人と会わずに稼げる? ほぼ引きこもり生活の著者が編み出した新たなネットビジネス
公開日:2022/3/8
「人と会わずに稼ぐ方法」。なんと目を引くサブタイトルだろうか。帯には「人と会うとどっと疲れる、家から出たくない」人にお勧め、とある。これまでのビジネスの常識がくつがえるときが来たのだろうか。
本書の正式タイトルは『人間ぎらいのマーケティング 人と会わずに稼ぐ方法』(林直人/実業之日本社)だ。著者の林直人氏は15歳から30歳の現在まで一貫してステイホーム、つまり引きこもりぎみの生活を送っており、人と直接会うことに異常に疲れてしまう気質だという。当然、ふつうの会社に勤めることは難しいだろう。そこで著者が営むことにしたのが、ネット家庭教師業だ。なぜ著者がこの仕事を選んだのか、そしてどうやって人と会わずにマーケティングをしているのか、が本書の概要である。
まずは、なぜ著者がネット家庭教師業を選んだか、について見てみよう。
人と会わなくていい仕事をしたいと思ったら、ネットを使ったビジネスを始めようということは誰にでも思いつく。しかし、通販サイト然り、フリマサイト然り、既にネットビジネスは飽和状態で、無名の個人が参入する隙間なんてどこにもない。これを踏まえて、著者は言う。「始めにくい商売」を始めるのがよい、と。
では、「始めにくい商売」とは何だろうか? 本書によると、求める人が限られていて売り手が多くなく、扱う商品やサービスについての情報が世にあまり出まわっていない、などの条件に当てはまる商売だという。著者の場合は、ネット家庭教師業、特に「早慶上智AO入試対策」「慶應SFC一般入試対策」で成功したそうだ。なるほど確かに、AO入試対策指導に本格的に力を入れている塾は少なく、ユーザーからはもっと細かいところまで見てほしいという要望がある、いわゆるニッチな分野だ。
次に、どうやって人と会わずにマーケティングをしているのか、を見てみよう。
こちらもネット上で行うわけだが、本書によると、お金を掛けられるのならばDRM広告(見込み客に直接宣伝をしてその反応を集める方法)がお勧めとのこと。また、お金を掛けられないのであれば、YouTube動画やTwitterなどのSNS、SEO(検索エンジンの中で上位に自社が出るように工夫すること)を駆使するのがよいそうだ。
特に、動画は効果的なのでその作成には力を入れるべきだとし、その理由は、人間は見ず知らずの個人にお金を払おうとは思わないから、とのこと。自分と商品を「見ず知らず」から「知っている」に変換する手段として、視覚聴覚に訴える動画はうってつけだ。だが、動画は影響力が大きいが、故に優劣が出やすいので、手抜きのないものを作るべきだと著者は強調している。
ここまで読んできてわかることは、質の良い商品とマーケティングというビジネスの基本は、多くの企業と同じということだ。ただし著者の場合は、企業が複数人で手分けして行う業務を、ひとりで行っていることが特異なのだ。しかも、ニッチな分野を探し出した上で、より無駄のない効率的なマーケティングを意識しながら運営しているのがすごいところ。その仕事量と頭を使う度合いからいえば、多くの人にとっては会社員でいる方が余程楽だろう。
しかし、これまで「不登校」「引きこもり」で負い目を感じていた人にとっては、仕事をして成功しているという著者の実例は、希望となるに違いない。もちろん、全員が全員、著者のような成功に到るわけではないだろうが、「人と会うのが死ぬほど苦痛な気質=人生終わり」ではないということだ。
現在、会社員の人でも家で仕事をする例は多く、図らずも「引きこもり状態」が多数派になっている状況だ。「引きこもり」に向き不向きはあるだろうが、本書には「人と会わずともマーケティングが可能」というビジネスの新しい常識が表れている。これまでの常識はくつがえりつつあるようだ。
文=奥みんす