いい人じゃなきゃダメですか? あらゆる社会問題や現象から「ニッポンの道徳」を考察するルポルタージュ!
公開日:2022/3/30
あなたは「『道徳』とは何?」と聞かれたらどう答えるだろうか。2015年から小中学校では「道徳」が正式教科となったが、導入の頃こそ「どう評価するのか」とか「何を教えるのか」とか、その是非が話題になったものの、今となってはあまり厳密に考えている人も少ないかもしれない。だが、ノンフィクション作家の高橋秀実さんの新刊『道徳教室 いい人じゃなきゃダメですか』(ポプラ社)は、そんな曖昧な「道徳」というものの正体にズバズバ切り込んでいく興味深いルポルタージュだ。
道徳の教科書を見ながら「みんなで考える」ってどういうこと? 「よりよく生きる」って何? 憤りまじりにつっこみながら、著者は「道徳教育の現状を知ろう」とリアルな教育現場に足を踏み入れる。そこで見たのは、決めつけを避け、さまざまな意見を交換することで自己の発見を促そうとする教師や研究者たちの奮闘であり、それをゲームのように「楽しむ」子どもたちの姿であり…。取材をすすめるほどに道徳の意味は混迷さを増すようだが、それでもどこか統一された感性の存在が浮き彫りになっていく。
取材対象はさらに、いじめ、ハラスメント、セックスレスといった社会問題や、AI、シェアリングエコノミー、VR、スマホ、エコバッグなど、現在の私たちの日常を語る上で欠かせない事物へ…。ユーモアあふれる著者の独特の視点でそれらの現状を分解していくと、そこには、教育現場で発見した「ニッポンの道徳」に共通する規範的感性のようなものが浮かび上がってくるのだ。
いつのまにか私たちは似たような感性を内面化している――そんなことに気づかされ、思わずハッとする。おそらく著者のナナメの目線がなければ「なんとなくわかるからいいや」と思考停止したままでいたかもしれない。果たしてあなたが感じるのはそんな社会への違和感か、安心か? いずれにせよ「そうした感性がある」ことには、用心しておいたほうがよさそうだ。