【2月22日は猫の日!】タマとじいちゃんが伝える、大切な人と過ごす尊い日々『ねことじいちゃん』

マンガ

更新日:2022/2/22

ねことじいちゃん
『ねことじいちゃん(ねこまき(ミューズワーク)/KADOKAWA)

 猫は、犬など他の動物と比べると飼いやすいと言われる。ご飯とトイレさえ用意しておけば、飼い主が家にいない時間が長くても平気な猫が多い。仕事が忙しい人や、家族が多い人でも、猫との暮らしは楽しめる。でも、このコミックエッセイ『ねことじいちゃん』(ねこまき[ミューズワーク]/KADOKAWA)を読むと、猫と一番幸せに暮らせるのは、もしかしたら人生の酸いも甘いも知ったおじいちゃんなのではないか、という思いに至る。

ねことじいちゃん P25

『ねことじいちゃん』の主人公・大吉さんは、港町に暮らす元小学校教師のおじいちゃん。2年前に妻の佳枝さんに先立たれてから、妻と一緒に飼っていた猫・タマと暮らしている。本書は、美しい港町の四季を通じて、大吉さんとタマが幼馴染の巌さんや大吉さんを慕う町の人々と生きる何気ない日々を、水彩画タッチの美しいマンガで描いている。まるっとしたフォルムとモフモフ感がかわいいタマや、漁港で魚をたくさんもらって元気そうな野良猫など、たくさんの猫も登場する。

 大吉さんの息子・剛さんがドキドキさせる出来事はたまに起こるものの、描かれるのはほぼ、大吉さんとタマの、のんびりとした日常だ。散歩に出かけたり、元漁師の巌さんが釣ってきた魚を料理して食べたりする大吉さんの毎日には、いつも、佳枝さんとの思い出を共有するタマがいる。ふと思い出される佳枝さんとのエピソードが切ないが、寂しい気持ちに浸る大吉さんに、タマは気まぐれに甘えたり、横にいたり、いなかったりする。猫としては若くないタマとおじいちゃんのペースはぴったり。読み手の年齢にかかわらず、そんな猫との距離感の心地よさに共感する猫好き読者は多いはずだ。

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ねことじいちゃん P54

 野良猫や、家の外を気ままに行き来する「外猫」の魅力を味わえるのも、本書ならでは。テレビやYouTube、SNSなどかわいい猫の姿を拝めるメディアはたくさんあれど、その動画や写真の多くは、家の中で撮影されている。人の生活スペースでお気に入りの場所を見つけて暮らす猫ももちろん良いけれど、太陽の下でノビノビと過ごす猫の姿はやっぱり格別。『ねことじいちゃん』では、狭い塀の上を列になって歩く猫、不安定そうな屋根の上でも思いきりくつろぐ猫など、野外ならではの猫シーンがたくさん登場する。『ねことじいちゃん』は、数ある猫を描いたコミックエッセイの中でも、美しい町並みと、その景色に馴染む猫の優雅な姿をたっぷり味わえる作品なのだ。

ねことじいちゃん P12

ねことじいちゃん P155

 最新刊の7巻では、大吉さんが、押し入れにしまっていた古いアルバムを引っ張り出す。昔の写真から、息子が生まれた頃のことや、自慢だった愛車などの思い出、佳枝さんとタマと過ごした日々がよみがえる。美しい海を前にタマを抱いて思いを語る、生前の佳枝さんの姿は涙を誘う。既刊コミックの中でも、もっと切なく、温かさが詰まった巻だ。

 タマとおじいちゃんのゆるいやりとりに癒されていたら、いつの間にか、猫と暮らすことの面白さや、大切な人と過ごす日々の尊さを感じている。『ねことじいちゃん』は、そんな豊かな時間をくれるコミックエッセイだ。

文=川辺美希