【祝・北京五輪金メダル/特別連載】平野歩夢がこだわりショーン・ホワイトでさえも断念した、前人未踏の挑戦

スポーツ・科学

公開日:2022/3/12

Two-Sideways 二刀流
『Two-Sideways 二刀流』(平野歩夢/KADOKAWA)※スノーボードverの新デザイン版

 二刀流宣言。
 それは平野歩夢選手にとって、自分自身との戦いの宣言でもある。
「誰もやっていないこと」
 平野選手が繰り返してきた言葉だ。

 スケートボードを始めたのは4歳のときで、スノーボードよりも半年早くスタートしている。二刀流宣言は今回が初めてではない。小学2年生のときに、天才スケートボード少年として取り上げられたテレビ番組では「スノーボードとスケートボードの世界一になりたい」とコメントを残している。スルーするわけにはいかないのだ。

 これまでもトレーニングの一環としてスケートボードは取り入れていたものの、競技としてのスケートボードからは10年以上離れていた。しかも通常のオリンピックであれば、4年の準備期間があるが、二刀流となると単純計算でも半分になる。もちろん、両者を同時に練習しなければいけない期間も出てくるし、出場する大会のスケジューリングなども段違いでシビアになる。もしかすると、スノーボードで金メダルを取ることよりも難しいかもしれない。

 平野選手のドキュメンタリーフォトエッセイ『Two-Sideways 二刀流』(KADOKAWA)の中で、その前人未到の挑戦について本人はこのように語っている。

※本稿は『Two-Sideways 二刀流』(平野歩夢/KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

自分にしかできない表現

Two-Sideways 二刀流

「スノーボードだけ極めていくほうがラクだとは思うんです。宣言当初はそもそも実現できる要素もほぼないような状態だったし、知らない世界に飛び込むこと自体に不安はありました。でもチャレンジとは、そもそもそういうものだと思う。失敗をしていくこと、それを積み重ねていくこと。それを自分の糧にする」

 それは、平野選手のスノーボードでのライバルであり、オリンピックで3度金メダルを獲得しているレジェンド、ショーン・ホワイトでさえも、途中で断念せざるを得なかった前人未踏の挑戦である。

「昔から自分にしかできない表現というものにこだわってきました。そういう意味では、この二刀流というのは自分にとってすごく大きい。もちろん苦労や不安もたくさんありますが、そんな経験ができるのは二刀流に挑戦している自分だけ。スノーボードだけを続けていたら、スケートボードに挑戦することで感じる不安や、自信のない部分って味わえないと思うんです。またチャレンジャーの立場でゼロから上を目指すことで、今後スノーボードに戻るうえでも初心だったり、挑戦だったり、そういう面にも再び意識が行くようになるのかなという期待もあります」

 二刀流に取り組むことによって、新しい世界を見てみたいという想いは強い。スノーボードでは世界のトップ選手として不動の地位を得ている現状に満足せず、つねに“もっと”を追い求める。そんな求道的な姿勢も平野選手の魅力のひとつ。滑りだけでなく、その生き方もチャレンジの連続だ。

Two-Sideways 二刀流

Two-Sideways 二刀流

「スノーボードで競技を主眼に置くと、当然、勝つことがとても重要になってくる。自分と、ではなく他人と競うことがメインです。それによって得てきたものも多いのですが、一方では自分と向き合う、自分のしたいことをする、という面はどんどん薄くなってきている。俺は自分との戦いも大切に考えているので、スケートボードというほとんどゼロからの挑戦をすることで、そこがより明確に見えてくるんじゃないかという期待はありました」

 人はついつい、楽なほう、得意なもの、知っていることに寄って行きがちだ。でも平野選手は違う。これまでの実績にあぐらをかくことなく、つねに先へ、より高く、未知へと繋がる道を選ぶ。それがたとえ厳しいものであっても、それを自分の成長の糧だと信じ続ける。

 東京オリンピック開幕直前、「宣言した当時の自分に向かっていま、言葉をかけるとしたら?」と質問をすると、彼は少し考えたあと、一言こう答えた。

「間違っていない」

Two-Sideways 二刀流

Two-Sideways 二刀流

写真:篠﨑公亮

【著者プロフィール】
●平野 歩夢:1998年11月29日生まれ。新潟県村上市出身の22歳。2014年ソチ五輪、2018年平昌オリンピックのスノーボード・ハーフパイプ競技において2大会連続銀メダル獲得したトップアスリート。2021年の東京オリンピックではスケートボード、2022年北京オリンピックではスノーボードで出場という前人未到の横乗り二刀流に挑戦。北京オリンピックの男子ハーフパイプ決勝では人類史上最高難度の大技を決め、金メダルを獲得している。

<第5回に続く>