「学校が世界のすべて」になりがちな中学生時代、どう過ごしていましたか?『王妃の帰還』/佐藤日向の#砂糖図書館㊴
公開日:2022/3/19
“女の子”というのは内側に沢山の感情を隠して生きている。特に中学生はグループや仲間意識が強く、まわりと違うことをせずに空気を読むことで、学校で呼吸がしやすかったりすることがある。
今回紹介するのは、私が3月20日から出演させて頂く舞台の原作である、柚木麻子さんの『王妃の帰還』だ。
本作は、世界史好きの女子校中等部2年生・ノリスケこと範子が、クラスに存在する身分制度をフランス革命に喩えるところからはじまる。クラスのトップに君臨する王妃こと滝沢の権威が、首飾り事件ならぬ腕時計事件によって失墜し、地味グループに所属するノリスケ達と関わることで、少女たちが大人になっていく、という作品だ。
私は、中学生時代をどう過ごしたかで“大人”としての振る舞い方が変わるのではないかと思っている。思春期の影響力は、思っているよりも大きいのではないだろうか。
私は小学生の頃から芸能の仕事をしていたこともあり、中学に進学してすぐにまわりから一線を引かれ、所謂仲良しグループに所属ができなかった。私自身それを気にしているわけではなく、毎日違うグループの子と必要な時に話して「このグループはこういうルールがあるんだ」と私なりに分析して、楽しい中学生活を送っていた。
客観的に見ていたからこそつらい思いはしなかったが、やはり中学時代は学校が自分のすべてと錯覚してしまうこともあるため、居場所を探すのに必死になり、自分がひとりになるくらいなら誰かを蹴落とすことすら厭わないような、黒い感情に出会ってしまうのも、きっとこの時期なのだと思う。
本作で印象的だったのが「1人は怖いし、悪目立ちしたくない。笑われることを考えただけで、体が熱くなってしまう。これが私なの、と胸を張れるだけの個性も主張もない。足りない自分を補い合うために仲良しで固まることを、どうして悪いことのように言うのだろう。」というノリスケの言葉だ。「足並みを崩すと笑われる」「まわりと違うことをすると嫌われる」という考え方が、中学生の頃は学校全体に蔓延っていたりすることもあるだろう。その時期にグループにいないひとりの時間を経験するのは、実はとても大切なことだと思う。いざ大人になった時に、まわりに誰かがいないと不安になったり、貶すことでしか安心感を得られないのは、とても生きづらいからだ。グループに所属することで、出会える親友や仲間もいる。だが、相手との付き合い方や距離感を学ぶのも、きっと中学時代なのだろうと私は思う。
作中にある「どんな女の子だって教室を離れれば誰かの大事なプリンセスなのだ。」という言葉の通り、自分を見てくれる人は学校や職場以外にも必ずいる。自分で世界を狭めず、もっと広い視野を持って人生を思いっきり楽しみたい。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。