コロチキ・ナダルが語る「やりたいことが見つからないと悩む人へのメッセージ」とは

文芸・カルチャー

公開日:2022/3/13

 SNSや他人の目ばかりが気になってしまい、どうしても本音で生きられない――。そんなモヤモヤした気持ちを抱えている人に読んでほしいのが、人気お笑いコンビ・コロコロチキチキペッパーズのナダルさんによる初の著書『いい人でいる必要なんてない』(KADOKAWA)だ。

いい人でいる必要なんてない
『いい人でいる必要なんてない』(ナダル/KADOKAWA)

 ナダルさんと言えばバラエティー番組で見せるゲスな振る舞いや“クズ芸人”のイメージが強く、本人も前書きの中で「巷ではクズやらモンスターやら言われている」と自虐気味に語っている。だが、この本の中でもう1つ語られるのは、ナダルさんが子ども時代に受けたいじめや家族への強い愛情。その経験を通して「自分を犠牲にしてまで、いい人でいる必要はない」と言い切るナダルさんに、本書の読みどころを語ってもらった。

※本記事は書籍『いい人でいる必要なんてない』から一部抜粋・編集しました。

ナダル
撮影=古川義高

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やっておけばよかったと後悔することだけはしたくない

――このエッセイを読むと、幼少期のナダルさんは真面目で正義感が強くて母親思いの少年だったんだ、という印象で意外でした。

ナダルさん(以下、ナダル):そうですね。母親からは“とにかくまじめ”に育てられてきました。「人に迷惑をかけてはいけない」「友達とは仲良くしないといけない」「安定した仕事に就かないといけない」。今の僕から想像できないかもしれませんが、子どもの頃はずっとそう思っていました。そのままでいたら、普通に就職して会社員の人生を歩んで、今のクズ芸人・ナダルはいなかったかもしれませんね(笑)。

――少年だったナダルさんにとって大きな出来事として、中学生時代のいじめ体験が綴られています。

ナダル:中学1年の期末テストでの出来事です。テストが始まる時間を過ぎているのに、ある女子が教室に入らずに少しでもテストが始まる時間を遅らせようとしていました。テスト勉強ができなかったからだったみたいですが、先生や生徒はイライラしはじめていた。僕はみんなを代表して「お前いい加減にせえよ。はよ入れや。勉強してないお前がいけないんやろ」と注意したんです。すると彼女は持っていた教科書を思いっきり床に叩きつけて、僕に言いました。「今入ろうと思っとったんじゃ」と。彼女は学年でリーダー格のような存在で、翌日から僕へのいじめが始まりました。

ナダル
撮影=古川義高

 そんなクラスメイトとの行き違いが原因で、中学3年間「キモいから息止めたほうがいいよ」などと女の子や同級生から冷たい視線を浴び続けました。僕は良かれと思って注意したつもりだったんですが、なんでもすべて正義感や正論が正しいわけではないと学びました。もっと別の言い方もあったんじゃないかと。今でもいじめられていた時のことを思い出すと言葉に詰まってしまうくらい、いじめの体験は僕にとって大きな出来事でした。

――もう1つ、就職した会社を辞めて芸人の道を志したことも、ナダルさんにとって大きな転機ですね。

ナダル:この本の中に収録した両親との親子対談でも書いたんですが「安定した仕事に就いてほしい」っていう親の期待はめちゃくちゃ感じていました。公務員や会社員になることが親を安心させるし親孝行にもなる、と考えていた僕にとって、それでも芸人になろうと決めたのは大きな決断だったと思います。

――公務員や会社員を目指していたはずが芸人の道へ進む。その時のナダルさんの心境はどんなものだったんでしょう?

ナダル:とにかくやってみたかった。やりたいことがあるんだからやってみたかったんです。これまでまじめに生きてきて、“両親を悲しませたくない”という価値観を優先してきた僕にとって、初めて自分自身で見つけたやりたいことだった。自信があったわけじゃないし「無理やったらやめよう」と思っていたくらいの決断ですが、やらないままだと後悔するということも強く感じていました。

ナダル
撮影=古川義高

自分のやりたいことは誰かに与えられるものじゃない

――NSC時代には現在の相方・西野創人さんとの出会いもありました。そのあたりの経緯や西野さんからの直筆メッセージも収録されていますね。

ナダル:テレビを見ている人には、コロコロチキチキペッパーズというコンビを引っ張っているのはナダル、という印象が強いかもしれません。でも実際のところはまったく逆で、相方の西野が僕を引っ張り上げてくれたんです。西野は7歳も年下ですが、相方には感謝してもしきれないです。

――やりたいことを見つけて相方の西野さんと頑張ってきたナダルさんですが、やりたいことが見つからないと悩んでいる人に伝えられることは?

ナダル:やりたいことが見つかっている人ってなかなかいないと思うし、なんならやりたいことがないっていうのも普通のことなんじゃないでしょうか。だからこそ、やりたいことを見つけるためにも、いろんなことに挑戦してみてほしいと思いますね。今まで興味がなかったことでも全力でやってみたら意外におもしろいっていう場合もあるし、自分の才能に自分でも気づいてないこともある。自分のやりたいことは誰かに与えられるものじゃないから、結局は自分自身で広げていくしかないんだと思います。

ナダル
撮影=藤井大介

取材・文=山岸南美