SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第9回「拝啓、映画館様」

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公開日:2022/3/27

 映画館で映画を観るにあたって、守らなければならないことが幾つかある。「携帯の電源は切る」「前の座席を蹴らない」「おしゃべりをしない」「撮影をしない」など、劇場は本編を上映する前に、ユーモアをまじえて丁寧にお願いしてくれる。ルールというより、それはマナーという形で。

 映画の内容は自宅のテレビやパソコンの画面などで観ても同じだが、映画館は全てを含めて、そのものが「体験」だ。だから不快な思いをする人を減らすことが出来るマナーの提示というのは、体験そのものを守る素晴らしいことだと私は思う。

 しかし、もう一つ。守るべきマナーとして映画館様に提案したいことがある。

 それは私にとって、携帯で話しながら目の前の座席をガンガン蹴ってスクリーンを撮影するくらいに許せないことを、未然に防げる妙案なのだ。

 

 シネマコンプレックスというものが映画館の主流になりつつある昨今、昔に比べて明確に増えたものがある。それは来場する仲睦まじいカップルの組数、ましてやポップコーンの消費量などではなく、映画を観終わった赤の他人と過ごす時間だ。

 ミラノ座やスカラ座、武蔵野館。以前の映画館であればスクリーンが多くて三つ程度。建物自体も大きくないために上映が終われば即座に三々五々、速やかに散っていた。しかし複合映画館としてかなり大型になった昨今はどうだろう。上映後、同じ映画を観た他人とエスカレーターやエレベーターで、ある程度長い時間を過ごす羽目になってしまった。

 これ即ち、べちゃくちゃと感想を話し出す他人の感想を耳に入れてしまうリスクが大幅に増えるということである。

「最後の食べかけのピザのカットあったじゃん。多分だけどあれヒロインの心情のメタファーだわ。俺、あそこで泣いたもん」

「あれさ、前半のドライブのシーンは娘の死の暗示だったんだよね。ラストシーンまで俺気がつかなかった。くウ、俺情けねエ」

「んん、あの監督の悪い癖が出てたよね。男を主人公にするといつもこうなるっていうか。原作の出来がそもそも良いから駄作とまでは言わないけど、私的には65点」

 おい、お前。あとお前も。

 うるせエ。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中