知っているようで知らない脊柱管狭窄症。その症状と解消するのに役立つものは? 『名医が答える! 脊柱管狭窄症 治療大全』
公開日:2022/3/14
「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」という病気をご存じだろうか? 家族や身近な人が患っている方を除けば、その言葉は聞いたことはあるけれど、実際にどんな病気なのか具体的にはわからないという方がほとんどではないだろうか。
だが、日本整形外科学会の調査(2010年)では、患者数は推計で350万人。高齢になるほど患者数は増えていき、70歳代では10人に1人が脊柱管狭窄症だといわれるほど身近な病気のひとつ。まだ若いからと安心してしまうのではなく、今のうちから正しい知識を身につけておきたいものだ。
そんなあなたに「脊柱管狭窄症がいったいどういう病気なのか?」そして、「どのように治療すればよいのか」をわかりやすく教えてくれるのが、『名医が答える! 脊柱管狭窄症 治療大全』(黒澤尚:監修/講談社)だ。
監修者の黒澤尚先生は、社会医療法人社団順江会江東病院理事長であり、順天堂大学医学部名誉教授。ひざの名医として知られ、ひざや腰の痛みを改善する運動療法を推奨している。本書でも脊柱管狭窄症の大多数を占める軽症~中等症の方に有効な、自宅で簡単にできる運動療法をくわしく解説してくれている。
歩いていて脚のしびれを感じたら要注意!?
・しばらく歩くと下肢(太ももからふくらはぎ、スネにかけて)がしびれたり、痛くなって歩けなくなるが、少し休むと治り、また歩けるようになる
・立っていると下肢のしびれや痛みがひどくなる
・下肢に力が入らない
・お尻のまわりにしびれやほてりがある
・便秘、頻尿、尿もれ、残尿感など、排便・排尿障害がみられる
このような症状が見られたら、脊柱管狭窄症かもしれない。
なかでも、脊柱管狭窄症の診断の決め手となる重要な症状が「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」だという。これは、しばらく歩くと腰やお尻から脚にかけてしびれや痛みが現れ、それが徐々にひどくなり、それ以上歩けなくなる症状。しかし、前かがみになるなどして休むとしびれや痛みが軽くなり、ふたたび歩けるようになる。この症状は、立ち続けたときに現れる人もいるという。
脊柱管狭窄症の原因は、背骨(脊柱)のなかにある脊柱管が狭くなり、そのなかを通る神経の束(脊髄、馬尾)や束から枝分かれした神経の根元(神経根)が圧迫されたり、神経への血流が低下したりすること。
脊柱管狭窄症を発症する原因は先天性、発育性、後天性の3つに分類されるが、ほとんどの場合、後天性だという。後天性の場合、加齢による影響がもっとも大きいが、運動不足や姿勢の悪さ、喫煙、肥満などの生活習慣も影響するという。例えば運動不足の方の場合、運動習慣のある方と比べて体幹の筋力が弱くなり、そのぶん背骨にかかる負担が増加。その影響が椎間板や脊柱管のなかの靭帯に及び、神経束や神経根を圧迫してしまうからだ。
しばらく休めば歩けるのだから問題ないだろう……と考える方もいるかもしれないが、脚のしびれや痛みがひどくなれば、思うように歩くことや物を運ぶことができなくなり、普段の生活が不便になってしまうことも。黒澤氏によると、手術が必要になる重症例はほんの一部で、大多数は薬や体操などの保存療法でよくなる軽症~中等症だというから、普段の生活を見直して運動を取り入れ、症状の改善をめざすことがよい対策ではないだろうか。
ストレッチングや軽い運動が効果的
脊柱管狭窄症は、排尿障害などの症状がなければ、すぐに手術はせず、保存療法から治療が始まるのが一般的だという。
保存療法には「運動療法」「薬物療法」「ブロック療法」「理学療法」の4つがあるが、なかでも重要なものが運動療法だ。軽症の場合は、運動療法だけで十分というケースもあるというほど。この運動療法と日常生活の工夫は、脊柱管狭窄症の発症時から行い、症状が改善しても、ずっと続けられるものだ。
・硬くなった筋肉をほぐす
・腰椎を直線化、後弯状態にする
・腹筋を強くする
・血流をよくする
・痛みやしびれが軽減する
この5つが運動療法の効果だ。もちろん運動療法の効果は、症状の程度や進み方によって異なるが、例えば「間欠性跛行で5分しか歩けなかったのが、10分にのびた」というように、運動療法を行えば、そのぶんのプラス効果が期待できる。
本書が解説する運動は、次のような流れになっている。
1 ストレッチング
・ふくらはぎのストレッチング
・腰から太もものストレッチング
2 ゆっくり体操《治療体操》
・ひざ抱え体操
・前後屈体操
↓
なるべく
・腹筋体操
↓
できたら
・ぶら下がり体操
・つかまりしゃがみ込み体操
脊柱管狭窄症では、腰や背中、お尻、太ももの裏側(ハムストリングス)、ふくらはぎの筋肉の柔軟性が低下し、それらの筋肉にこわばりやだるさがあるという。それを楽にするのがストレッチングの目的だ。後ろ脚のひざを曲げず、かかとをしっかりと床につけて行うことがポイントだという。
ゆっくり体操のひとつ、ひざ抱え体操の目的は、背中からお尻の筋肉を柔らかくほぐし、背骨の動きをよくすることと、腰の過剰な前弯(反りすぎ)をやわらげ、できるだけ直線から後弯(後ろへの弓なり)に近づけること。これによって、脊柱管が広くなるという。
これらの脊柱管狭窄症の改善に役立つ運動法だけではなく、本書では「受診すべきタイミング」「薬で治りますか?」「手術のタイミングと選び方」など、この病気にまつわるさまざまな情報が解説されている。一問一答で気になることを直接知ることができるのも魅力のひとつといえるだろう。
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本書のポイントは、自宅で、自分でできる運動で脊柱管狭窄症のつらさをやわらげるための運動療法の紹介にある。解説されているのは、どれも簡単に、わずかな時間でできるものばかり。もしかしたら脊柱管狭窄症かも……と感じている方はもちろん、親や兄弟など、身近に脚のしびれや痛みに悩んでいる人がいる方は本書を手に取り、ぜひ参考にしてもらいたい。
文=井上淳