『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る⑨(緒方智絵里編):大空直美インタビュー

アニメ

公開日:2022/3/11

緒方智絵里
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトがスタートして、2021年で10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第9回は、2013年から緒方智絵里役を担当し、TVアニメや数多くのライブにも出演してきた大空直美に、話を聞かせてもらった。

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智絵里ちゃんもガッツを出して頑張っているから、一緒にだんだん自信をつけていった気がします

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』が昨年、10周年を迎えました。大空さんは、年末の愛知公演(「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th ANNIVERSARY M@GICAL WONDERLAND TOUR!!! CosmoStar Land」)のMCで、ボイスが緒方智絵里に付いた日が13年6月30日だった、という話もしていましたが、まさに10年近く関わってきて、プロジェクトが10周年を迎えたことについて、まずは聞かせてください。

大空:はい。振り返ってみると、「えっ、もう10年経った?」というくらい、一生懸命に日々を過ごしてきたような気がしています。愛知公演では、1日目も2日目もアンコールの前に、これまでのライブのキャストたちの映像がダイジェストで流れて、それを観たときに、「ほんとに10年経ったんだなあ」って、急に実感が湧きました。765プロさんから始まる『アイドルマスター』の10周年ライブ(「THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!2015」)の西武ドーム(現:ベルーナドーム)のステージにも出演させていただいて、先輩たちはリハからすごい気迫だったんです。あのときの先輩たちのようにわたしはカッコよくなれてるかしら、と思うし、『シンデレラガールズ』がもう10周年なんだ、という驚きと感慨深さとともに、カッコよくあらねば、と思いました。

――年末の愛知公演は、10周年をお祝いする意味合いもあったわけですが、大空さんの中で特に思い出深かったことは何ですか?

大空:残念ながら愛知公演は一度延期になったので、「会いたかったのになあ」ってすごく残念に思う気持ちから始まって、こういうご時世の中で、ステージの幕が上がって、目の前にペンライトを持ったプロデューサーさんたちがいるのを見たときに、なんか涙ぐんじゃったんです。たくさんのプロデューサーさんが、10周年のお祝いをするために駆けつけてくれたり、画面の向こうで待っていてくれた皆さんもいるし、すごくグッときました。その中に参加させてもらってるのが、ありがたかったです。

――ライブを終えてみて、気持ちの変化などはありましたか。

大空:キャストはみんなそうだと思うんですけど、今回ソロ曲でとても華奢なワンピースを着ることになっていたので、めちゃくちゃダイエットを頑張りました。だからライブが終わって、好物のカップ焼きそばを食べました(笑)。ライブ前は自分を律していて――智絵里を太らせるわけにはいかないので(笑)、つらかったけどそこは我慢して、終わってからモリモリ食べました。

――モリモリ食べたんですか(笑)。

大空:もう、それはモリモリと(笑)。やっぱり自分の中でも、智絵里として歌うには、少しでも智絵里と近いほうが気持ちも入るので、ジムにも行ったし、絞るように頑張りました。

――緒方智絵里と出会ってからも10年近くになると思いますが、最初の彼女の印象と、楽曲の収録やTVアニメでのお芝居を経て、印象が変わった部分について教えてください。

大空:新人の頃、元気なキャラクターを担当することが多かったので、最初はすっごく元気なアイドルの役でオーディションを受けたんです。それからときが経って、「今度は緒方智絵里ちゃんという、かわいらしいアイドルですよ」と資料を見たときに、「ええっ?」ってビックリしました。こんなに可憐で細くて、天使のような――健気で、ちょっと弱気で自信がなくて、天使のような女の子をわたしが演じていいものかって思いました。だから最初は守ってあげたい感じだなあって思いながら歩んできたんですが、苦手なことにも一生懸命取り組む姿を見ていると、「けっこうガッツがある子なんだな」って、ちょっとずつ印象が変わっていった気がします。

――ガッツがある。

大空:はい。TVアニメの『シンデレラガールズ』で、バラエティやお笑いの勉強をしたり、今までにない挑戦にも前向きに取り組んでいて。初期の頃はプロデューサーさんがいないとダメというか、プロデューサーさんを頼っていたり、「わたしなんか」みたいな後ろ向きな発言をしていて。「家族の中で寂しい思いをしている」という印象があったんですが、プロデューサーさんと出会ったことでちょっとずつ前を向けるようになっていったと思うので、すごく成長したと思います。

――緒方智絵里を演じていて楽しいと思う部分と、難しいと思う部分、それぞれについて教えてください。

大空:楽しいと思うのは、プロデューサーさんに対して感謝を伝えたり、わたし自身と同じ気持ちを表現しているときです。難しかったのは、たとえば2曲目のソロ曲“cherry*merry*cherry”を歌ったときですかね。元気で明るくて、遊園地デートではしゃぐ恋心、みたいな内容の曲なんですが、わたしの中では自信がなくて引っ込み思案な子、のイメージがあったから、元気に明るくキュートであることを追求するのが難しくて、その塩梅に苦労しました。《どんなわたしも 受け止めてくださいね》という、すごい歌詞があるんですけど、「どんなわたしでも受け止めてくださいね」なんて言えるようになったんだ!と思って(笑)。ずっと、「見捨てないでください」と言っていた子が、こういう歌詞を歌えるくらいの成長があったんだ、と思いました。でも、この曲があったから、元気で明るい智絵里の幅が広がったと思います。

