「本当につらいことからは逃げなくてはいけません」児童精神科医が解説するしんどい心をラクにする技術

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公開日:2022/4/8

10代のための疲れた心がラクになる本
『10代のための疲れた心がラクになる本: 「敏感すぎる」「傷つきやすい」自分を好きになる方法』(長沼睦雄/誠文堂新光社)

 新生活がスタートするこれからの時期は、心がざわつく日が多くなりがち。新しい職場になかなか馴染めなかったり、学校に溶け込めない我が子の姿を目にしたりし、もどかしい思いに駆られることもあるだろう。

 そうした時、自分や大切な人の心を守る術を学べるのが『10代のための疲れた心がラクになる本: 「敏感すぎる」「傷つきやすい」自分を好きになる方法』(長沼睦雄/誠文堂新光社)だ。

 著者は、敏感気質(HSP/HSC)診療の第一人者でもある児童精神科医。多感な思春期を生きる10代の傷に寄り添う本書は、心をすり減らし続けている大人や我が子の守り方に悩む親の心にも刺さる。

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「ムカつく」「ウザい」の裏に隠れた本音と向き合おう

 本書は2部構成。第1章から4章では生きづらさを抱えた時に知っておきたい知識を漫画を交えながら紹介。ストレスの正体や現れやすい症状、近年、注目されることが増えてきた「HSP/HSC」の特性などを詳しく解説する。

10代のための疲れた心がラクになる本

10代のための疲れた心がラクになる本

 後半の第5章から8章には、心を楽にするための考え方や行動が具体的に綴られている。

 無性に腹が立ったり、どうしようもなく悲しくなったりした時、私たちは「ムカつく」や「ウザい」という、ありふれた言葉で感情を表現することが多い。けれど、その言葉で心が救われているかと考えたい。

感情をバケツに放り込むことが習慣になってしまうと、自分の気持ちをきちんと表現する言葉、きちんと伝える言葉は増えていきません。言葉が、頭のモヤモヤをスッキリさせるために有効な道具になっていかないのです。

 人間にとって、言葉を獲得することは成長の証で、言葉は伝えたいことを簡単に伝えられる大事な道具。言葉が豊かになると、心が落ち着いて穏やかになれる――。そう語る著者は言葉の大切さを知っているからこそ、使い慣れた言葉に逃げず、「ヤバい」ひとつとってみても、今の「ヤバさ」はどういうものなのかを考えてみてほしいと力説。

 さらに、口に出す言葉を変え、物事の受け止め方や自分を苦しめる思考の癖を変化させようとアドバイスする。

 例えば、ネガティブな思考をしてしまう人は「さかさまをやる」を意識。

「ムリ、できっこない」と思ってしまいがちなら、「ムリじゃない、できる、できる!」と声に出して言ってみる。「試験まであと3日しかない」ではなくて、「まだ3日あるんだから、覚えられることがたくさんある。大丈夫」と言うのです。

 この逆転の発想によるメリットは、不安感を軽減させるだけではない。

言葉を変えることで、違う自分に変われるという「うまくいった例」は、成功体験として脳に記憶されます。(中略)そういうことが増えると、不安の回路が弱まって、自分に自信が出てきます。

 心は言葉で変わっていく。そう気づくことは、「つらい」を手放す第一歩となるのだ。

限界な心をラクにする技術「ラク技」とは?

 真面目な人ほど、つらい状況に直面してもSOSの声を上げず、置かれた場所で頑張り続けようとしてしまうもの。けれど、そんな人こそ、噛みしめてほしい言葉がある。

本当につらいことからは逃げていいのです。いえ、逃げなくていけません、自分を守るために。生きてさえいれば、なんとでもなるのだから。

 著者はそう述べ、今この瞬間にもがんじがらめになっている人に向け、自分をラクにする技術「ラク技」を紹介している。

 その中でも個人的に刺さったのが、先の見通しをよくすることで不安を解消するというラク技。これは自分が苦しんでいる時はもちろん、家族が苦しんでいる時にも役立つ不安解消術だと感じた。

 例えば、我が子が学校に行けない状況になった時、親は子どもの状態を心配しながらも将来への不安から、余裕がなくなってしまうこともある。

 けれど、フリースクールの存在を知っていたり、「通信教育もある」と別方向での学ばせ方に意識を向けたりすることができたら、先の見通しが明るくなり、現状の受け止め方が変わる。学校に行く・行かないの間でもがいている我が子に第3の選択肢があることを伝え、背負っている苦しみを減らすことだってできるかもしれないのだ。

 こんな風に、自分だけでなく、大切な人の心を守るコツがたくさん知れるのは、本書ならでは。変えられないことに悩むのではなく、自分の意志や努力で変えられることに意識を向け、新しい自分を作っていこうと訴えかける本書は「変わる勇気」を持ちたいと思わせてくれる一冊だ。

 随所にちりばめられた著者の優しいメッセージで傷を癒しながら、今より笑える日常を築いていってほしい。

文=古川諭香