カメラ片手にタイムスリップ! 怪盗紳士と解き明かす、過去の商店街火災の謎!《累計20万部突破!「花咲小路」シリーズ最新作》

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/5

花咲小路二丁目の寫眞館
『花咲小路二丁目の寫眞館』(小路幸也/ポプラ社)

 街は人が作り、人もまた街によって作られるに違いない。ユニークな人たちが集う「花咲小路商店街」を描き出す「花咲小路」シリーズを読んでいると、そんなことを思う。作者は、「東京バンドワゴン」シリーズでも知られる小路幸也氏。巻ごとに違う語り手が商店街のあれこれを伝えるこの大人気シリーズは、街の人々の優しさあふれる姿に温かい気分にさせられる。

 そんな「花咲小路」シリーズの最新刊『花咲小路二丁目の寫眞館』(小路幸也/ポプラ社)がついに刊行された。今回の語り手は、桂樹里。花咲小路商店街に古くからある「久坂寫眞館」で住み込みで働くことになった新米カメラマンだ。店主の久坂重は、父親の死をきっかけに写真館を継いだという人物。彼自身も腕利きのカメラマンのはずなのに、なぜか写真を撮ろうとしない。それは、重が写真を撮ると、必ず奇妙なものが写り込んでしまうため。「動画で撮ったら、どうなるんでしょうか?」。樹里の提案で試しに重が動画を撮影しようとすると、なぜか、2人は昔の花咲小路商店街にタイムスリップ。どうやら「久坂寫眞館」の撮影スタジオで、写真館に縁がある人と一緒に重が動画の撮影をすると、過去に時間が巻き戻ってしまうようなのだ。

 シリーズの他の作品同様、本作でもキーパーソンとなるのは、「マンション矢車」オーナーのご隠居・セイさんだ。日本に帰化した元イギリス人だが、その正体は、イギリスで暗躍した怪盗紳士「怪盗セイント」。樹里と重は、ともにタイムスリップしてしまったセイさんの力を借りながら、30年前に起きた花咲小路四丁目のアーケード火災の謎を追うことになる。原因不明のこの火災では、幸いにも死者が出ず、けが人もほとんどいなかったが、出来たばかりのアーケードが燃え、四丁目の多くの家や店が焼けた。その時はたまたまイギリスに帰っていたというセイさんも、この火災で家が全焼したのだという。タイムスリップしたのは、この火災が起きる一週間ほど前。

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「私たちは求められてここに来たのだ。何かを修復するために。ならばその役目を果たすまでだ」

 セイさんの「怪盗セイント」としての知恵や技術の手解きを受けながら、火災の謎を追う樹里と重の姿にワクワクが止まらない。そして、次第に、とある家族の秘密が明らかになっていく。

「花咲小路商店街」の昔の様子が描かれたこの作品を読んでいると、私たちも思わず過去の時に思いを馳せてしまう。樹里たちが経験したようなタイムスリップはなかなか経験できるものではないが、私たち全ての人間は「過去に存在してきたもの」を確かにこの眼で見続けている。今何気なく見ている街の風景にも、過去の時間が横たわっている。時間は過ぎていくものではなく積み重なっていくもの。そう思いながら、あたりを見渡すと、普段見えていた景色が何だかますます大切に思えてくる。

「花咲小路」シリーズが未読という人は、この作品から読み始めても間違いなく楽しめるに違いない。温かい物語に触れるうちに、「もっとこの商店街を知りたい」と思わされてしまうことだろう。このシリーズには、商店街に暮らす人々の息遣いがある。街を愛する人々の優しさがある。ほのぼのした気分に浸れるこの作品を、シリーズの元々ファンも未読の人もぜひとも手にとってほしい。

文=アサトーミナミ