あたしを働かせてください/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉘

小説・エッセイ

公開日:2022/3/4

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

1月に20日間のお休みを頂いた。僕みたいなもんでも日頃の疲れは溜まっていたらしく、久しぶりのお休みに体はとても正直で起きている間よりも寝ている間の方が生きている実感があって、ああやっぱり人間たまには20日間くらいのお休みは頂いた方がいいんだなと、心の中の淀みが消えとても清らかな気持ちで休み明けの仕事に向かうことが出来たわけがないのである。

年明け早々濃厚接触者となり、10日間の自宅待機期間を経てなお同居人の濃厚接触者となり満期満期の計20日間のお休み、これをフルパワーで満喫出来る程の大した芸人ではないのだ僕は。

めっちゃ焦った。死ぬほど仕事がバラしになったし、この間にも僕みたいなもんすぐに忘れ去られてしまうんじゃないかと、むしろ今1番知って頂かなければならない期間になにを留置場並に閉じ込められてんだと。

冒頭のような日々をなにごともなく受け入れて過ごせる方なんてのは、売れきった方か師匠か宇宙戦争から帰ってきたての方くらいではないだろうか。宇宙戦争から帰ってきた方だって20日間も休んだらいてもたってもいられずにSTAR WARSとか見始めると思う。

まあ人それぞれだとは思うのだが、少なくとも、今の僕にとっての20日連休なんて最も必要なく、最も過酷なものであったことに違いなかった。今年はもういらねえお休みは。

ただこれに関して、1つはもちろん仕事に対しての焦りから生まれるものではあるが、もう1つの理由としては、まじでなにしていいかさっぱりわからなかったことが大きいと思われる。

そう、ここに来て、32年間ほぼ無趣味を貫いてきたツケが回ってきたのである。

聞くところによると、趣味がある方とない方ではこのお休みの期間に対する考え方がまるで違った。

笑い飯西田さんはフルパワーでゲームしてたらしいし、うちの社長(畠中)に至ってはギター(本業)に夢中で新曲を3曲(マジグッドヴァイブス)も創り上げたという。

一方こちらのミニチュア髭まみれはというと、20日間の休みに入る前は手品でも覚えようかなんて息巻いていたものの、蓋を開ければ手品どころか映画を見るのすらだるくなっちまって、嘘みたいになにもせずに亀寿命(まるで万年生きる人)の過ごし方しちまっていた。人生を振り返ってもこんなにも堕落した時間を過ごしたことはそうないはず。これまで暇さえありゃ飲みに出掛けることしかなかったあたくしめには、20日の連休に色を付けることなど不可能なのであった。小学生として絵日記をつけるとしたら、初日の左上端から最終日の右下端、初日の左下端から最終日の右上端を線で結んで終了である。20日分の大きい×1発ととびきりの中指&ベロ出し食らわして小学校退学、特定指定文科省ウォンテッドになっていたと思う。カスの過ごし方であった。

今回の連休で1番学んだことは、僕は今の仕事が大好きで月並みですが仕事が趣味になっているということ。

そして、やはり自分は恐ろしく行動力の低い霊長類なのだということ。だらけたら止まらない。溶けるまでなにもしないであろう。

なにか趣味を見つけたりするのが今後の人生に彩りを与えるのだとは理解しつつも、それでも今自分を唯一突き動かすのは仕事。だからこの憐れなだらけ虫に可能な限りの仕事を与えてくださいまし。

一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。