一体誰がなんのために…。くじの抽選箱に細工した犯人を見つけるため、実希は調査をはじめる/珈琲店タレーランの事件簿7 悲しみの底に角砂糖を沈めて③

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/14

 どうやら呑み込みが早すぎるがゆえの反応だったらしい。

「新房くんを疑っているわけじゃないんです。ただ、何か知っていることがあれば、教えてほしいなって」

『さぁ……僕、Aブロックの予選が終わるとすぐに本部を出て客席のほうへ向かったんで。証人もいますよ。大地くんと、ずっと一緒にいました』

 大地一悟くんは同じAブロックの五番手に登場した男子だ。しかし、新房くんは秋田県代表、大地くんは宮崎県代表で、大会前に何らかのつながりがあったとは思えない。いつの間に二人はそんなに仲よくなったのだろうか。

「大会当日に、大地くんと打ち解けたんですか」

『いえ。僕ら二人ともSNSをやってて、ビブリオバトルのことも投稿してたんです。それで、確か検索に引っかかったとかで、大地くんのほうから僕のアカウントに連絡があって。それ以来、県の代表どうしってことで、ときどきやりとりする仲でした』

 なるほどな、と思う。ネットを通じて日本全国、いや世界じゅうの誰とでもつながれる時代だ。共通の話題を持つ二人なのだから、大会前に友情が芽生えるというのはじゅうぶん起こりうる。

『とにかく、予選終了後の休憩時間は大地くんと一緒にいましたから、抽選箱にいたずらをするチャンスはありませんでした。噓だと思うなら、大地くんにも確認してみてください』

 噓だとは思わなかったが、新房くんが強調するので、わたしはその言葉のとおりすぐ大地くんに電話をかけた。大地くんはほんの数コールで出てくれた。新房くんと口裏合わせをする時間の余裕はなかったはずである。

 今回もちゃんと名乗ったあとで、単刀直入に訊ねる。

「新房くんからこんな話を聞いたんですけど、間違いないでしょうか――」

 わたしの説明を聞くや、大地くんはあっさり認めた。

『新房くんの言うとおりっすね。休憩時間、ずっと彼と一緒でした』

「じゃあ、やっぱり何も見てないんですね」

『はい。間違いなく言えるのは、自分たちはやってないってことだけっすね』

<第4回に続く>

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