『裏バイト:逃亡禁止』『銭湯図解』『もし幕末に広報がいたら』編集部の推し本5選

文芸・カルチャー

更新日:2022/2/21



「密室」に恋をする主人公たちが愛おしい『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(鴨崎暖炉/宝島社)

『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(鴨崎暖炉/宝島社)
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』(鴨崎暖炉/宝島社)

 この推し本原稿は、編集長から、なるべく個人の主観や自分ごと目線で書くように、との指令(?)がある。そのため、浮き沈みの激しいメンタルのケアを本に頼っている私は、その経験をついつい書いてしまう。振り返ってみて、毎回へこみすぎだろ、とちょっぴり反省している。

 そんなこんなで、今回も自分のメンタルと相談しながら、本屋さんでたくさん平積みされていた本書を、書影とタイトルだけで即購入し、楽しく読んだ経験を書きたい。

 物語は、殺人現場が密室であればどんなに疑わしくても無罪の判決が下る「密室黄金時代」に、携帯電話もつながらない山奥のホテルで起きる連続殺人事件、それもすべて密室殺人を描く。主人公はミステリー好きの高校生で、「キムタク」風に読むと「くずかす」となる葛白香澄。他の登場人物のキャラクターも皆わかりやすく、軽妙なタッチで話は進む。ちょっとふざけすぎかな、と思うとすかさずシリアスな話も差し込まれて、「ちょうどいい塩梅」を感じながら密室の謎にワクワクできる。

 犯人当てや動機探しのミステリーも好きだけど、どうやって密室で殺人ができるか、という謎解きに集中できるのも気持ちがいい(もちろん正解は全くわからないのだけど…)。過去のミステリー作品で描かれた密室トリックについての丁寧な説明もあって、安心して物語の世界に身を任せられた。

 というわけで、今月は「密室の謎」にメンタルを上げてもらいました。物語中の密室に魅せられた主人公たちのように…。

宗田

宗田 昌子●ドラマ『ミステリという勿れ』が話題だが、原作の地元広島のエピソードが登場しなそうなのがちょっぴり残念。地元の友人にこぼして「きっと蔵の再現が難しかったんだよ…」と慰め合いました。



史実に目を向けた発明と、冴えわたる小ネタが楽しい!『もし幕末に広報がいたら』(鈴木正義/日経BP)

『もし幕末に広報がいたら』(鈴木正義/日経BP)
『もし幕末に広報がいたら』(鈴木正義/日経BP)

 日々、大量の「プレスリリース」に接触する。怒涛のような物量である。メディアの立場からすると、もちろんすべてに目を通すことは不可能で、面白いと感じられるものや、読み手にとって有益になりそうな情報があれば、実際に掲載させてもらったり、「あとで何かに使えるかも!」と思って保存したり、読んでいる途中で電話が鳴って、そのまま忘れてしまったりする。人の目に留まる、関心を惹くリリースを作るのは、とても難しいのだ。

 昨年末に刊行された『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』は、「リスクマネジメント」「制度改革」「マーケティング」「広報テクニック」「リーダーシップ」の視点から、42の歴史上の事件・逸話に沿ってプレスリリースを作成、当時の対応における問題点などを論じている。著者の鈴木正義氏は、「NECパーソナルコンピュータ 広報 部長」という肩書を持つ方で、もともとはWEBメディアの連載『風雲! 広報の日常と非日常』で「大政奉還のプレスリリース」を書いて大好評だったことが、本書の発端だったそう。読者が求めていることは「失敗の研究」、でも実際に企業の失敗を題材にするのも……そんな課題から「歴史上の事件」ならば、という発想の転換は、まさに発明的だ。

 そして作成されたプレスリリースが、架空の問い合わせ先やコールセンターなどの小ネタも含めて、ことごとく楽しい。日々リスクヘッジを考えている社会人も、歴史ものには目がない方も、等しく楽しめる良書である。

清水

清水 大輔●編集長。歴史と言えば、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が面白いですね。『古畑任三郎』を除き、三谷幸喜作品をたくさん観ているわけではないですが、2016年の『真田丸』しかり、氏が描く大河は傑作揃い。『新選組!』の山南先生の回、何度も観ました。