『裏バイト:逃亡禁止』『銭湯図解』『もし幕末に広報がいたら』編集部の推し本5選
更新日:2022/2/21
ダ・ヴィンチWeb編集部メンバーが、“イマ”読んでほしい本を月にひとり1冊おすすめする企画「今月の推し本」。
良本をみなさんと分かち合いたい! という、熱量の高いブックレビューをお届けします。
480円で体験するちょっとした異世界「銭湯」バイブル『銭湯図解』(塩谷歩波/中央公論新社)
サウナで「ととのう」人が増えた。サウナの有無は場所によりけりだが、同じように「銭湯」は人を惹きつける魅力があふれる場所。少し足をのばした場所や、はたまた旅先で初めて行く銭湯の時なんかは、どんな番台さんがいるのか、壁絵はあるかな、常連さんの私物と思われるシャンプー類が入ったかごが並ぶ様を見て思いを馳せたり…。そして、誰もが鎧を脱いだ姿で存在する空間は、480円で体験するちょっとした異世界だ。
さて、『銭湯図解』の著者・塩谷歩波さんの人生を原案としたドラマ『湯あがりスケッチ』が2月より配信されている。中川龍太郎監督が描くその世界は、(陳腐な表現だが)映画的で色彩やカメラワークがとても贅沢。主演は小川紗良さんだ。
『銭湯図解』発売時、塩谷さんにはダ・ヴィンチWebに登場していただいたのだが、ドラマが配信されている今、改めて『銭湯図解』を開いてみても、それはもうとても魅力的で、銭湯に行きたくなるのである。
そもそも『銭湯図解』とは? 銭湯好き、サウナ好きのみなさんは、一度は目にしたことがあるかもしれない。もともと建築学を学んでいた塩谷さんが仕事で体調を崩し、友人や医師からのすすめで銭湯が日課となっていた頃、「アイソメトリック」という建築図法で銭湯の内部を俯瞰で描いたイラストをSNSで発信。瞬く間に話題となり1冊の本にまとめられた銭湯バイブルだ。実在する銭湯の特徴や浴室での人々の交流が描かれ、お風呂・サウナのいろはが、温かみのあるイラストとともに丁寧に綴られている。もう少し寒さは続くだろうから、“銭湯”を見て実際に浸かって癒されてほしい。
中川寛子●副編集長。YouTuberクリップストアさんと映画『牛首村』公開にあわせて心霊スポットツアーをしてきました。ホラーは大の苦手ですが、いい経験をさせてもらいました…。ながしまひろみさんの新連載『わたしの夢が覚めるまで』もはじまりました!
切なさと優しさ、おいしさと可愛さが詰まった心温まる物語『ちびねこ亭の思い出ごはん~黒猫と初恋サンドイッチ~』(高橋由太/光文社)
私が猫好き人間かつ、「猫の日」が近いということで、猫が登場する作品を探していて見つけたのが本作。猫とおいしいごはんの話だろうと思っていたら、いい意味で裏切られた。舞台は千葉の内房にある食堂「ちびねこ亭」。ここでは「思い出ごはん」というメニューを出している。亡くなった人にどうしても伝えたいこと、聞きたいことがある人が注文すると、その人と故人との思い出の料理が出てきて、食べると故人と会うことができるという。将来有望な役者の卵だった兄を突然事故で亡くした女性の話から物語は始まる。兄に助けられてばかりだった彼女がこれからどう生きていけばいいのか分からず、どうしても兄に会いたいと、ちびねこ亭を訪れる。そこで彼女が体験するのは……。ほか、初恋の女の子と死別した男の子、妻を亡くした男性、そして母を亡くした青年が登場し、それぞれの思い出ごはんとのエピソードが綴られる。どれも死と別れの切なさを伴いながら、とても心が温まる優しい物語だった。そして登場する思い出ごはんが、アイナメの煮付けや厚焼き玉子サンドなどどれもおいしそうで、しかもレシピまで載っているので、重たいテーマながらなんともほっこりとさせてくれた。そして肝心の猫。各話にそれぞれ違う猫が登場するが、どれもつかずはなれず、そして人の気持ちを分かっているのかいないのか、実に猫らしい存在感で、猫好きのツボを突かれてしまった。そんなさまざまな要素が絶妙に絡み合いながら、温かく優しい空気を描いている本作。続編もあるのでまたこの世界に浸ってみようと思う。
坂西宣輝●近所のお宅に、街中では珍しくなった木の塀があります。たまにその塀の上で猫が休んでいたり歩いていたりするのですが、それはまさしく古き良き昭和の光景! 猫は昭和の動物なのではないのかと、よく分からないことを考えている今日このごろ。
こういう怪談、欲しかった! のドストライク『裏バイト:逃亡禁止』(田口翔太郎/小学館)
私は怪談話が好きで、寝ても覚めても追い求めて読んでいる。特に実話系の話が好きなのだが、創作怪談でたまらなく好きなものがある。それは「巻き込まれ系」だ。『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』などで想像していただくと分かりやすいかもしれないが、雨で立往生して仕方なく泊まった人里離れた洋館で、夏休みの短期バイトで友人に招かれて行った山奥の豪商の家で、絶海の孤島のリゾート地で、気が付いたらなにがしかの事件に巻き込まれている、あれだ。
この本の主人公である黒嶺ユメと白浜和美はのっぴきならない事情から、非合法スレスレな(場合によっては越えた?)、時給日給が桁違いの「裏バイト」をすることになる。どれも短期バイトだが、1日数十万だったり時給が数万円だったり、とにかく、怪しい。柔和な雇い主が●人犯だったり、敷地に入ったら最後、クリア(条件は不明)するまで出られなかったり、とにかくほとんどが命に関わる仕事だ。シチュエーションから登場人物からもう全部怖い状態なのだが、そんな中で2人は一生懸命かつ飄々と、ときに友人の絆を確かめ合い、切り抜けていく。そのスリルとゾクゾク感と、ほろりとさせるバランスが絶妙で、読む手が止まらない。2月に最新6巻が発売され、主人公たちの「のっぴきならなさ」に関わる謎へのフックが出てきた。もう次の展開が気になって仕方がない。
遠藤 摩利江●墨香銅臭先生の『天官賜福』、いよいよ日本語訳1巻の発売が発表されました。ファンにとっては待望の翻訳版! な状態で、私も発売の7月まで待ちきれません。原作を自力で翻訳しながら亀の歩みで味わっていたのに、一気にドーンと読めてしまうなんて夢のよう…ということで各方面に感謝しながら過ごしたいと思います。