なるべく優しい世界で/前島亜美「まごころコトバ」㉒
公開日:2022/2/18
毎日のように姉から届く姪っ子の写真や動画を眺めていたある日のこと、「あっ」とある光景を思い出した。
生まれたばかりの妹が両手をあげてすやすやと眠っている姿。
妹が赤ちゃんの時も、本当に可愛かったなぁと、愛おしくてたまらない気持ちになった。
妹が生まれたのは私が6歳の時だった。
当時の私は、母と買い物に行ったスーパーで、よく妹か弟がほしいと話していた。姉と、私。下の立場だった私は「よびすてできるこがほしい」なんて言葉にしていたが、あこがれの「おねえちゃん」というものに、自分がなってみたかったのだと思う。
叶うと思っていなかった願いだったが、それからしばらくして、12月の寒い冬、なにが起こるかもわからずに行った病院で「妹が生まれたよ」と伝えられた。
初めて見る赤ちゃんにびっくりしたのと同時に「わたし、お姉ちゃんになったんだ」と強く認識したのを覚えている。
姉とは喧嘩ばかりしていたせいか、私は妹を大切にするんだ。お姉ちゃんとしてしっかりするんだ、と意気込んでいた。
生えたばかりのふわふわの髪の毛に感動し、狭い部屋に敷かれた布団の上ですやすやと眠る妹に、いつもひっついてはほおずりしていたのを覚えている。
6歳も離れていたからか、本当に妹とは喧嘩をすることなく日々を過ごしていた。
妹が初めて保育園に行った時、「亜美ちゃん」と呼んでくれた時、発表会で一生懸命歌っているのを見た時、コンセントで感電して大騒ぎした時、一緒に過ごした喜怒哀楽がどれも大切な宝物で、小学校に入った時には、「もうこんなに大きくなったんだねぇ」と感動していた。
ちょうどその頃、私が芸能界で仕事を始めることになった。生活リズムがガラっと変わり、仕事で精一杯だった私は家族との時間も少なくなり、ひとり暮らしを始め、妹にもなかなか会うことができなくなっていった。
会えなくなると、あっという間に時は過ぎて、妹は中学校に入学、卒業を経て、高校生となった。
ある時、妹が話をしてくれた。
「亜美ちゃん、わたし、演劇部に入ったよ」
とても驚いた。演劇部に。妹が。
思えば妹がまだ小さかった頃、「スタイリストになりたい」と話してくれたことがあった。
「お洋服が好きだから、いろんなコーディネートをしたい。いつか亜美ちゃんのお洋服も選んでみたい」と。
大喜びした私は「楽しみにしているね」と話したのを覚えている。
「いつか亜美ちゃんと一緒に仕事したい」という言葉が、本当に嬉しく、心に残っていた。
そっか、演劇部に。舞台をやるんだね。
高校演劇。私にとってはあこがれの世界だ。
役者も裏方もみんなでやって、みんなで一から作り上げる。その時にしかない青春。
私が出る舞台をよく観にきてくれていた妹。「どうだった?」と聞くと「おもしろかったよ」とか「凄かったよ」とか「亜美ちゃんが可愛かったよ」といつも感想をくれていた。
だが、演劇を始めてからは「舞台セットが凄いね」とか「ゲネプロはどうだったの?」とか「演出に感動したよ」とか、専門用語を使って思いを伝えてくれるようになって、不思議な気持ちと、微笑ましく、嬉しい気持ちとがあった。
ずっと観に行きたかった妹の舞台。
このご時世となり、観劇が叶わなかったのが本当に残念だったが、きっと、素敵なお芝居を仲間たちと作っていたのだろうと思う。
妹に特別な思いがあるのは、自分と重なる部分が多いからかもしれない。
物静かで、繊細。甘えるのが苦手でなかなか気持ちを言葉にしないけれど、誰よりも人の心を考えている。
姉としてなにか力になれたらと連絡をしても、逆に私を気遣ってくれ、「亜美ちゃん大丈夫? なんでも相談してね」と言ってくれる心優しい子。
毎年0時ぴったりにお誕生日おめでとうとメッセージをくれ、私が節目を迎える時にはいつも手紙を書いてくれる思いやりにあふれた女の子だ。
その優しさを感じるたびに、幸せになってほしいと、強く思う。
最近は特に、大人になったなぁと思うことが増えた。動画を見ながら一生懸命にヘアアレンジをしている姿や、なにかを好きだと話してくれる笑顔をとても嬉しく思っている。
そんな妹も、この春には高校を卒業。また新たな一歩を踏み出す。
先日、新しい夢について聞かせてくれた。
なるべく優しい世界で、いろんな経験をして、穏やかに、健やかに、生きていってほしいと思う。
世界の素敵な部分や、人生の愛おしい瞬間が妹の味方になってくれますように。
そしてこの先、妹がどんな仕事をするとしても、いつかどこかで、なにか一緒にできたらと、楽しみに思っている。
まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。
Twitter:@_maeshima_ami
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