『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』『このあと どうしちゃおう』編集部の推し本5選

文芸・カルチャー

更新日:2022/3/22

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 ダ・ヴィンチニュース編集部メンバーが、“イマ”読んでほしい本を月にひとり1冊おすすめする企画「今月の推し本」。

 良本をみなさんと分かち合いたい! という、熱量の高いブックレビューをお届けします。

後悔しないための『このあと どうしちゃおう』(ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社)

『このあと どうしちゃおう』(ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社)
『このあと どうしちゃおう』(ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社)

 絵本作家の代名詞となったヨシタケシンスケさんが、デビューしたのは40歳。それ以前のイラスト集も含めると作品数は30を超える。4月1日には『あつかったら ぬげばいい』の姉妹版『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』を上梓する。ヨシタケさんの作品は、 “できない自分”“苦手な自分”に寛容だ。そのことを否定はしないし、いいこと、悪いことの2択で片づけたりもしない。いったん飲み込んで、じゃあどうしようか、と次の発想へと導いてくれる。そんなヨシタケ作品には何度も救われたのだが、中でもたびたび思い出すのが『このあと どうしちゃおう』だ。私事だが、生前一度しか会うことのできなかった義父の命日が近く、それを機にふたたび開いた。

 本作は、ご両親の死を経験したヨシタケさんが、人は死の間際になればなるほど、死について語れないから、その前に本音の部分を気楽に話せるきっかけになればと、描いた絵本だそう。ヨシタケさんらしいユーモアもたっぷりと含有されている。死=悲しみに直結しがちだが、本作は、故人が、死後どうしてほしいか、どうなりたいか、残された人たちがまるで想像もできないような世界や希望を思い描いていたり、恐怖を感じていたりしたかもしれない、と気づかせてくれる。もっと生前に話を聞けていたら……なんて後悔しないように、死と向きあうことを提案してくれる。

 2013年の『りんごかもしれない』の発表から9年が経とうとしている。その間ヨシタケ作品を通して、狭まりがちな視野を広げ、考え方が凝り固まった大人の自分に発想を転換する力を育ててもらったような気がする。きっとそんな読者も少なくないんじゃないかと思う。

中川

中川 寛子●副編集長。ブリアナ・ギガンテさんを取材する機会があり、遅ればせながら動画を見漁っておりましたらすっかり虜に。さらに個人的な話ですが…年代的にも何で好きなの?とはよく聞かれますが、今夏閉館してしまう「加山雄三ミュージアム」へ駆け込み訪問、隣接する堂ヶ島の青い洞窟を見に行きました。ここは日本か?という位綺麗でした。



大人になったから見えてくる大冒険の裏側『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(藤子・F・不二雄:原著、瀬名秀明:著/小学館)

『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(藤子・F・不二雄:原著、瀬名秀明:著/小学館)
『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(藤子・F・不二雄:原著、瀬名秀明:著/小学館)

 人生で一番多く観た映画は『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』で、その次は『ドラえもん のび太と鉄人兵団(以下、鉄人兵団)』(1986年公開)だ。『~のび太の宇宙小戦争』じゃないのかというツッコミはさておき、当時、いとこと映画館で、そしてVHSで文字通り擦り切れるくらい何度も観た。もちろん原作の漫画版も何度も何度も読んだ。とはいえ今は随分ドラえもん自体からも遠ざかっていたが、書店店頭で表紙に「ザンダクロス(劇中に登場するロボット)」がスタイリッシュに描かれた本書を見つけたときは、驚きと懐かしさのあまりすぐレジに持っていった。「文字だけで読むドラえもん」という体験は人生初で不安半分ではあったが、内容はほぼ原作や映画のままで、映画や漫画のあらゆる場面、台詞がありありと思い出されてうれしくなった。だが一つ大きな違いがあり、藤子作品のファンなら「あ!」と思うキャラクターが登場する。ストーリーの大筋に直接影響はないのだが、地球を守るために、でも人知れず鉄人と戦うのび太たちは、ママやパパにそのことを告げずに無断で家を空けることになる。もちろん学校にも行かないので大問題なのだが、そのキャラクターによって、子どもを信じて待つ親や大人の視点が描かれているのだ。親に隠し事をすることはもちろんよくないことだが、問題はそこではなく、大人たちは子どもを信じて理解してあげられているかという投げかけは、特に子どもがいる親たちにとっては考えさせられるところがあるのではないのかと思う。図らずも、今になってまたドラえもんから学びを得ることができた。

坂西

坂西 宣輝●おととしくらいから花粉症体質でだんだんひどくなっています。今は外に出ることが少ないのでまだ症状的には軽い気がしますが、こんなにつらいものとは……。マスクが必需品になったから「慣れ」という点ではまだよかったかと思いつつ、はやくいい空気をめいっぱい吸いたいです。


猫のやさしさと無邪気さがしみる『人間ちゃんと俺』(まどろみ太郎/竹書房)

『人間ちゃんと俺』(まどろみ太郎/竹書房)
『人間ちゃんと俺』(まどろみ太郎/竹書房)

「心配しないで、甘えていいぞ」本の帯に書かれているこの言葉は、主人猫(?)のススキが、“人間ちゃん”にかけてあげた言葉だ。何らかの理由で人がいなくなり、猫だけが残された無人島に漂着した(一人では何もできなそうな)人間をお世話してあげることにした猫のススキ。言葉が通じない1匹と1人は、ぼろ小屋の中で一緒に段ボールにくるまりながら夜を明かしたり、餌を確保したり、なんだかんだで生活していく。

 なにくれと、頼りない人間ちゃんを気にするススキの様子は、人間ちゃん側からしたら可愛い猫の行動ばかり。魚とりの網に爪をひっかけて邪魔したり、水に浸かる人間ちゃんが危ない! と騒いだり、猫飼い的には“あるある”な光景だ。え、じゃあうちの実家の猫が声をかけてくれてたのは、私を心配してのことだったりして……。ぼんやりしている時におでこをすりつけて膝に乗ってきた時は、かまってほしいのではなく「どうしたの?」と様子をうかがってくれていたんだったりして……。そんな風に「猫側の考え方」という新しい目線が自分に加わる。

「俺が一緒ならなんにも心配いらないからな」「(こんな撫でてきて)今日はやたら甘えんぼうだな」なんて、ススキは思考が明快で無邪気、かつストレートに愛情深くて、じわっと涙ぐんでしまう。人間ちゃんの事情が詳しくは明かされないところも想像がふくらむが、この1匹と1人の穏やかな時間がずっと続けばと願ってしまった。

遠藤

遠藤 摩利江●ずっと追い続けているコンテンツのひとつ、「Free!」の“最終章”と銘うたれた「『劇場版 Free!-the Final Stroke-』後編」の公開がいよいよ4月に迫り、どきどきしています。2013年に1期が始まり、ここまで足かけ9年。すごいことだなぁと今から胸がいっぱいです。楽しみ!!