日本各地の美術館で花開いた、「富野由悠季のクリエイション」――『富野由悠季の世界展』レビュー①【福岡・兵庫編】

アニメ

公開日:2022/2/19

富野由悠季の世界
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 日本を代表するアニメーション作品『機動戦士ガンダム』。そのシリーズは放送後42年を数えても続いており、アニメのみならず、様々な分野に大きな影響を与えている。その生みの親である富野由悠季監督は御年80歳。今もなお意気軒昂に、新作である劇場版『Gのレコンギスタ』を制作中(現在第3部となる劇場版『Gのレコンギスタ III』「宇宙からの遺産」までを公開)。新たな表現と次世代に伝える作品を作るべく、現場で奮闘している。

 そんな富野監督の歩みを振り返る展覧会『富野由悠季の世界』の模様を収録した映像作品が、『富野由悠季の世界 ~Film works entrusted to the future~』というタイトルで発売されることになった。2019年6月に福岡市美術館からスタートした巡回展は、2022年2月の時点で、8会場で開催された。今回は、展覧会で富野作品を展示し、それぞれの解釈で「富野由悠季のクリエイション」を来場者に伝えた学芸員の方々に、アンケートを実施。第1弾は、福岡市美術館・兵庫県立美術館の展示の模様とともにお届けする。

※展覧会は終了しております

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福岡市美術館(2019年6月22日~9月1日)

富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

回答者
福岡市美術館・山口洋三さん

――『富野由悠季の世界』展を担当し、最も楽しかったこと/難しさを感じたことを、それぞれ教えてください。

アニメーション関係資料に直接触れたことのない私には、「富野展」は未知の分野であり、サンライズ資料課での調査、富野監督への聞き取りなどあらゆる準備作業が緊張の連続でしたが、振り返ればすべて楽しかったです。また7人のチームワークというのも私にとっては初めてでしたが、もめることもなく(笑)、作品を分担し、テーマや展示方法については意見を出し合うなど、理想的な共同作業を行うことができました。難しかったことと言えば、全員が地方在住ゆえ、東京で調査や会合を行うための日程調整が大変でした。

――ご自身が手掛けた展示で手応えを感じた部分、来場者からの反応で印象的だったことを教えてください。

第1部の富野監督の幼少期からフリー絵コンテマン時代、そして「海のトリトン」と「無敵超人ザンボット3」、第2部の「機動戦士ガンダム」、第3部の「無敵鋼人ダイターン3」を手がけましたが、特に第1部の作品構成には力を入れ、監督がどんな歩みでキャリアを始めたかをしっかり示しました。映像、絵コンテなどのアニメ作品の展示は、今後のこうした展覧会の指針となるのではないかと自負します。来場者の皆さんはとにかく熱心! 長文にもかかわらず解説を読んでくださり、長時間観覧される姿が印象的で、これは通常の美術展では見られない光景でした。

――他の美術館と差別化をするために配慮・工夫したことについて教えてください。

福岡独自の展開としては、模型店等と協力して富野作品をテーマとした模型展示とコンテストを行いました。展示においては、第1会場だったので、他館巡回ができるようなベーシックな展示構成を心がけました。ですので、福岡でできなかったこと、しなかったことがほかの館の工夫のしどころだったと思います。

――展示を経て感じた「富野由悠季の思想」とはどういうものでしたか。

〈善き意思〉の現れを考えること、これが富野監督の思想だと思います。そして〈善き意思〉に翻弄され、扱いに失敗する人間のドラマが彼のアニメーション。〈善き意思〉は、なにかを存続させる(生き続ける)意思であり、それは時に人が「悪」と考える側にあったり、環境の変化で人に備わったり、あるいは、古代文明の残留思念であったりと様々ですが、本来的に人は〈善き意思〉を感知し、求めるものであるが、結局その扱いは個人の能力の範疇を超えたものだ、とする思想は一貫しているように思いました。

兵庫県立美術館(2019年10月12日~12月22日)

富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

回答者
兵庫県立美術館・小林公さん、岡本弘毅さん

――『富野由悠季の世界』展を担当し、最も楽しかったこと/難しさを感じたことを、それぞれ教えてください。

沢山の熱心なファンのいる富野作品ですから、学芸員としてそれをとりあげることは大きなプレッシャーでした。それでも監督や制作会社が保管されていた貴重な資料を直に調査する機会を得ることができたのは大きな喜びでした。作品タイトルによってはそうした原資料へのアクセスが難しいものもあり、その時には展覧会という形式の中で作品の魅力をどのように伝えたら良いのか悩んだこともありました。

――ご自身が手掛けた展示で手応えを感じた部分、来場者からの反応で印象的だったことを教えてください。

担当者の思い込み&確認不足のため解説文の中で誤った記述があったのを、来場者に指摘されて修正した、ということが何度かありました。今更ですがお詫びとともにご指摘に御礼を申し上げたいと思います。手応え、という点で言いますと、自分が担当したタイトルについて「今まで見たことがなかったけど見てみたいと思った!」といった感想が聞かれたことが一番嬉しかったです。

――他の美術館と差別化をするために配慮・工夫したことについて教えてください。

安藤忠雄による印象的な建築空間や展示室の高い天井を生かして、ところどころで映像を大画面でご紹介することにしました。ゆっくり見ていただくための工夫でもあったのですが、プロジェクターによる投影ということもあり、モニターに比べて映像が不鮮明になってしまったのは残念だったと反省しています。展示に決まった正解というのはないのだなあと、改めて思います。追加出品した『卑弥呼大和』関連資料やブレンパワードEDのための荒木経惟氏による植物写真は富野監督にも好評で、これは「やった!」と思いました。

――富野作品は何を教えてくれる存在ですか。

人の弱さ、おろかさ、悲しさと愛おしさ。