一体誰がなんのために…。くじの抽選箱に細工した犯人を見つけるため、実希は調査をはじめる/珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて③

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/14

累計235万部突破!『このミス』大賞人気シリーズ『珈琲店タレーランの事件簿』第7弾。岡崎琢磨著の書籍『珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第3回目です。「全国高校ビブリオバトル」での苦情を受け謝罪に訪れた、読裏新聞社社員・徳山美希。美希は事務局員として、「全国高校ビブリオバトル」のイベント運営を担当することになり、決勝大会当日、プレゼンの順番決めの抽選でトラブルが起こる。いったい誰がなんのために細工したのか!? 女性バリスタ・切間美星が珈琲店タレーランに持ち込まれる7つの謎を解いていく――。ビブリオバトル決勝大会で起きた実際の出来事をはじめ、日常にさりげなく潜む謎のかけらを結晶化した大人気喫茶店ミステリー『珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』。シリーズファンはもちろん、はじめて読む人も楽しめる短編集! 決勝大会で目を離したすきに抽選箱の番号を変えた犯人を探す実希。ひとりずつ電話で聞き取り調査をするも、手掛かりは見つからず…。

※この物語は2020年1月に開催された全国高等学校ビブリオバトル決勝大会で実際に起きた出来事を元にしたフィクションです。出場された高校生の皆さんを疑う意図は作者にありませんことを、あらかじめご了承ください。

珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて
『珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて』(岡崎琢磨/宝島社)

 ――出場する高校生たちにとっては、努力して勝ち上がってきた大事な大会なんだからな。

 相田局長の言葉の重みを、わたしはいまごろになって痛感していた。紹介する本を選び、プレゼンの内容を熟考し、日ごろから練習に取り組み、万全を期して都道府県大会に出場する――そうして、やっとの思いで手に入れた全国大会の切符だったのだ。情熱を注いできたからこそ、緊張もするし、些細なことが命取りになる。だからスタッフによる運営の小さなほころびが、勝敗を左右しさえする。

 ――彼女の言うとおり、わたしが抽選箱をきちんと管理していさえすれば、くじ引きであのようなトラブルが起こることはなかった。わたしは、何という手抜かりをしてしまったのだろう。

 榎本さんに謝るべきだと、頭ではわかっていた。けれどもそのときには会場の撤収が始まっていて、わたしもそちらにかかりきりになってしまった。後始末が一段落して、やはり謝らなければと決心がつくころには、榎本さんは今日じゅうに京都へ戻らなければならないとのことで、すでに会場をあとにしてしまっていた。

 がらんとした本部跡地でぼんやりしていると、相田局長が声をかけてきた。

「どうした徳山、やっと大会が終わったってのに元気ないな。燃え尽きたか」

「いえ、そういうわけじゃ……実は、こんなことがありまして」

 わたしは榎本さんから非難されてしまったことを話した。局長は腕組みをしてうなる。

「そうか……あんなの大したトラブルじゃないと思っていたが、あれで調子を崩してしまった高校生もいたか」

「わたし、どうしたらいいでしょう」

「徳山が気に病むのであれば、榎本さんに謝罪するしかないだろうなぁ。できれば、ちゃんと面と向かって。それと」

「それと?」

「事実関係を明らかにしたほうがいいんじゃないか。どうしてあんなことが起きたのか。今後はどうやって再発を防止するのか。すでに一度、謝罪の機会を逸してしまった以上、急ぐよりはきちんと説明することを考えるべきだと思う」

 わたしは驚いた。「犯人探しをしろって言うんですか」

「徳山がちゃんとくじを作ったのなら、誰かが不正をはたらいたとしか考えられない。7と8のくじを抜き、代わりに3と4のくじを足したんだ。なぜそんなことをしたのかはさっぱりわからんがな」

 わたしの勘違いなどではなかったことは確かだ。撤収の際にスタンプを確認したところ、7と8のスタンプにはちゃんと黒のインクが乾ききらずに残っていた。わたしがそのスタンプを使ってくじを作った証拠と言える。

「でも、目的はわからないとはいえ、不正がおこなわれたのなら犯人はおそらく出場した高校生ですよね。せっかく大会に出場してくれた彼らを疑ってかかるのは、はっきり言って気が進まないんですけど……」

「だからって、不正を見逃していいということにはならんだろう。犯人が見つかって事情が明らかになったら、あらためてどう対処するかを考えればいい。まずは、事実を把握することが先決だ」

 ためらいはあったけれど、わたしはうなずいた。

「わかりました。調査してみます」

「休憩時間、徳山に椅子を運ばせたおれにも責任はある。困ったことがあれば何でも言ってくれ」

 何のめぐり合わせか、たまたま三週間後に恋人の和将と京都旅行をする予定になっていた。わたしはその日を榎本さんに謝罪するXデーと定め、不正に関する調査を開始した。

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