――なるほど。

大空:智絵里は、わたしが思っていたよりもすごく元気だった(笑)。そこから、幅がどんどん広がってる感じがあるかもしれません。

――もう1曲のソロ曲“風色メロディ”も、歌詞が素晴らしいですよね。プロデューサーの皆さんとの絆を確かめられるような歌詞であり曲なんじゃないかな、と思うんですけども。

大空:智絵里として初めてレコーディングした曲でもあるので、とても思い入れがあります。愛知公演のMCの中でも少しだけ触れることができたんですけど、解釈が変わってきた気がしていて。最初にレコーディングしたときって、プロデューサーさんが智絵里を見出してくれた感謝と、少女の恋心みたいなところ――《あなたがくれたほほえみ 握ってくれた手》とか、恋心とプロデューサーさんへの感謝を伝える曲だと思いながらずっと歌ってきたけど、今回10周年で久しぶりに歌ったときに……なんか、これまでの10年が詰まっているような曲だなって思ったんです。

 1番は、自信がない中でも頑張っていく気持ち。2番は前を向いていて、智絵里ちゃんの10年の中での気持ちの変化や、彼女の歩んできた道とも重なる部分が多くて。なんだろうな、すごいですよね――語彙力(笑)。10年後、なんで智絵里がこうやって成長するとわかったんだろうって思います。10年間の智絵里の成長が詰まっていると思ったんですよ。けっこうガッツがある部分も、《今はまだ見上げてる空 いつか翼を広げて》という歌詞に表れていて。“風色メロディ”がリリースされた後の物語も2番の歌詞に入っているような気がして、不思議な曲だなって思いました。プロデューサーさんが智絵里をアイドルにしてくれたから今があるって、10年経ってから歌えるのはすごいことだなって思いますし、10周年とリンクしました。わたしも「ありがとう」って心から思いましたし、“風色メロディ”の中で「ありがとう」が言えてよかったです。

――ものすごくエモーショナルな話になってきましたね(笑)。

大空:(笑)歌うときに、ジーンときちゃいました。「10周年のライブでこれが歌えるって、すごいことじゃない?」と思いながら歌ってました――もしかしたら、思い入れが強すぎるかも(笑)。すごく好きな曲です。自分の声優生活とリンクする部分もあって、その意味でも特別ですね。わたしも声優になって、今年の4月で10周年になるんですが、2012年にデビューして、2013年から智絵里ちゃんを演じることになったので、ほぼ『シンデレラガールズ』とともに歩んできた感じなんです。

――『シンデレラガールズ』と関わったことで、大空さん自身が変化できた、成長できた、あるいは「自分にはこんな一面があったのか」と気づいたことってありますか?

大空:初期の頃は、わたし自身にも智絵里ちゃんに近い部分がありました。あまり自信がない、といいますか。「わたしがこんなにかわいい子を演じていいの?」「わたしみたいなヤツがこんな天使みたいな美少女を演じるなんて、許されないんじゃないか?」と思っていたので(笑)。自分のことをあまりよく思えないというか、弱気になっちゃう部分があったし、プロデューサーさんたちを裏切るわけにはいかないと思っていたので、智絵里ちゃんとしてステージに立つときは、「なるべく大空直美の人格を出さないようにしたい」って、初期の頃は思っていました。ガッカリさせたくなかったし、プレッシャーもあったので、わたし自身も弱気で自信がなかったですけど、ステージに立って、みんなから感想をいただいたりすることで、ちょっとずつ自信をつけてきたのかな、と思います。もちろん自信満々とはいかないけど、「自分なんか」って思う考えはなくなった気がします。

――その気持ちの変化は、緒方智絵里を演じてきたからこそ、な部分もあるんでしょうか。

大空:そうかもしれないです。智絵里ちゃんも前向きだし、わたし自身も智絵里ちゃんに引っ張ってもらったところもあるかもしれないです。共演者の方、たとえば五十嵐さん(五十嵐裕美、双葉杏役)に「芝居、上手くなったね」と言ってもらったり、身近な仲間たちに「ここがよかったね」と言ってもらったりして。智絵里ちゃんもガッツを出して頑張っているから、一緒にだんだん自信をつけていったような気がします。

大空直美

大空直美

これからも、智絵里とずっと一緒にいたい

――『シンデレラガールズ』に関わる方は皆さんとても熱い気持ちでプロジェクトに向き合っていると感じますが、大空さんから見て「この人の『シンデレラガールズ』に懸ける気持ちはすごいなあ」と感動したエピソードがあれば、教えてください。

