かっこいい友達/小林私「私事ですが、」

エンタメ

公開日:2022/3/5

美大在学中から音楽活動をスタートし、2020年にはEPリリース&ワンマンライブを開催するなど、活動の場を一気に広げたシンガーソングライター・小林私さん。音源やYouTubeで配信している弾き語りもぜひ聴いてほしいけど、「小林私の言葉」にぜひ触れてほしい……! というわけで、本のこと、アートのこと、そして彼自身の日常まで、小林私が「私事」をつづります。

小林私
イラスト:小林私

 小学校、中学校、高校、大学を「どちらかと言えば優等生」といった評価で乗り切った私も決して社会にすんなり適合出来るほど運が良く生まれたわけでもなく、思い返せば大学2年で卒業要件単位数の取得を終えてからというものの朝に眠って日が落ちてから目を覚ますという生活が続いていた。

 その日は珍しく十時頃に目が覚めた。午前中に動ける休日なんて珍しいなと思いながら携帯電話を開くと一本の着信履歴が残っていた。相手は、よく遊ぶ気心の知れた友人だったのですぐさま掛け直した。

 

 「おはよう、何か用でもあった?」

 「今からスキー行かね?」

 

 日頃から出不精な我々は、遊ぶといっても互いの家でゲームをするか近所のファミレスに行くかくらいのことしかしていなかった為、この申し出にはかなり驚いた。

 

 「すご、どこまで?」

 「長野。レンタカー借りた」

 

 思いつきでゲレンデに行きたくなり連絡したらしく、普段なら私も勢いよく乗っていたところだが、帰りの時間もよく分からず、翌日に仕事を控えていた為断った。
(余談だが翌日の仕事は十六時間ほど寝こけて飛ばしてしまい、その日から謝罪に行く日まで謝り続ける夢を見た。)

 その日の夜、日帰りか一泊かも定かでなかった為、心配もあり一応の連絡を入れた。

 

 「お前帰れてんの」

 「帰ってない」

 「泊まれる場所あったか?」

 「快活クラブ」

 

 男一人旅で出先のネカフェに一泊するなんて良い旅行だなと思った。せっかく誘われた身であるし、写真の一枚でもないのかと催促してみた。

 

 「ええな。スキーの写真ないの」

 「滑ってない」

 

 は? わざわざスキーをする為に車を借りて長野まで行っているのにも関わらず滑ってない?

 

 「(道具の)レンタル高すぎて」
 「車が高い、二万」

 「そら一日借りたら高いよ」
 「それは承知で借りてるだろ」

 「ウェア忘れたし、グローブもない」

 

 だとて。そもそも思い付きで行ったんだろ。変なタイミングで正気に戻るな

 

 「今帰れば一万で済む」

 「長野は何時に着いたの」

 「14:00」

 「観光は出来たんか」

 「してない 快活で爆睡した」

 

 なんなんだコイツは。

 

 「すごお前。かっこいいな」

 「親に申し訳なさすぎてやばい」

 

 余談だが彼は無職である。

 

 「滑ってないのに三万かかる」

 「今更だろ」

 「滑ったら五万かかる」

 

 ずっと可哀想だ。

 しばらくして眠りについたらしく連絡は途絶えた。それから何日か後、彼がいつものようにうちに遊びに来た時にこの日の話になった。

 

 「滑れなくて災難だったな」

 「ああ、結局次の日滑ったよ」

 

 なんなんだコイツは。かっこいいな

こばやし・わたし
1999年1月18日、東京都あきる野市生まれ。
多摩美術大学在学時より、本格的に音楽活動をスタート。
シンガーソングライターとして、自身のYouTubeチャンネルを中心に、オリジナル曲やカバー曲を配信。チャンネル登録者数は14万人を超える。
2021年には1stアルバム「健康を患う」がタワレコメン年間アワードを受賞。
2022年3月には、自らが立ち上げたレーベルであるYUTAKANI RECORDSより、2ndアルバム「光を投げていた」をリリースする。

Twitter:@koba_watashi
Instagram:https://www.instagram.com/iambeautifulface/
YouTube:小林私watashi kobayashi
YouTube:YUTAKANI RECORDS
HP:小林私オフィシャルHP