで

 憎たらしい新型コロナウイルスに無理やりいいところを見出すとしたら、家庭料理の魅力が見直されたことだと思います。2019年に亡くなった夫の和田さんが生前、「お茶一杯、ごはん一杯でもうちのは格別」と言っていたように、家族で食卓を囲む喜びは格別。安心できる場所である家庭を笑顔で満たす近道は、美味しい料理を作ることです。だから私は、「キッチンから幸せ発信!」をモットーに料理を提案しています。

 私はもともと、シャンソン歌手。料理を勉強したこともないし、研究もしていないから、「料理愛好家」を名乗っています。子どもの頃から料理が好きで、家族や、夫のお客さんに出す料理を一生懸命作っていたら、夫の友人に声をかけてもらい、雑誌『四季の味』のリレー・エッセイに、いつもの手料理のことを書きました。これをきっかけに、他の雑誌やテレビの料理番組で、料理愛好家の仕事をするようになったのです。最初にNHKの「きょうの料理」に出たとき、薄切り牛肉とトマトを炒めるだけの簡単料理「牛トマ」を作りました。いつもやっているようにトマトを手でつぶしたら、視聴者から抗議の電話がかかってきたそうです。でも、平野レミの料理番組はユニークで面白いという評価もあって、その後も出演させてもらっています。

野山に囲まれ、近所の野菜をとって食べた幼少期

 私の父は、フランス文学者で詩人。友だちが多く、母は大勢のお客さんに出す料理をたくさん作っていました。母は、お客さんが「おいしい」と言ってくれること、そしてそれ以上に、お客さんが美味しそうに食べるのを見る父の嬉しそうな顔が好きだったのだと思います。父が喜ぶことが自分の喜びだった母は、料理を一生懸命作りました。愛情が、最高の調味料だったんです。それに、私が子どもの頃、母は、小さい私を邪魔に扱わずに、私のでたらめ料理で粉が飛んだりしても怒らず、私の興味の赴くままに、自由に料理をやらせてくれたんです。好奇心の芽を摘まない育て方が、自分にとって良かったと今になって思います。

 子どもの頃は野山に囲まれた環境で育ち、野菜が生長するのを身近に見ていたので、食材への愛情を感じていました。おやつも、駄菓子屋で買うのではなく、庭に作ったかまどと鍋で、近所の畑でとったサツマイモやカボチャを煮込んでお店ごっこをしたり。私の初めてのオリジナル料理は、小学校高学年のときに作った夕食。お腹がすいて、庭のトマトと台所にあったピーマンとたまねぎ、うどんを煮込んで、胡椒を挽いて食べました。自分で作った料理のおいしさと、「こんな世界があったんだ」ということを大発見。それから少しずつ、自分で料理を作るようになりました。

 自分で料理をやりながら発見していったこともありますが、母から教わったことも多くあります。そのひとつが、ステーキの焼き方です。母はとてもステーキを焼くのが上手で、半年に一度、父の詩の会のメンバー30人ほどが集まる日に、1枚焼くたびに銅のフライパンを丁寧に洗い、美味しいステーキを焼いていました。日米のハーフの父は外国のものや美味しいものが好きで、私にいろいろなものを食べさせてくれました。そんな味にうるさい父のために、母は頑張って料理をしたのだと思います。

結婚が私の料理の腕を上げた

 夫は知り合う前は私のことを「おかしな歌手だな」と思っていたと聞きました。でも、初めてのデートで行ったしゃぶしゃぶ屋で私が店員にタレのことを質問したのを見て、料理に興味がある人だ、いい奥さんになれそうだと思ったそうです。夫は食べることに命をかけていて、私は結婚当初「たいへんな人と結婚しちゃった」と思いましたが、「それならきちっとやればいいんだ」と思い直しました。

 私のユニークな料理は注目されることが多いですが、家では、納豆と海苔、きんぴらごぼうなど、ごく普通のものを出すことが多いです。でも、アイデア料理を作ると、食いしん坊で好奇心の強い夫が先に箸をつけて、優しい言い方で評価をしてくれます。するとやる気が出て、料理が上達するんです。だから夫には、新しい料理の実験台になってもらうことがよくあります。料理では、作る人と食べる人の関係性がとても大切なんですね。

 そんな夫との結婚は私の料理の腕を上げましたし、子どもが生まれたことは、食べ物のことを真剣に考える糸口になりました。子どもが食べる料理には、加工品ではなくできるだけ素材を使うようにしましたが、仕事を持っていると、できあいのものに頼らざるを得ないこともあります。そういうときは、炒めた野菜とスパイスをレトルトのカレーに加えるなどして、手を加えるように努めました。子どもに、我が家の味を覚えてもらいたいと思ったからです。子どもには、私が台所で料理をしている姿も見せるようにしました。そうすれば、できあがった料理を食べる喜びが倍増するし、待つ時間だって楽しくなります。食材が調理されて変わっていく姿を見る、音を聞く、香りを楽しむなど、料理にはいろいろな味わい方があります。料理は、味覚だけではなく、五感で感じられるごちそうなんです。

