『魔女の宅急便』角野栄子さん推薦!親友とお別れした「心のあな」をうめるのはなに? 小学校入学前、新1、2年生に薦めたい物語
公開日:2022/3/10
メールもSNSもなかった子供時代、友達の引っ越しは世界が終わるかと思うほどの一大事で、走り去る車を笑顔で見送ったあと、部屋にこもってひとり、机につっぷし大声で泣いたことを『こぐまのクークものがたり ともだちと森のレストラン』(かさいまり:作・絵/KADOKAWA)を読んで思いだした。
友達はほかにもたくさんいるし、ひとりぼっちになってしまったわけじゃない。だけどいつも隣にいた特別な人の穴を埋めることは、ほかの誰にもできない。こぐまのクークがそんなさびしさを抱えるところからはじまる同作は、イラストを140点を掲載し、6~8歳向けの児童読み物として単行本化したもの。『魔女の宅急便』の著者・角野栄子さんも推薦する、優しくてあたたかい物語だ。
クークにとって、いちばんの仲良しは、同じこぐまのタミン。「今までありがとう」と言いたかったのに言えなくて、「さびしくない、さびしくない」と自分に言い聞かせながら家路を走るクークの姿に、冒頭から胸をきゅっとつかまれる。別れた直後、木の下にほんの少し残った雪にぺたっと手のあとをつけて「この雪、冬がわすれていったのかな」とつぶやくシーンも、とても美しくて、切なくなる。
そんなクークと一緒に遊ぶのが、こうさぎのサーハやこぎつねのゲンゲンといった、森の友達だ。「(心の)あなをうめるのは、時間よ」とサーハが言うとおり、「時間てさ、止まれって言っても、止まんないだろ。かってに、どんどんすぎるんだ」とゲンゲンが言うとおり、時間をかけてクークはさびしさを癒していく。あることをきっかけにゲンゲンとはけんかしてしまうのだけど、そんな友達と過ごす日常や森での発見を通じてクークはほんの少しずつだけど成長していく。
クークの心の穴を埋めてくれるのは、友達だけじゃない。森のレストランでコックをしているお父さんと、お母さんのつくる発明的なごはんも、だ。たとえば“じゃがいものあな”という料理。ジャガイモの中身を丸くくりぬいて、塩こしょうにバター、ケチャップ、それにしめじを詰める。そこに、とろけるチーズを小さくちぎって、隙間を埋めるようにたっぷり入れて、レンジであたためれば、できあがる。心に穴があくとすーすーして、泣きたい気持ちになってしまうけど、別の素敵なものを詰め込めば、ほくほくあったかい気持ちになれるのだというクークの心情にも重なり、子供も読みながら感情移入しやすいだろう。
色とりどりのドライフルーツを細かく刻んで、コーンフレークやチョコレートと一緒にアイスクリームにまぜて固めた“わいわいアイスクリーム”は、性格や考え方が違う友達とも、楽しめることを、さりげなく教えてくれているような気もする。
クークがさびしくなったとき、クークのお母さん、お父さんが優しい言葉をかけ、作ってくれるおいしい料理のレシピが4つ収録されている。どれも実際に子供とつくれる簡単なものばかりだから、食育にも役立ちそうだ。
著者のかさいさんが、生まれ育った北海道の広大な森の動植物に触れて、生みだされた物語。
各見開きに挿絵があるため、この春小学校にあがる子どもたちが、はじめてひとりで読んでみるにもぴったり。小学校低学年から楽しめる、上質な児童書である。
文=立花もも
書籍情報:『こぐまのクークものがたり ともだちと森のレストラン』KADOKAWA
https://yomeruba.com/product/322109000914.html