25年以上、児童養護施設の子どもたちにランドセルを贈り続けた「タイガーマスク」による社会貢献のススメ
公開日:2022/2/17
現代は人と人の繋がりが希薄だと言われるが、優しいニュースに心動かされることも多い。例えば、漫画『タイガーマスク』の主人公・伊達直人を名乗る人物から児童相談所にランドセルが贈られたことを機に、日本各地で連鎖的に同様の寄付行為が起きた「タイガーマスク運動」も、そのひとつ。
そうした寄付活動を、長年続けているのが、中谷昌文氏。『ランドセルが教えてくれたこと』(主婦の友インフォス)は、そんな彼の半生が綴られた、ノンフィクション本だ。
中谷氏は、国際ビジネスホールディングスグループの創立者。若手起業家を育成する「国際ビジネス大学校」や特定非営利活動法人「国際コンサルティング協会」の理事長を務める傍ら、「社会貢献活動家」と名乗り、児童養護施設などにランドセルを届ける「タイガーマスク運動 ランドセル基金」に力を注いでいる。
本書では、活動に込める想いを赤裸々に告白。今日からできる社会貢献のヒントも学べる1冊となっている。
ランドセルで世界平和を実現させたいと願う、現代のタイガーマスク
「タイガーマスク運動 ランドセル基金」は親がいなかったり、難病を患ったりしている子どもたちにランドセルをプレゼントする団体・基金。こうした社会貢献活動をするきっかけとなったのは、教え子との悲しい別れだった。
大学卒業後、教師として働いていた中谷氏は筋ジストロフィーと闘う教え子を亡くし、人生の意味を考えるようになる。その結果、大好きなバスケットボールと野球の本場・アメリカでさまざまなことを吸収したいと思い、留学した。
現地では大学に通う傍ら、英語教材のフルコミッション販売の営業マンとして、その年の全米ナンバー1の好成績を達成。ビジネスのおもしろさを知った。
そんな中谷氏が、留学中、心打たれたのはアメリカの慈善団体が行っていた、難病や車椅子の子どもたちをディズニーランドに連れて行くという活動。そこで帰国後、日本のディズニーランドを運営する「オリエンタルランド」に許可を貰い、「難病の子どもたちを東京ディズニーリゾートにお連れする会」をスタートさせた。
その活動中、ひとりの少年に個人的にランドセルをプレゼントしたところ、エピソードが広まり、「うちの施設の子どもたちにも、ランドセルをお願いできませんか?」というリクエストが寄せられるように。中谷氏は、1994年から個人でランドセルを贈り始めた。
その後、中谷氏はNBAのマイケル・ジョーダン選手との出会いを機に、ナイキのエアマックスを日本に持ち帰って販売。44億円の年商をあげ、翌1996年に特定非営利活動法人を設立し、「タイガーマスク運動 ランドセル基金」の活動を本格的に開始したのだ。
中谷氏が、ここまでランドセルにこだわるのは、児童養護施設の厳しい現状を知っているからだ。児童養護施設は毎年予算が決められ、運営のための補助金が地域ごとに支給されるが、予算の額は最低限であり、地域差が大きい。島や過疎地の予算は特に厳しく、補助金が足りない施設ではランドセルを購入できず、子どもが学校でいじめを受けるケースもあるという。
こうした現実に心痛め、さまざまな理由で心身を傷つけられてきた子どもたちがいじめに遭わず、ランドセルを通して「自分を思ってくれる人がいた」「私はちゃんと愛されている」と感じられたら…と思い、中谷氏は活動を続けている。
また、日本のランドセルは6年間の保証がついているため、子どもたちが使い終える少し前にメンテナンスし、それを卒業後に寄付してもらい、海外の子どもたちにランドセルを贈る活動も20年以上続けているそう。
子どもたちの笑顔を見たいという想いを原動力に、社会貢献活動をする中谷氏は自分の取り組みが世界平和に繋がると信じている。
“日本からランドセルをもらった海外の子どもたちは将来、日本と戦争になりそうな場面に直面しても、「自分たちにランドセルを贈ってくれた日本人とは戦いたくない」と思ってくれるのではないでしょうか?”
そう語る中谷氏は受けた親切を別の人に繋げていく「ペイ・フォワードの精神」が広く浸透することを願い、こんなメッセージを寄せる。
“タイガーマスクは何人に増えても構わない。むしろ、多ければ多いほど救われる子どもたちがいるのだから。”
熱い想いがしたためられている本書は、「本からできる社会貢献を!」がキャッチコピーで、収益の一部が「タイガーマスク運動 ランドセル基金」に寄付される。ぜひ、手に取り、社会貢献活動家とビジネスパーソンの両輪を回しながら生きる中谷氏の生き様から「私にできる社会貢献」を見つけてみてほしい。
文=古川諭香