主役モビルスーツはなんとジム! 名作ゲームが原作のサイドストーリー『機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーの落ちた地で』
更新日:2022/3/22
みなさんはセガ・エンタープライゼス(当時)のゲーム機「ドリームキャスト」用ソフトで、1999年に発売された3Dシューティングゲーム『機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…』をご存じだろうか? 一年戦争末期のオーストラリアを舞台に、地球連邦軍の量産型モビルスーツ(以下MS)を操ってジオン軍と戦うという内容なのだが、ミリタリー感の強さと設定の渋さで、ガンダムゲームの名作のひとつに数えられる作品である。
本稿で紹介する『機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーの落ちた地で』(才谷ウメタロウ:漫画、矢立肇・富野由悠季:原作、バンダイナムコエンターテインメント:協力、徳島雅彦:監修/KADOKAWA)はその名作ゲームをベースにしたもの。こちらももちろん、登場するMSは「RGM-79ジム」を中心にした量産型ばかりで、しっかりとゲームのよき渋さを踏襲している。
ちなみにガンダムタイプのMSは一切登場しない。そしてキャラクターもニュータイプではなく、戦局や軍上層部に運命を翻弄される一般の兵士たちの物語なのだが、これが本作の最大のポイントだろう。戦争が終局を迎えつつあるなか、地球連邦軍とジオン公国軍内双方の混乱や謀略も丁寧に描いており、一年戦争の裏側を楽しめる、ファン垂涎の作品なのである。
2022年3月現在、雑誌『ガンダムエース』で『機動戦士ガンダム ピューリッツァー ―アムロ・レイは極光の彼方へ―』を連載している才谷ウメタロウ氏が描いたガンダムサイドストーリーを紹介したい。
描かれるのは一年戦争末期、コロニーが落ちた地を舞台にした戦い
宇宙世紀0079、11月。地球連邦軍のオデッサ作戦が成功したのちの、オーストラリア戦線が本作の舞台だ。
劇中のオーストラリアは、ジオン公国軍による「コロニー落とし」で壊滅的な被害を受け、グラウンド・ゼロと呼ばれている。他のガンダム作品でもたびたび描かれていたその地には、ジオン地上軍の拠点があり、部隊が展開していた。連邦軍はオデッサの勝利の勢いにのり、反攻作戦をスタートさせる。
物語は連邦軍の特殊遊撃MS小隊「ホワイト・ディンゴ」の視点で描かれていく。彼らは、隊長のマスター・P・レイヤーをはじめとした腕ききパイロットの技量と連携により、MS3体のみで最前線を渡り歩いていた。ある日、連邦軍上層部からの特別な命令が下る。
それは地質学者の女性、オリヴィア・グラントを「ホワイト・ディンゴ」に同行させるというものだ。彼女は戦場の最前線で、コロニー落としによるオーストラリアの汚染状況調査を依頼されていた。表向きはであるが……。
レイヤーたちは連邦軍の本隊とは別の作戦任務を与えられ、オーストラリアを進む。その前に幾度も立ちふさがるのが「荒野の迅雷」と呼ばれるジオン軍のヴィッシュ・ドナヒューと、その部下たちだった。
レイヤーとドナヒューはお互いを意識する。ときには戦い、ときには直接交信し、一時的に休戦することもあった。エースパイロットでもある二人に共通するのは軍人としての矜持と、仲間を生き延びさせたい思いだ。
じりじりと一年戦争が終局へ向かう中、「ホワイト・ディンゴ」と「荒野の迅雷」の前に、共通の敵となるジオン軍の特殊部隊「マッチモニード」が現れる。彼らはザビ家の長女・キシリアの直属で、目的のためなら友軍を攻撃することもいとわない。
「マッチモニード」は秘密兵器「アスタロス」とともに、オーストラリアから宇宙へ戻ろうとしていた。そのときオーストラリアのジオン軍は「月の階段」という名の最終作戦に向かって動きだす。連邦軍を含む三者三様の思惑が絡み合う中、レイヤーたち「ホワイト・ディンゴ」と、「荒野の迅雷」ドナヒューの部隊は最後の戦いに挑む。
本作の主役MSは「RGM-79 ジム」とそのバリエーション!
「ホワイト・ディンゴ」の3人が搭乗するのは「RGM-79 ジム」とそのバリエーション機である。最初にも書いたが、ガンダムタイプのMSは本作には登場しない。あくまで主役MSはジムなのである。
ジムはガンダムの量産機でさまざまな作品に登場するものの、いわゆるやられ役となることがほとんど。単体での性能はジオン軍のMSにも劣る部分がある。しかしジムは操縦しやすく、装甲は薄いがそのぶん軽量で機動力があり、何より汎用性が高いため、本作ではその特長を生かした描かれ方をしているのだ。
レイヤーたちは、綿密な戦略をねり、さまざまなジムの装備や武器を使いこなし、絶妙な連携で次々と作戦を遂行していく。さらに「ホワイト・ディンゴ」には「RGC-80 ジム・キャノン」「RGM-79SP ジム・スナイパーII」といったバリエーション機も配備される。
私はこれだけジムが活躍する作品を他に知らない。量産機をカスタマイズするところや、高いとはいえないスペックでも腕ききのパイロットたちが操縦技術でそれをカバーし連携して敵を撃破していくシーンが連続し、メカ好き、MS好きにとってはたまらないだろう。
ガンダムもニュータイプも出てこないは、当時“ドリキャス”でゲームをしたことがある人には懐かしく、そうでない人には新鮮に感じる一年戦争譚。リアルでミリタリー色が強く、そして地上戦のガンダム作品がお好みならぜひ手に取っていただきたい。そしてジムに乗りたくなる……かもしれない。
文=古林恭