「この人は信頼できる」。そう断言できる相手はいますか?『フーガはユーガ』/佐藤日向の#砂糖図書館㊲

アニメ

公開日:2022/2/19

佐藤日向

人を信じる、というのは簡単なことではない。言動のひとつひとつが信頼に繋がり、長い時間積み上げた信頼も、何かひとつ問題が起これば簡単にゼロになる。

今回紹介するのは、伊坂幸太郎さんの『フーガはユーガ』という作品だ。物語は、「常盤優我」が、双子の弟・風我と歩んできた幸せではない子ども時代について、仙台市のファミレスでひとりの男に向けて語るシーンから始まる。優雅によって走馬灯のように語られる、彼らの人生と、とある事件。最初から最後まで全てが実は繋がっている、ファンタジーとミステリーが融合した作品だ。読了後、なんとも言えないモヤモヤした感覚が心に残り、「他に方法はないのか」と思わず逡巡してしまった。しかし、人間の驕りや過信してしまう部分がリアルに描かれていて、他人事とは思えなかった。

彼ら双子の兄弟は不遇の環境で育っていたが、お互いがお互いを支え、二人ともすべての出会いを大切に、そして出会った相手を信頼していたからこそ、薄暗い環境の中でも光が途絶えなかったのだろうと感じた。信頼できる人と出会う、ということは奇跡に近い。私にとってそれは母であり、母以外に当てはまる人がいない。「普段誰と遊びますか?」「友達は誰ですか?」と質問をされるたび、私は少しだけ息苦しくなる。そもそも「友達」というのは、どこからが友達なのだろうか。

これまで一緒にお仕事をさせて頂いた方々と仲が悪いというわけではもちろんなく、尊敬の気持ちを抱きつつ、私の芝居力、歌唱、すべてにおいてまだまだ敵わないと感じる場面が多い。だから、一緒にお仕事をした方と普段プライベートで遊ぶ、という経験はほとんどなく、気づけば心から信頼できる母と一緒にいることが楽になっていた。きっと、風我と優我のふたりにとっても、このような感覚があるのだろう。そのことが文章から伝わり、読みながら思わず共感してしまうシーンばかりだった。

特に「他者とうまくやっていくためには、親切に、少なくとも礼儀正しくしたほうがいいとは理解できたため、ふだんはできる限り、そう振る舞っている。核の部分は陰湿だが、表層的にはできる限り、穏やかに。」という言葉が印象に残っている。私も、核の部分はきっと陰湿なのだと思う。

伊坂さんの文章は私の中にある陰の部分に深く寄り添ってくれて、自分を肯定してあげられるような気持ちになった。きっと、友達と同じように「信頼できる人」の定義は、人それぞれ違うのだろう。だが、信頼できる人の範囲は狭い方がいいと、私は思う。

もし今、「この人は信頼できる」と断言できる人がいるならば、それはとても奇跡に近く、幸せなことだ。本作で描かれた信頼関係から生まれるファンタジーと、残酷な事件への怒りを、ぜひ感じてみてほしい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。