家族の絆を強くする「ベロシップ」

 私が大切にしているのは、ベロ=味覚で家族の絆を強くする「ベロシップ」です。お母さんが作ったわが家の味で家族がつながるし、食事を共にすることで似た味覚を持ち、愛情を育むことができます。食卓を囲む家族が笑顔になることで、町じゅうが幸せになって、国が幸せになって、世界が幸せになる。だから私は、平和を作る中心は、キッチンに立つお母さんだと思っています。

 調理法や噛むことで味や食感を変える食材には、人格があります。ベロシップのためにも、味を画一化するうま味調味料やコンビニのご飯には頼らずに、個性豊かな食材を味わってほしいですね。わが家の味を生み出したり、センスのいい味覚を育てたりするために大切なのは、ダシです。私が結婚したときの持ち物は、私の母が使っていたように、カツオブシ削りでした。自分で削ってダシを取るのは最高のごちそう。忙しいお母さんたちには、パックの削り節があります。昆布や煮干し、鶏やシイタケ、ニンニクからダシをとるのもいいでしょう。日持ちのする常備の調味料を作っておくのもおすすめです。私はお手製の「レミだれ」や「レミ醤」、「マコト醤」を使っています。料理の味付けやタレとして、いろいろアレンジして使うのはほんとに楽しいですよ。

 お料理を楽しむために、「手抜き料理」もうまく取り入れてほしいです。トマトジュースと牛乳を1対1で割る「五秒ヴィシソワーズ」や、ハンバーグ状の具材をレンジで作ってゆでた餃子の皮をかけた「怠慢餃子」ならぬ「台満餃子」など、短い時間でもおいしい料理はできます。お客さんを待たせちゃいけない、子どもがおなかをすかせて待っているときなど、時間を節約しながらおいしく作れたら、それがレパートリーになっていきます。

多少分量を間違えても大丈夫。料理は楽しむことが大切

 どうすれば私のようなオリジナル料理を作れるのか聞かれることもありますが、家族のために急いでご飯の支度をしたいときに、必要に迫られて思い浮かぶことが多いんです。ゴボウと卵しかないときに作ったドジョウ抜きの柳川はその一例。お店で食べた料理を真似したり、外国で食べた料理を家で再現したりすることもあります。自分が経験したおいしさを家族にも味わってもらいたい、そんな気持ちが料理を頑張る原動力になるんです。

 ふたりの息子は自立しましたが、ときどき電話で料理の作り方を聞いてきます。次男は家を出るとき私の料理本をたくさん持って行きました。よく友達にごちそうしているようです。私がどんなに忙しくても、一生懸命料理をしている姿を見ていたんだと嬉しくなります。子育てが落ち着いてからは、夫に歌うことを勧められ、夫のサポートでCDを出しました。歌がレシピになっていて、聴きながらお料理ができる歌も収録しました。

 料理は、楽しむことが大切です。分量や時間をレシピ通りに作らないとおいしくできないと思っている人もいますが、そんな受験勉強みたいな気持ちでキッチンに立たなくてもいいんです。ちょっとぐらい分量や時間を間違えても、違う料理ができるわけではありません。味見をして好きなように調節すればいいし、真っ黒に焦げちゃったら、あははと笑ってしまえばいいんです。失敗は勉強になるから。

和田誠×平野レミ 初の対談で明かされる夫婦関係

 2014年、結婚42年で行われた、和田誠さんと平野レミさんの初の夫婦対談も収録する。出会いのきっかけは、和田誠さんが平野レミさんの声をラジオで聞いたこと。和田さんは、ラジオの相棒だった久米宏さんに紹介を頼んだが「やめときなさい」と断れられ、知り合いのディレクターにも「紹介してもいいけど、責任持ちませんよ」と言われたという。初めてのデートでお互い好印象を抱き、出会って10日で結婚。「私と結婚して『失敗しちゃった』とかないの?」と聞くレミさんに、和田さんは「失敗なんてしなかったよぜんぜん。わかるでしょ?」と答える。「空気のきれいなところに住みたい」というレミさんのために郊外に土地を買い、車の免許をとったが、いざ行くと「ここ寒いからやっぱりいや」とレミさんが言い、和田さんはすぐに都内に家を探したなど、和田さんの愛妻家伝説は多い。ふたりでいるとラクでストレスはなく、レミさんが作る料理のおかげで、和田さんは40年病気したことも、会社を休んだこともないという。ケンカをしても息子や孫や飼い猫がいいタイミングで助けてくれて、ドラマの幸せな家庭のようだ、とレミさんは言う。

 本書を締めくくるのは、2020年に『婦人公論』に掲載された清水ミチコさん×阿川佐和子さん×平野レミさんによる鼎談「和田誠を偲ぶ」。レミさんが「いやなところがなかった」という和田さんとのそれぞれの思い出を、3人が語る。絶対に怒らない和田さんがレミさんに疑われて一度だけ怒ったというエピソードや、清水さんや阿川さんが和田さんから教わったこと、息子で歌手の和田唱さんにも通じる和田家の性格などから、和田誠さんの人となりを、笑いを交えて振り返る。

文=川辺美希

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