大空:わたしの中でズゴーンときたのが、すみぺさん(上坂すみれ。アナスタシア役)が、アナスタシアとして歌うことの責任について語っていた言葉です。「上坂すみれとして歌う」ではなくてアーニャちゃんとして歌う、「わたしが間違えたらアーニャが間違えたことになっちゃうから、アイドルを背負ってることの責任と自覚を持つ」というお話をされていたときに、「『アイドルマスター シンデレラガールズ』ってそういうことなんだ」と思いました。今は、わたしもそう思っています。ステージに立ったら一心同体と思ってやっていきたいし、プロデューサーさんに智絵里ちゃんの気持ちをお届けしていきたいです。そういう意味でも、『シンデレラガールズ』は特別かもしれないです。わたし自身は自分のことを声優、智絵里ちゃんの声を担当している人だと思っていたけど、『シンデレラガールズ』においては、声だけじゃなくて、頭のてっぺんから指先まで、全部の表現が大事なんだなあって思ってビックリしました。すべてシンクロするくらい一緒でありたいな、と思います。

――ライブをしていて、緒方智絵里と一体になれていると感じますか?

大空:そうですね、すごく素直にそう思います。歌っているとき、パフォーマンスをしてる最中は、そう思うことが増えてきたかもしれません。「プロデューサーさん、ありがとう」と感謝を伝える歌詞があると、特に感情移入しちゃいます。もしかしたら、わたし自身も智絵里ちゃんと近い気持ちの成長のしかたをしているかもしれないから、そういう意味では勝手にシンクロしているところもあるかもしれないです。自然、涙が出てきたりもしますし。

――今回の特集では、富田美憂さんの取材もしているんですが――。

大空:美憂ちゃん!

――Twitterでも「そらそらさんが~」って、大空さんのことを書いていたりするから、大空さんへのメッセージをもらいました。「親戚のお姉ちゃんのようで。なんでも相談できて、なんでも話せる先輩です。ライブでご一緒するときは安心感があるし、一緒に仕事ができて嬉しいです」とのことで、大空さんから富田さんにメッセージのお返しをお願いしたくて。

大空:もう、美憂ちゃんのことがかわいくて仕方がないです。美憂ちゃんは「親戚のお姉ちゃんのようで」と言ってくれますけど、わたしも親戚のお姉ちゃんだと思っています(笑)。血は通ってないけど、通ってるような気がしてます、勝手に。美憂ちゃんが高校生だった頃から一緒にレギュラーの収録をしていて、そのときから知っているから、キラキラしていてかわいくて仕方がないし、SNSでいい写真があったら保存やお気に入りをしたりするくらい、とても好きです。

――それはだいぶ好きですね(笑)。

大空:(笑)現場で会うたびに「美憂ちゃん、またきれいになって~」って言っちゃいますね。役者としても、すごく尊敬してるんですよ。とってもカッコいいんです。ライブのパフォーマンスも素晴らしいし――だけど意外とライブの前日に眠れなかったり、そういう繊細なところもあって、でも不安なところを見せないところも尊敬しています。美憂ちゃんは天才で――努力家で天才って、すごくないですか? あと。横顔がすごくきれいなんです。見た目もかわいくて、お芝居も素晴らしくて、歌も上手くて、超人です。

――楽曲についてですが、ソロ曲以外で大空さんのお気に入りの曲、ライブで歌うとグッときちゃう曲はありますか?

大空:TVアニメの『シンデレラガールズ』に“M@GIC☆”という曲があって、その中の歌詞の《だってシンデレラはがんばりや、でしょ?》がすっごく好きです。レッスンしているまわりのみんなのことを見ているから、ほんとにそうだなあ、と思うし、グッときます。実際に、みんな本当に頑張り屋さんで、忙しくて時間がない中でも、プロデューサーさんに向けていかにアイドルとして届けられるかを考えているし、レッスンの風景も伝えたいと思うくらい頑張っています。

それと、曲としてグッときちゃうのは“メッセージ”です。全体曲として歌ったり、大人数で歌うことが多い曲ですけど、第3回シンデレラガール総選挙で上位のアイドルたちが歌う曲なんですね。そこに智絵里ちゃんも参加させてもらっていて、プロデューサーさんが智絵里に贈ってくれた曲、という認識があります。だから思い入れもありますが、ライブではあまり歌う機会がなくて。いつかまたステージで歌う機会があれば嬉しいです。

――長い時間を一緒に歩んできて、これからも一緒に歩んでいく緒方智絵里に、大空さんからかけたい言葉はなんですか?

大空:一番言いたいのは、「これからもずっと一緒に、よろしくね」です。智絵里もアイドルとしていっぱい活動してきて、まだまだやりたいことや叶えたいことがあると思うし、わたしも声優として叶えたいことがあるから、智絵里と一緒にやっていきたいです。これからもずっと一緒にいたいから、智絵里がキラキラできるように、体力作りも頑張ります。

――一緒にいるために、焼きそばを控えないといけないときもありそうですね(笑)。

大空:そうです、智絵里が太らないように、摂生します(笑)。

取材・文=清水大輔